逆転怪譚(ぎゃくてんかいたん)
神ノ谷ススム
能力探求編
第1話 幽霊が呼ぶ、運命の夜
父さんが”交通事故”で死んだ。
そこから何かが始まった気がする。
いや、もっと前から始まっていたのかもしれない。
なんだろう、最近いつも見るこの夢。
目を開ければ忘れるし、閉じれば思い出す。
何かが話しかけてくるけど、声は遠く、
海の底から響いてくるような声だ。
でもどこかで〈俺の名前〉を呼んでいる気がした。
よく幽霊に取り憑かれるなんてことを聞くが、
そんなことは起きないだろう。
……………絶対に。
今日も目が覚めた。
俺の名前は
現在母と一人暮らしで、通信制高校に通っている。高1だ。
二階の自分の部屋から出て、
気を付けつつも、急いで階段を駆け下りる。
朝食のパンをくわえながら母に声をかけた。
「行ってきます。」
仕事の準備中の母は軽く頷く。
父が生きていれば、もう少し賑やかになっただろうな。
父は中1のときに他界した。交通事故だった。
それからは別に特別なことなく、母もごく普通に生きている。
まあ、それが一番幸せなのかもな。
友達もそこそこ多い。けど、みんなちょっと変なやつばかりだ。
いや、変なのはむしろ俺なのかもしれない。
それもそのはず、今の世の中は
〜〜〜幽霊、妖怪ブーム〜〜〜だからな!
みんな仮装したり、「取り憑かれた!」なんてことを言うが、
俺は信じない。
見たこともないし、テレビで見る心霊現象はすべてAIだと思っているからだ。
…………妖怪はちょっと気になるけど。
俺のクラスはほとんどの人が信じてる。
学校にはちょっと遅れて登校して、
どういう妖怪、幽霊自慢が飛び出るのか遠目で見るのが楽しみでもある。
今日もごく普通の足取りで校門を通って
二階の教室に入り、自分の席へ座っていく。
パン!!
「いや、痛った。」
いきなり肩パンしてきやがった。
「よぉ、元気?」
俺が通信制で初めてできた友達、
こいつは幽霊、妖怪どちらも信じていて、毎朝俺に
「絶対いるって!!」
と存在を証明してくる。
《あと結構肩パンしてくる。》
性格はとても熱心で明るく、
クラスのムードメイカー、
いわゆる陽キャだ。
だが、今日は毎朝のように説得してこなかった。
不思議に思って蓮司の席に駆け寄り、
「どしたん?」
と俺が聞くと、蓮司が口を開いた。
「良い提案がある、一緒に心霊スポットに行k」
「無理」
俺は間髪入れずに即答した。
「なんでよー!幽霊信じないなら怖くないでしょ!」
「いや、暗いの怖いって。」
どうせ何も起こらないし、行くだけ面倒だから断った。
「俺が興味があるのは妖怪だけだ。」
すると蓮司は《予想通り》というニヤニヤした顔でこちらを見てくる。
「フフッ、そこも俺は考慮して妖怪と幽霊が混ざった心霊スポットがあるのですよ。」
「もーまじかよ」
「頼む!一回でいいから頼む!」
これまでで一番真剣なお願いだった。
いつもはヘラヘラしているがやるときはやる。
そういう男だ。
「…………わかったよ、でも見たらすぐ帰るぞ。夜も冷えるし。」
これを断って仲悪くなるのも嫌だし、
しゃーなし了承した。
「よっしゃー!じゃあ、今日心霊スポットに自転車で集合な!!」
喜んでいる蓮司を見て、
少し俺も笑ってしまう。
「ふむ、私も行かせてもらえないかな?」
ねっとりとした声。
振り向くと、眼鏡のクラスメイト、
彼は妖怪オタクで家には妖怪の模型や資料が山のようにある。
ちなみに好きな妖怪は座敷童子で、
唯一友達になってくれそうだから好きらしい。
《意外とぼっちなんだよな笑》
「無理だよ。これは二人で行く約束だ。」
蓮司は悩むそぶりなく、きっぱり断った。
「ですが、妖怪学会非公認メンバーの私が行けば、少しばかり怖さが和らぐと思うのです
が。」
悠人はメガネをクイッと整え、キメ顔を作る。
《何言ってんだコイツ》
悠人の考えてることは未だに理解できん。
「また今度でいいだろ!」
珍しく、蓮司が怒り気味だった。
「わかりました。」
驚いた。
いつもしつこい悠人がこんなにもあっさり食い下がるなんて。
でも、悠人は他の手段があるかのようにニヤニヤしている。
《いろいろ不安はあるのだが》
通信制は授業が終わるのが早い。
放課後は、みんなスポーツやバイトなどそれぞれの道に歩んでいる。
俺はというと全て失敗している。
水泳、ボクシング、バスケ、中学受験、すべて嫌になって挫折した。
全部俺から「やりたい!」と言って始めたんだけどね。
でも、高校の友達ができてから少し明るくなった気がする。
蓮司はどんな対応をしても優しく接してくれるし、
悠人はいつも教室の隅でニヤニヤしている。
この二人はあまり接点はないっぽい。
家に帰り、早めに夕食の準備をする。
お湯を沸かし、カップ麺に注ぎ込む。
いつも母が作ってくれるが、
今日は全く持って忘れていたらしい。
そして水と一緒に熱々の麺を胃袋に放り込む。
そして夕食を済まし、仕事中の母に
「夜、友達と遊んでくる」
と連絡を入れ、家を出ようとしたときだった。
「あ?」
思わず声が出た。
背を撫でるような冷たい風、体が重く、だるさがある。
しまいには、締めた窓のカーテンが風に吹かれたようにゆらいでいる。
《家には俺しかいない……………よな?》
そして声が出たと同時にあの夢についてなんとなく、思い出せた気がした。
だが、まだモヤがかかっているような。
鮮明に思い出せない。
頭痛がする。
頭を抱え、背筋が凍りついたその時。
スマホが震えた。
蓮司からのメッセージだ。
「もう出発しようぜ!俺は出たぞ!」
遅れると思い、急いで家を出た。
カーポートにおいてある自転車に鍵を挿す。
思い切りサドルに飛び込み、発電のように自転車を漕いでいく。
向かってる途中も何かがおかしかった。
周りの空気がずっと重い。
家にはおれしかいなかったはずなのに。
そしてこの日を境に俺の人生が逆転するなんて夢にも思わなかった。
というか思いたくもなかった。
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逆転怪譚(ぎゃくてんかいたん) 神ノ谷ススム @1116sy
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