コンビニ魔術師は深夜シフトに生きる〜酔っ払い魔術師やら異世界迷子やら魔法犯罪者まで来るんだけど。時給アップしませんか?〜

さまたな

第1話 金欠大学生、深夜バイトを始める

この世界には魔術がある。


……あるというか、ありすぎる。

自動ドアは風魔術で開くし、信号機は光魔術で制御されてる。

コンビニの電子レンジは火属性の魔法陣でチンされるし、Wi‑Fiの電波は「風属性通信術」とかいうよくわからんもので強化されている。


現代科学と魔術が融合した結果、人類は便利を手に入れた代わりに、ちょっと間違えると家が丸ごと吹き飛ぶ時代を生きている。

だから、大学の必修科目には「魔術安全講習」がある。


魔法を暴発させた学生は、普通に停学になる。

過去には「課題中に爆発を起こした学生、研究室ごと消し飛ぶ」なんて伝説も残っている。


そんな魔法社会の片隅で、

俺――神谷陽翔(かみや はると)は、人生最大の問題に直面していた。


「金が、ない」


強調してもう一度言う。


「金が、ない」


財布を開いた。


千円札、一枚。

小銭、若干。

未来、ゼロ。


まるで財布が砂漠。水の代わりに現実が詰まっている。


なぜこうなったのか。

答えは簡単だ。

魔術研究サークル。


……あいつらのせいだ。

魔導書、クソ高い。

触媒、意味わからん値段。


先輩から「これは投資だから」と言われて買った魔石、ただの光る石。


「ってか、光るならまだマシだよな」


今ではその石、うちのトイレの芳香剤の隣でほのかに輝いている。


投資(インベストメント)の結果が、インテリアである。


友達の真壁(まかべ)に相談したときも、


「夜勤バイトすれば一瞬だよ。マジで楽だし、客来ないし」


と軽~く言われた。


――そう、“夜勤は楽”。


信じた俺がバカだったのか。

いや、まだ信じてる。少なくともこのときは。


「……バイトしよう」


現実逃避は終わりだ。

スマホで求人を漁る。


飲食、警備、魔術補助。

どれも条件が微妙に地雷臭い。


“魔法生物の世話(夜勤)”とか書いてあるけど、それ絶対ドラゴンだろ。


“魔力炉メンテナンス補助”とか、聞くだけで命の危険を感じる。

そんな中、俺の目に入ったひとつの求人。


『深夜コンビニバイト

客少なめ/時給高め/ほぼ立ってるだけ』


「……ほぼ?」


怪しい。


だが時給が高い。そして“立ってるだけ”。

いまの俺には、それが神の言葉に見えた。



面接の日。


場所に着くと、なぜか店の入り口が結界で囲まれていた。


魔除けの札、光の陣、そして

「夜間限定・防犯強化中」の貼り紙。


「深夜は基本的に暇だから」


店長は気さくに笑う。見た目は優しそうな中年だけど、肩からは微弱な魔力が漏れている。


「魔法使いも来るけど、まあ大丈夫」


「“まあ”って何ですか?」


「まあ……いろいろ」


全然説明になってない。嫌な予感しかしない。


「ほら、うち、場所がちょっと特殊でね」


店長が顎で外を指す。


そこには、交差点のすぐ脇――にもかかわらず、うっすらと歪む空気の壁があった。


魔力の濃度がやたら高い。


「“魔力溜まり”の上に建ってるんだよ。だからちょっと、夜になると……ね」


“ね”、じゃない。

完全にアウトなやつ。

だが背に腹は代えられない。金がすべてを押し流した。


俺はその場で採用された。



そして――迎えた、深夜シフト初日。


午前零時。

店内は静か。

棚の並ぶ音だけが響く。


「……あれ? 本当に楽じゃん」


レジに立って数十分。誰も来ない。


「これ、勝ち組では?」


そう思っていた。あの瞬間までは。

自動ドアが、音もなく開いた。

入ってきたのは、明らかに酔っ払い魔術師。

スーツ。


ネクタイ緩い。

魔力ダダ漏れ。


「うわ……」


見ただけで分かる。あれは酔いと魔力が混じった危険物。


案の定、次の瞬間――


バチィッ!!

レジ前で火花が散った。


「え、ちょ!?」


男の指先から、完全に制御を失った魔法が漏れている。

火花がスパークし、雑誌コーナーの“週刊魔導”が煙を上げた。


「……あぁ~手が……手がピリピリする~」


いや知らんがな。酔っ払いの手の感想なんてどうでもいい。


(落ち着け俺、これは想定内……多分)


男が使っている魔法は、大学の講義で見たやつだ。


――火花生成。

初級とはいえ、制御を誤れば火災案件。


俺の固有能力は“写呪”。


一度見た魔法を、そのままコピーできる。地味スキル。


派手さゼロ。

でも、こういうときだけは便利だ。

俺は魔力の流れをそのまま真似て、逆方向に流した。


バチッと音がして、火花はスッと消える。


「……あ?」


酔っ払い、呆然。



「お客様、魔術暴走してます。今日はもう帰ってください」


「す、すまん……」


男は深々と頭を下げ、ふらふらと店を出ていった。

静寂。

俺はレジに突っ伏した。


「……これが“楽”?」


どこが?

誰だ?

ーーーまぁまぁ たまたまだろ


レジの横のドラ猫型防犯AIがピコピコ光って「騒音注意」と表示した。


無機質な機械にまで諭される俺の人生。

午前一時。


再び静寂。

けれど今度は、嫌な静けさだ。空気がやけに重い。


「……なあ、誰かいる?」


返事はない。

でも聞こえる。微かな鈴の音。

チリン。

棚の奥。


カップラーメンの段ボールの影で、小さな何かが揺れていた。


「お客様ですかー……?」



出てきたのは、透けてるお姉さんだった。


「ごめんなさいねえ、ちょっと夜食を……」


「出るな! ってか透けてるって! お客様、幽霊ですよね!?」


「ええ、夜間限定で存在許可をもらってるの」


そんな制度あるの!?

幽霊のお姉さんはカップ味噌汁を抱え、ふんわりと浮いてレジに来た。


「こちら、温めますか?」


「いえ、私自分で温めます」


めっちゃ便利な霊力オーブでほのかに湯気を出している。


(なにこの時代……?)


幽霊が会計を終えて去ったあと、俺は再びレジに突っ伏した。


「……これ、普通?」


いや違う。多分ぜんぜん違う。


真壁が言ってた「楽な夜勤バイト」、きっと別の世界線の話だ。

その夜の締め。


三時を回るころ、再び自動ドアが開く。

今度はローブ姿の老人。


「すまん、魔力飲料“レッド・マナ”はどこかな?」


「奥の冷蔵ケースです」


礼儀正しいおじいさんだ――と思ったのも束の間。

老人がレジに来たとき、ポケットから転がり出たのは、拳大の魔石。

ボフッ!!


店内が一瞬、青い光に包まれた。


「えっ!? 今度は何!?」


「いやあ、安定化がまだ完全ではなくてねえ」


爆発音のあと、棚のスナック菓子が全部浮いてた。


「これ、どうすんですか……」


「心配せんでいい、三分で戻る」


そう言って指パッチン。


……三分後、スナックは全部床に落ちた。


「いや戻るって、重力が、ね? もっとこう……」


俺は無言で掃除用の魔法陣を起動した。


写呪。モップ掃除バージョン。

淡々と片付けながら、心の中で誓った。


――真壁、絶対許さねぇ。


午前五時。

空が白み始める頃、店長がやってきた。


「どうだった? 初日」


「ええ、まあ……ちょっと火花と幽霊と重力崩壊がありましたけど」


「おー、わりと静かな夜だったな!」


静かの基準が違いすぎる。


店長はレジ奥の魔導端末を確認し、「今夜は平和だったねぇ」と満足げに頷いた。

俺はその光景をぼんやり眺めながら、意識が遠のくのを感じた。


(これがこの店で、一番平和な夜……って、冗談だろ)


だが次の週、俺は知る。

この世界の“深夜”は、想像以上に騒がしい時間帯なのだと。

──そして俺の“楽な夜勤ライフ”は、まだ始まったばかりである。

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