第2話『再教育教室』
華乃が消えた。存在ごと。
そんな事実に耐えられないまま、少しの時が流れた。
「莉奈…」
いつも元気なほのかが、これ程までに静かになるとは、昨日の私には考えられないだろう。
「華乃が消えてるのって…」
「いったいどうして…?」
「…評価システム」
こんな異常な出来事は、きっと、異常な仕組みのせいだ。
「元から変な噂があった。」
「これの可能性が高いと思う。」
「確かに…」
「もしかして、大変な目に遭うって、存在ごと消されちゃうってこと?!」
「でも、だったらどうして…」
そこで、私は息を大きく吸い、拳を握りしめて、言う。
「だったら、調査しよう。」
「なぜこんな事するのか、誰がやったのか、」
「…華乃はどうなっているのか。」
これは、自分への決意であり、覚悟である。
華乃は、消えてしまったのだ。それは事実だ。
私は、華乃を消した犯人のことが許せない。
真実を暴き、今までの日常を取り戻してやる。
「…!」
「…私も調査、手伝うよ!」
「せめて、何が起こったのかは、知りたい!」
「ほのか…!」
…こうして、私たちの調査が始まった。
目的は、華乃の消失の真実を突き止める事。
私たち、頑張るから。
待っててね、華乃。
…私は付けているリボンをギュッと握りしめた。
そして、一日中私達は調査したが、あまり有益な情報は得られなかった。今は、調査疲れで芝生の坂で休んでいる。
「はぁ〜〜っ」
ほのかがため息が風の中に溶ける。
それにつられそうになったが、何とか耐えた。
「ため息すると、もっと疲れるよ。」
「でも我慢できないし!」
「結局皆『評価システム』なんてなんとなくしか分かってないから…」
…確かにそうだ。私だって、『なんか便利なもの』くらいにしか思っていなかった。
実際、マイナスくらって何か起きてる人なんて、見たことなかったし…
……今思うと、ただ単に忘れていただけかもしれないけど。
プルルルルッ
「あっ、電話っ!」
「ごめんちょっと向こう行くね!」
そう言って、ほのかは走り去っていった。
「空は、きれいだな…」
空は、私が生まれるずっと前から同じ青だ。
ずっと変わらない。空が羨ましい。
私達の日常だって、同じだったらな…
「わっ!」
「うわぁっ!?」
急に肩をつかまれ、ビクッとする。
「…って、高峰か…」
「一人でいたから、つい話しかけちゃった。」
…そういえば、高峰は会長だよな…?
もしかしたら、『評価システム』について詳しく知ってるかもしれない。
「ねぇ…高峰」
「どうしたの?」
「評価システムについて、詳しく知ってる?」
それに対して高峰は、疑問の表情をしていた。
「まぁ、知ってるけど…」
「なんといっても僕は『会長』だからね。」
「『評価システム』について知りたいの?」
そこで、私が頷くと…
「まぁ〜これはね〜機密情報だから…」
「ちょ〜っと、教えられないかなぁ」
「どうしても、だめ?」
そう言うと、高峰は満更でもない顔をして、
「じゃ、取引をしよう。」
「莉奈が、これからずっと名前呼びしてくれるなら教えてもいいよ。」
「何だ…その条件…」
…うっかり心の声が漏れてしまった。
「ずっと一緒なのに名字呼びは悲しいからな…」
「というか、言わないと教えられないな〜」
……私は覚悟を決め、言葉を発する。
「あっ……蒼…」
「やった〜!」
高峰が見たことないほど喜んでいる…!
いつもの『会長』の風格は、どこに行ったんだ…
「取引成立ってことで!」
そこから、私は、高峰の話を聞いた。
──『評価システム』。
人助け、テストの高得点、部活で好成績を残すなど、一般的に良いと言われる行動がプラスされ、逆に、犯罪、校則違反、赤点を取るなど、良くない行動がマイナスとなる。
プラスの点数を一定数取ると、スマホの使用許可や通知表の欄に入るなど、さまざまな特典が得られる。
ここまでは、私達の知っているところだ。
知らなかった情報は、
マイナス点が一定数を超えてしまうと、『再教育』となり、何らかの『ペナルティ』を受けるらしい。
なお、高峰は『再教育』を受けた生徒は見たことないようで、「そうそう起きるものじゃない」と、言っていた。
ここからが重要な情報であり、
「この制度は、学園長主軸で動いている。」
今思うと当たり前だが、黒幕が決まっただけでも十分だ。
「ありがとう、たかっ…蒼。」
…やはり、まだ慣れないな。
「全然大丈夫さ。」
「そういえば、なんで『評価システム』について聞いたんだ?」
と、高峰が問いていたので、答えようとすると…
「あぁ。それはーー…ぐわっ!?」
「莉奈〜!待たせた?…って」
「会長?!」
「何だお前かよ…」
「莉奈と仲良く話してたんだから、あっち行っててくれないかな」
「はぁ?!うッさいチビ!」
「はぁ?!!誰がチビだ!」
「だいたい身長なんて1cm僕のほうが上だろ」
「私は女子だから〜」
…やっぱり、この2人は仲が悪い。
根本的にダメというか…会う毎に喧嘩している…
その後、喧嘩は続き、空は赤く染まっていた。
「付き合ってられるか!」
「僕は帰る!」
「バイバイチビ〜」
遠くから舌打ちが聞こえた…
これが生徒会会長の姿が……
「もう日が暮れたし、帰るか!」
「もうクタクタだよ〜」
そう言い、ほのかは歩こうとするが…
「私、ちょっと図書館寄ってから帰るよ」
「だから、先に行ってて」
ふと思い出したのだが、図書館に『聖白学園』についての本があるかもしれない。まだ元気のある内に、いろいろやっておくのも手だ。
「じゃあ、先帰ってるよ?」
こうして、私は方向を逆にし、図書館に着いた。
図書館の窓から、ささやかな風と、夕暮れの光が差し込んでいる。そんな光に照らされている人が、…1人いた。
「誰…?」
その男は、体格がよく、少し寝癖のある黒髪で、黒色の瞳をしている。そして、ブレザーのない、ネクタイが少し緩い服装をしていた。
こんな格好をしていたら、『再教育』されるかもしれないのに、よくそんな風にいるものだ…
「もしかして、アンタ…」
「『評価システム』の裏に気づいてるヤツだな」
この男も気づいているのか?
もうバレてそうだし、言い訳も意味なさそうだ…
…とりあえず、なんて言えばいいのか分からなかったので、素直に答えることにした。
「…あぁ。」
「やっぱり…」
「じゃあ、こっちは知ってるか?」
男はとある言葉を口にする。
『──再教育教室。』
…知らない言葉だ。
この男、どこまで知っているんだ?
敵か、味方か。…警戒する必要がありそうだ。
ホワイト・キャンバス つったろう @tuttarou
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