23話【暖簾に腕押し】



「なんだ、それ…?!まさか擬似能力か…!?」


釈迦堂の姿を見た竜崎は驚きの表情を浮かべた。


「軍事利用ですらまだなのに、なんでヤクザ風情に流れてるんっすか!?」


「どこからそれを得たの…!」


「答える、義理は、ネェな!!!」


燕の問いも虚しく、釈迦堂は刀から伸びた管に巻かれた腕を振り上げ勢いよく振り抜く。


「ッ!?まずいッ!!!」


釈迦堂の行動を察した竜崎が日本刀を構え咄嗟に前に出る。


ブン、と風切り音を発しながら振り抜かれた剣先から飛ばされる剣圧を竜崎は日本刀を前に構え受け止めた。


カタカタと震える日本刀を持つ竜崎の手は痺れたかのように脱力し、日本刀を落とした。


「チッ…剣圧飛ばすなんて漫画じゃねぇんだぞ…」


「竜崎さんッ!」


燕は[暁]の照準を釈迦堂に向けながら竜崎の前に立つ。


「榊の下で動いてることは今回は見なかった事にします…なのでここから立ち去ってください」


「立ち、され、ダァ?何様ノ、つもりなんダァ??」


「この人、様子がおかしくないですか?」


時陰がそう言い、釈迦堂に改めて目を向ける一同。

釈迦堂の腕や脇腹などに繋がった管からは一定時間ごとに血管が吸い上げられていた。

それに合わせて手に持っていた刀は徐々に赤黒く染まっていく。

そして全身の血管が浮き出て、今にも理性を失う様な眼をしていた。


「あの擬似能力の影響ってことかしら」


「どう考えても異常だろありゃ…」


竜崎はそう言いながらも再び刀を拾い上げ、立ち上がる


「グウゥァアァァッ!!!」


竜崎が立ち上がったと同時に釈迦堂は勢いよく迫り、刀を振る。


ギィィンッと刃と刃がぶつかる音を犇きながら竜崎は釈迦堂の一撃を刀で受け止めた。


その衝撃は周りに一瞬突風が吹き荒れた。


両者の鍔迫り合いは互いに語る間もなく、竜崎か押し負ける形で終わりを告げた。

体勢を崩した、竜崎に釈迦堂は追い討ちをかける様に刀を振り上げる。


竜崎はそれを追う様にしか見る事ができなかった。

その瞬間…


ズシャァ…


竜崎の肩から脇腹にかけて鮮血が噴き出る。


「竜崎さんッ!!!!擬似能力、解放ッ!」


燕はすぐに照準を構え、[暁]のトリガーを引く。

バチバチと音を立てた眩い閃光が光線の様に一直線に釈迦堂に向かっていく。

それは光の如く向かった。

しかし釈迦堂の反射速度はそれを刀で受け止めるほどに研ぎ澄まされていた。


「うそ、止められた…」


強力な擬似能力。

そう認識していた燕は、最も容易く止められた事に唖然としてしまう。


「消エろ!!」


釈迦堂は再び刀を構え、燕に迫っていく。


バンッ


しかし動き出した釈迦堂の顔面スレスレを弾丸が横切った。

高速で飛ぶ弾丸に気づいた釈迦堂はすぐに足を止め、弾丸の出所を探した。


辺りを見回した釈迦堂の視線の先には、燕達より離れた位置に移動していた村崎がライフルを構え立っていた。


「今!神室!!」


村崎が叫ぶと釈迦堂の懐に神室が体勢を低くして潜り込んでいた。


「バケモンみたいになっても人間の急所は変わらねぇんす!」


低くした体勢をバネの様に勢いよく上げ、釈迦堂の顎にアッパーを喰らわせる。


「さすがに、これはクリーンヒット…え」


しかし顎を拳で打ち抜かれた釈迦堂はすぐに神室を睨み、左拳で神室の顔面を殴り飛ばす。


「神室!!」


村崎は咄嗟にライフルを構え直すが、釈迦堂は刀を振り上げていた。


「ッ!また、あの剣圧?!」


「邪魔ヲするナ!!」


ライフルを盾にする様に、防御の姿勢を取る村崎に対して釈迦堂は変わらず刀を振る。


しかし先ほどの剣圧とは違い、振られた刀からは赤黒い液体が扇状に飛び、壁や床を始め、ライフルと村崎の身体にも付着した。


「なにこれ…血?」


ジュゥゥッ…


「熱ッ…!」


村崎が疑問を持ったその瞬間はその液体は付着した部分で熱し音を上げながら蒸発していく。


「ハァァァ!!!」


そんな中、燕がアサルトナイフを片手に釈迦堂へと向かって走っていた。


「王来王家さん!?何してるんですか!?」


「”暁”が効かないなら、接近戦で決めるしかッ!」


燕は滑り込む様に釈迦堂の懐に潜り込み、アサルトナイフを釈迦堂の首に向けて突き立てた。


ガシ…


「…え」


釈迦堂の首元目掛けて放たれたアサルトナイフの一撃は釈迦堂の左手によって刃を掴まれる形で失敗に終わった。


釈迦堂は理性を失いかけた眼で見下す様に燕を視た後、苛立ちを見せながらアサルトナイフごと燕を投げ飛ばし

倉庫入り口の壁に叩きつけた。


燕は声をあげず苦悶の表情を浮かべながら壁からずり落ちる様に地に伏せた。


釈迦堂の視線の先には現状によって竦みきった時陰がただ1人。

戦闘経験の無い時陰がただ1人…。



ーーーー当然よ


異能対策室に所属するまでも、してからも戦いとは無縁の人生だった。

後方支援が私の役目。

だって前までOLだったんだもん。


だから班長や、竜崎さん達に任せきり。


…けど、今はどう?

私しか今は立っていない。


なら、私が戦うしかない…



…無理よ。


出来るわけない。


異能者でもない人が目の前に居るのに、異能者よりも怖い。


ーーーー怖いよ



時陰はカタカタと震える手でリボルバー式の拳銃を構えた。

視線の先は釈迦堂。

だが照準はどこを狙っているのか見当もつかない。



ーーーー鼓動が早い


全身から血の気が引くのが感じる。

なのに脂汗がすごい。

立っているのかも分からない。

なのに重力が掛かってる感覚はある。


今、指はどうなってるの?

触っているのは銃?

引き金に指は掛かってるの?


思考が回らない。

頭がおかしいくらい何も考えられない。


鼓動が早い。

おかしいぐらい早い。


ーーーーまるで加速してるぐらい



「グぅッ…?!」


突然響いた釈迦堂の声に時陰は我に帰った。


「え、な、なに?」


時陰の視線の先には左肩から血を流す釈迦堂。


そして時陰の握る銃の銃口からは煙が吹いていた。


「え、あれ?私、撃てた…?」


「ハァ…ハァ…ナんだ、何ガ起きタ」


困惑していたのは時陰だけではなかった。

何故か撃たれたはずの釈迦堂さえも困惑の表情を浮かべていた。

それを見て更に謎が時陰の脳内に浮かんだ。


「い、いや疑問とかは後でいいわ。とりあえず一撃喰らわせたんだもん!私にもやれる…やれる!」


時陰は再び銃を構える。


しかし、意を決心したものの人は人。

簡単には飲み込めない。


時陰の手は再び震えた。


「ハァ、ハァ…だ、大丈夫!引き金さえ引ければ…ひ、引ければ!」


引き金に手をかける。


「ッ!まタ、サッきのか…!」


釈迦堂は刀を構え、警戒する。


「引き金を、引く!!!」


そして時陰は引き金をゆっくりと引いた。


バンッ


通常の拳銃よりも重い発砲音を鳴らしながら弾丸が発射された。


「!!!」


しかし釈迦堂の反射神経が弾丸を刀で受け止めた。


「嘘?!止められた…」


釈迦堂は刀によって潰れた弾丸を見つめ、その後自分の撃ち抜かれた肩を見る。


「…どうイうカラクリかは分かラナいが、まアいい…」


釈迦堂は肩の傷をモノともせず刀を構え時陰に向かって走り出した。


「撃たセなキャいい話ダ!!!」


「ッ!?つ、次は!」


震える手は猛スピードで向かう釈迦堂を照準に入れる事は困難を極めた。


バンッ

バンッ

バンッ


放たれる弾丸を釈迦堂は刀で受け止めたり、避けたりしながら促していく。


そして

カチカチと空音を出しながら、息をしなくなった時陰よ拳銃。


「た、弾切れ…」


弾切れを感じた時陰の表情は死を悟った表情を浮かべた。

すでに目の前には釈迦堂が刀を振り上げていた。


「時陰ッ!!!!!」


燕の振り絞った叫ぶ声が響く。


ゆっくりと目を瞑る時陰。



ーーーーあぁ、死ぬ。


私はここで死ぬ。


けど時間は稼いだ。

班長達ももう動けるでしょ?

後は任せちゃおう。


うん、悪い人生じゃなかったな。


……


…………あ、あれ?


長いな…

死ぬ時ってこんなに…



ーーーー


ゆっくりと目を開ける時陰。


「…え、あれ?」


死を悟ったのに死んでない現状に呆然とした。

そんな時陰の目の前には黒いスーツの上からファーのついたコートを羽織った大男が灰色の皮膚をした左腕で釈迦堂の刀を受け止めていた。


「若え奴が悟って腹ァ括ってんじゃねぇよ。」


「え?だ、誰??」


佐田原王芭さたはらおうば。元極道だ」


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