22話【妖】



大田区・城南島海浜公園。

飛行機の離発着を間近で見ることができる平和な公園。

異能戦争による被害も少なく、昔と変わった部分は見当たらない。


そんな平和なエリアに燕達が現着した。


燕達は瑠璃垣の情報を頼りに城南島海浜公園付近の倉庫へと歩みを進めていた。


陽も落ちかけ、街灯も少なく、夕暮れの陽が辺りを暗く照らす。


「さて、倉庫や工場街のこの数。どっから始めるか。」


竜崎は辺りを見渡しながら言う。


「手分けして探す?」


村崎が提案するが燕は首を横に振って続けて口を開く。


「榊昴がどういう異能を使うのかも分からない。別行動は危険ね。」


「とは言っても一個一個探してたら埒が明かないっすよ。」


と言いながら、神室は歩きながら倉庫を入念に捜索する。


「情報屋でさえ場所までは絞れなかったんだしな。奴が見つかるかどうか…」


竜崎がそう言いかけた瞬間、燕が何かに気づいたように反応した。


「何か聞こえる。」


「何って何すか?」


燕の言葉に声を立て反応するが、燕は口元に指を立て周りを静止させた。


耳を傾け、音を澄ましていくと聞き取りづらいが何かの音が細々と響いてきた。


「人の声だ…」


燕はゆっくりと辺りを見渡しながら声の流れる場所の方へと近づいていく。

竜崎達4人も警戒しながら燕の後ろを追い、それぞれ辺りを見渡す。


5人が少しずつ公園から港臨海道路側へ進むにつれその声の音は大きくなっていく。


そして5人は声の発生源の倉庫付近に辿り着いた。


「ここね。」


「…この声、榊の声ですね。」


時陰が確信めいて言った。


「よく分かるっすね時陰さん。」


「特技なの。人の声を鮮明に憶えるの。」


「…突入準備。」


時陰と神室のやり取りを聞いた後、燕は号令を出す。

それに合わせて4人は各々武器を構えた。


「突入!」


燕達は勢いよく倉庫内へと侵入する。


「ッ!!!?」


だが、その倉庫内の有様に燕達の勢いは失速した。


「なに…これ…!?」


その眼前に広がる光景は綺麗に並べられた死体の山だった。


「まだ腐敗しきってない…新しい遺体もある…」


竜崎達が死体に近づいた時時陰が声を発した。


「え。この人達…」


「…衆議院…設楽松雄したらまつお…」


「厚労省の参事官の山根楸子やまねひさこに野党の久道誠哉くどうせいやもいるっす…」


「こっちは女優の村田アンジュね。」


「全員最近起きている行方不明事件の被害者達…」


『なんだ、もう来たんですか…あの情報屋もそろそろ本格的に邪魔な存在になってきたわけですか…』


死体の山に視線を持っていかれていた燕達の頭上、倉庫の2階部分に榊昴が声を発していた。


「これは貴方がしたということですか?榊昴。」


燕が直接声ぶつける。


「そうですね。はいともいいえとも言い難い。何せ彼らは異能者を否定する方々。そんな人間を許せない異能者は僕以外にも存在するんですよ。」


「大方、お前だけじゃなくて、真能連盟の奴らがしてきた事だろ?それをお前が後で処理する。そんなところか?」


竜崎が榊昴に言う。


「なんだ、わかってるんだ。その通り。

だから、直接そいつらを殺してるのは僕じゃなくて他の方々なんだ。だから、僕は関係ない。」


「これは死体遺棄に組織的異能殺人の関与に値する。立派な罪です。それに貴方にはイノベーション事務局襲撃に関する容疑者として署に来てもらうために私達はここにいます。一緒に来てくれますよね?」


燕は容赦なく言った。


榊昴は考えた後、答えた。


「…断ります。行く理由が僕にはありません。」


「じゃあ悪いが力づくで来てもらう。」


竜崎が腰の日本刀を抜く。


「力づくか。さすがは異能対策室…異能者よりも荒々しい。だが悪いがそれに付き合う義理もない。代わりと言っては何だが…彼が相手をしてくれるよ。」


榊はそう言い、手を真っ直ぐ竜崎の横を刺すように向けた。


その手の先を振り返ったその瞬間、竜崎は吹き飛んだ。


突然の出来事に呆然とした燕達を他所に、竜崎を吹き飛ばした白いファーのついたスーツを着た男が声を発した。


「早く行け、榊。」


「悪いね、釈迦堂くん。」


榊はそう言うと倉庫2階の窓から飛び降りた。


「貴方は釈迦堂組の!?」


「…釈迦…堂…ッ!テメェ、何のつもりだ」


竜崎が立ち上がり声を荒げる。


「一度ならず二度も邪魔すんのか…!」


釈迦堂は何も言わず、ただ睨みながら全員を視る。


「何とか言え!」


「釈迦堂罪武さん、竜崎さん達から聞いています。貴方は異能者を憎んでいるんじゃないんですか?何故私達の前に立つんですか?榊昴の下についたのですか?彼は異能者です。貴方の憎むべき相手ですよ?」


釈迦堂は刀を握り締める。


「テメェがこいつらの頭か。質問ばっかだな…

俺には俺の目的がある。それが異能者の鉄砲玉になろうがな。」


竜崎が勢いよく迫り、刀を振り下ろす。

釈迦堂はすぐに刀を振り上げ、受け止める。


「んなのはどうでもいい!

前はテールム社の連中に邪魔されたからな…

あん時の再戦と行こうじゃねぇか!釈迦堂!!」


「…ったく…これじゃあどっちがヤクザだよ!」


釈迦堂は竜崎を押し除け、片手で力任せに刀を振り抜く。


竜崎は身体を仰け反って躱し、その状態で下から刀を振り上げる。


ブシュッ…

振り上げた刀は釈迦堂の右脇腹を掠り、スーツに血が滲み出した。


だが釈迦堂はそれを気にも止めず、回し蹴りの勢いで左脚の踵を竜崎の顔面にヒットさせた。

その威力に竜崎は再び後ろに吹き飛ばされてしまう。


「竜崎さん!」


燕の声を聞き、村崎がすぐに狙撃銃を構えた。


「手出すなッ!!!こいつは俺1人でいい。」


「カッコいいじゃねぇか、竜崎刑事。」


釈迦堂は刀を持つ右手を前にし、刀の切先を竜崎に向ける。


「だがな、俺もお前らに構ってる暇はねぇんだ。」


釈迦堂は左手で自分の脇腹から流れる血を掬い、血に濡れた左手で刀の刀身をなぞっていく。


すると刀から目に見えるほどの赤黒くいオーラが漂い始めた。


「なに、してんだ?」


あまりの光景に竜崎は思わず声を出した。


「くだらねぇが、確か”お前らが造ったこの力”はこう言うのがセオリーなんだっけか?」


釈迦堂は左手で刀を持つ右腕を抑えつけ、叫んだ。


「擬似能力…解放!!!!!」


言葉を放った瞬間、釈迦堂の持つ刀の鍔や柄から大量の管が現れ、釈迦堂の刀を持つ右腕や肩、脇腹、背中に突き刺さる。


「なッ!!?」


「ちょっとちょっとちょっと!?なんすかあれ?!」


その光景に竜崎と神室は声を漏らし、燕達は呆然と見るしかなかった。


「グゥゥウゥアァアアァァァッッ…!!!」


轟くような痛々しい声と共に釈迦堂に刺さった管からはドクンドクンとハッキリと聞こえるその音と共に血が吸い上げられ、刀に流れていく。


やがて、音と釈迦堂の声が落ち着くと共に刀は赤黒い色をした刀へと変貌していた。


「”妖しあやかし”」









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