ドールメイドカフェ

メメントユニコーン

第0話 ~genus~

秋葉原……夢と幻想の街──


「こんばんはーコンカフェどうですかー」


「ちょっとお兄さん、お時間ないですかー」


「新しくできたメイドカフェでーす。よろしくお願いしまーす。チラシだけでも貰ってください♡」


すっかり街の風物詩……を超えて宇宙からの侵略者かよ!というぐらい、やんちゃな声掛けをする女の子達も増えた秋葉原の街。多くはメイドカフェやコンセプトカフェと呼ばれるお店の従業員さん。メイドカフェならメイドさん、コンセプトカフェならキャストさんと呼ぶのが一般的かな。

いわゆる萌産業、アキバカルチャーのひとつだ。他にも、かつてはエウリアンと呼ばれ、一度店に入ると何かしら買うまで外に出してもらえないと噂の絵画などの販売店の店員さんや、海外版の怪しいゲームや謎のガジェットを売っているお店や露店も今では姿を変えて形を変えて……

完全に無くなったとは言い切れないけど、一般的なお店に……というか一発アウトだろという商品はさすがに姿を消したようにも思える。


いい意味でなんでもあり、この街にしかない体験。というものが街中に溢れ、〝唯一無二の街〟という表現が相応しい。

気が付けば、いつからか路面店は観光客向けの商品を並べ、刺激の強いイラストの広告を看板に載せたり道路から目につくところに陳列すると当たり前だが即ネットでバッシングされてしまう。

ルールに厳しいが最高に美味しい伝説の牛丼屋も健在だし呼び込みがいつも元気なケバブ屋さんもまだある。全てがなくなってしまったわけではないが変化する街であって、どういう時代の流れにも逆行する街ではない。

でもこれでいいのかとふと考える時もある。

もっと自由で、ここにしかない体験を私はこの街で求めているのかもしれない……


そんなことを考えながら歩いていた私は何かに引き寄せられるように一つの扉に手をかけた。


元々ここに向かって歩いていたのか、どこかに用があったのか、なぜだか忘れてしまった。


気がついたら目の前にメイドさん達が!


水色を基調としたメイド服にピンクのリボンやフリルのついたブラウスがとてもかわいいメイド服。


扉を開けた先は……ここはメイドカフェ? 


しかしなぜだか笑顔で迎えてもらっている様子ではない。

むしろ様子がおかしい。絵に描いたように皆びっくりしているようだ。


「こ、ここはベアトリクス5世の建てたお屋敷。現在の主人クラネス様のお部屋です。私たちメイドは旅に出られたクラネス様がご帰宅されるのを何年も何年もずっとここでお待ちしております」


一人のメイドさんが状況を教えてくれたことで、なんとなくではあるがここは何処なのかは分かった。ここにいるメイド達はどうやら主人の帰りを今か今かと待つメイド達のようだ。


「本来このお屋敷のご主人様とお嬢様・屋敷に支える使用人たちしか、このお部屋には入れない魔法が扉にかけられており、中に入ることはできません。ですが中に入れたということは、もしかしたらあなたは、このお屋敷に選ばれたのかもしれませんね。何が起きているのかは今はわかりません。分かり次第お伝えさせていただきますが、万が一の事態に備えて念の為にソウルの維持の魔法をかけさせていただきます」

「Âme, reste ici」(アーム・レステ・イスィ)

「はい。これで大丈夫です。ご安心ください。何か冷たいお飲み物でもお飲みになられますか?」

「じゃっじゃあアイスティーをください」


無意識でメイドカフェ?に入り、流れでアイスティーを注文してしまった。こんなところにメイドカフェなんてあったんだ。

店内を見回しているとユニコーンのぬいぐるみがトコトコこちらに歩いてきた。

真っ白でもふもふしていてとっても短足で小型犬のようなサイズ感のぬいぐるみだ。首元には可愛い水色のリボンが付いている。足にローラーがついていてサーッと動くようなチープな作りではなく足が四本しっかりと動いている。近づいて持ち上げてみると。

「わーっ急に持ち上げないで」

しゃっ喋るのか!凄いなー。ネットで猫のぬいぐるみ型のロボットは見たことあるけど喋る機能が付いていて、しかも今きちんと、状況に合った反応しなかった?こういうのは大抵お腹にマジックテープが付いていてベリベリ開けると中に電池や充電プラグを刺す穴がある。どれどれー?

「ちょっとー!くすぐったい。くすぐらないでー」

「あはは♪お待たせいたしました。〝あいしゅてぃー〟になります。可愛いでしょマカロンって名前だよ」


アイスティーを笑いながら持ってきてくれたのは金髪でボブカットのとてもかわいいメイドさんだ

「こちらのあいしゅてぃーこのままでも、とっても美味しいのですが、もっともっと美味しくなる魔法のおまじないがございます。一緒にやっていただけますか?」

「はい。よ、よろしくお願いします」

「人差し指を出してください。漢字の〝心〟を描くようにルンルンと美味しくなあれと動かします。次に指でハートを作って左右に萌え、萌え、きゅんです。それではいきますよ」

「美味しくなーれっ萌え萌えきゅ〜ん♡」


アイスティーがもっと美味しくなるおまじないをしてくれたメイドさんは、続けて自己紹介をしてくれた。

「申し遅れました。私、スピネルと申します。私たちはクラネス様のご帰宅を待ちながら、このお屋敷でお給仕している〝ドールメイド〟です」

ドールメイド?お人形ってこと?話せるぬいぐるみが歩いていたり、お給仕しているメイドさんたちはお人形?一体ここは……?

よくわからないところに来てしまったが、よくよく考えれはここは秋葉原、夢と幻想の街。こんなワクワクできる場所が街の片隅にあったとは。


今日からまた楽しくなりそうだ。

無性にそんな予感がした──

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