ホワイト・キャンバス
つったろう
第1話白く輝く日常
『
「莉奈〜! 一緒にご飯食べよ〜!」
もちろん私はこの学園の生徒である。
「遅いよ〜莉奈…」
「3人そろったし、すぐ食べよっ!」
この2人は、大切な親友だ。
【いただきまーす!】
「今日も急いで食べないと!」
「じゃないとポイントマイナスされちゃう!」
正しい行動がプラスになるのならば、当然正しくない行動はマイナスになってしまう。
基本、時間に関しては、守らないとポイントがマイナスになる。マイナスが限界までいくと、とんでもない目に遭うという噂があるが…
所詮、噂程度だろう。
「そんなに弁当に入れるのが悪いんじゃないかな…。」
と、華乃は苦笑していた。
【ごちそうさまでした!】
すっと隣を見ていると、莉奈が弁当を残していた。
「あれっ、華乃…」
「おかず残してるけど、それ嫌いなの?」
私はそう言ったが、華乃は少し曇った表情をしている。食べ物を残せば、ポイントは減ってしまう。華乃は、滅多にそのような行動はしない。私は疑問に思ったが、
「そうなんだよね〜…嫌いなんだよね〜…」
「あはは……」
と、少しぎこちないような笑顔を見せてそう言っていた。
放課後、先程の会話のことが頭に引っかかりながらも、3人で寮に向かっていった。
話していなかったが、この学園には寮がある。
常に管理されるのは、気がいいものではないが、まあ、それはそれだ。悪いことばかりじゃない。
「…」
華乃は疲れた顔をしたままだ。
何かあるならば、今聞いてしまうのもいいかもしれない。
「ねぇ、華乃。」
「最近、何か辛いことあった?」
私の言葉に続けて、ほのかも…
「それ…私も思ったよ…。」
「最近、笑顔見てないから。」
「何かあるなら、話してほしいな」
その言葉に華乃は反応する。
「いっ、いやっ…」
「そんなこと、ないよ……」
短くも重い、沈黙。
華乃は、その雰囲気に耐えられなかったのか、口を開く。
「……うん」
「……話して、いいかな…」
「全然いいよっ!話して!」
私達は、人気の少なそうな校舎裏で、話を聞いた。
「実は私、テストの成績が危ないの…」
「前は上位に入ってたんだけど…最近は平均を下回りそうで…。」
「私は毎回赤点だけどね!」
「そういうのは気にしなくてもいいんだよ!」
「お母さん、成績が下がると私を怒鳴って、それが嫌で隠してたんだけど…」
「そろそろバレそうなの…」
「ご飯も喉を通さなくて…」
「このままだと私、またあの時みたいに…っ」
ほのかが気まずそうな顔をしていた。
「…でも」
「頑張りすぎは良くないよ。」
「じゃあ、どうすればいいの…」
いたたまれない空気の中、私はある案を呈した。
「じゃあ、勉強会しよう。」
「みんなで勉強すればもっと楽しくなるし、」
「知らないことを共有したりとか…」
「その場合私はあんまり戦力にならなさそうだけど…」
「お母さんを説得する方法とか、そういうの、一緒に考えるよっ!」
華乃が、少し笑顔を見せて言う。
「ありがとう…2人とも…。」
「確かに、今まで、お母さんに意見を言ったことなかったから…。」
「一緒に勉強会もしたいな…!」
こうして、私達は、勉強会を開いた。
その裏で、お母さんへの説得も考えながら。
その日から、みんなの笑顔が増えているように感じた。もちろん、私も。
ある日、勉強会のために図書館へ向かっていると…
ドサッ!
「いてて…」
「大丈夫?」
その目の前には、幼なじみの
「あれっ、高峰?」
「もしかして、莉奈!?」
「奇遇だね、どうしてここに来たの?」
高峰は昔っからの幼なじみであり、今の生徒会会長だ。見た目は中性的で、背が低いが、中身は大人びていて、まさに『会長』のような人物だ。
「私は図書館で勉強会しに来たの。」
「そうなんだ。」
「俺は今から学園祭用の荷物を運ぶところ。」
忘れていたが、もうすぐ学園祭もあったな。
「勉強するのも模範的でいいと思うけど、楽しむときは思いっきり楽しむことも大事だよ。」
「楽しみに備えておかないと。」
高峰は、ふっと笑っていた。
「あっ、そうそう」
「勉強会するなら、おすすめの参考書教えるよ。」
高峰が選んだ参考書は、どれも分かりやすく、興味深いものだった。
「2人にも渡しとかないと。」
「助けになれたらうれしいよ。」
高峰が微笑んでいたので、私も微笑み返した。
その後、大きなことはなく、時が流れる。
テスト当日の日。
華乃は、大きく震えていて、見るからに緊張している。
ほのかは…見たことのない、自信にあふれた顔をしている。逆に心配になってきた…
「テストがぁ……」
「始まっちゃう…。」
「そんなに気にしなくても、今までの努力は裏切らないよ!」
「私たちなら行けるっ!!」
「うぅ…」
そんなこんなでテストも終わり、いよいよ順位発表の時だ。
小さくも、大きな足取りで板に向かう。
「いっせ~ので見よ!」
ほのかはワクワクした顔で私たちに話している。
「あっぁぁぁぅぁぁぁ…」
もう華乃が何を言っているのかわからない…!
「このままだと華乃が人間をやめちゃう!」
「もう見ちゃお!!」
【せーのっ!!】
それは絶望か希望か。
私達はそれを見る。
「お〜っ?」
その瞬間ほのかの顔が笑顔で溢れる。
「私!!」
「99位だ!!」
私たちの学年は、212人の生徒が在籍している。
つまり、ほのかの順位は平均を上回っているということだ。
「あのほのかが…!?」
「あのとは失礼なっ!…まぁ、そうだけど…。」
私が言った言葉に反応するも、不服そうに黙っていた。
「そういえば、華乃!」
「華乃、どうだった?」
ほのかがそう言い、私達は華乃を見ると…
「…」
華乃はわなわなと震えていた。そんな華乃を見て、ほのかは背中を支えようとしている。
「華乃…?」
そんな中、華乃は口を開く。
「……っ」
「やっっったぁ〜〜!!」
…どうやら大丈夫だったようだ。
横目に見ながら、私達はほっと肩を軽くする。
「見てっ! 2位だよっ!2位!」
「1位じゃないのはちょっと悔しいけど…」
「けど、こんな順位見たことないよ!」
「やった〜!!」
「安心したよ華乃っ!」
私も、頬の筋肉が緩くなる。ここまで、みんな笑顔で話しているのは何時ぶりだろう。
「あっ、」
「そういえば、」
「莉奈の順位はどうだった?」
…完全に忘れていた。
板に顔を向けると…
「…100位」
「…えっ?!」
勉強会では2人の勉強しか見ていなかったから、こうなるのは必然だったかもしれない…。
…決して負け惜しみとかではない。
まさかほのかに順位で負けるとは…
「や〜いや〜い順位100位〜」
「1位差だろっ…!」
そんな会話をしていると、華乃がくすっと笑っていた。
「ありがとう、2人とも。」
「おかげで元気が出たよ!」
「もしかして、高みの見物していらっしゃる?」
そう、嫌味そうに言うと、華乃がふためきながら、
「いやっ、そういう事じゃなくてっ!」
「…勇気がでたんだ。」
「…帰ったら、お母さんに相談しようと思うんだ、これからの事について…。」
「もしよかったら、私も一緒にやるよ!」
と、ほのかが言ったが、
「いや、大丈夫だよ。…でもありがとう。」
「親子、2人で話したいんだ…」
「だから、2人は結果だけ聞いて欲しいな!」
「華乃、頑張ってね。」
と、私が言ったが、華乃は微笑み返すだけだった。
夜。私達は同じ寮室を使っているが、今は、2人だけだ。
「華乃、大丈夫かな…」
私達は、ずっとソワソワしていたが、その時が来た。
ガタッ!
「莉奈っ!」「ほのかっ!」
【華乃っ!!】
「華乃っ、どうだった?!」
そう私たちは、問うと、
「大丈夫だよ!」
「ちゃんと、お母さんと話できたよ…!」
「華乃っ〜!!」
ドサッ!
「うわっ、ほのかっ!?」
ほのかが、華乃に抱きついていた。
私は、これまで抱えていた肩の荷が下りるような感触があった。
あぁ、また始まったんだ。日常が。
「あとっ、2人とも…」
「わたしに付き合ってくれて、本当にありがとう!」
「2人がいなかったらどうなってたことか…」
「いえいえ、どういたしましてってやつだよ!」
「全然どうしたってこともないよ。」
私とほのかは、満更でもない顔をしているだろう。そこで、華乃は、
「2人ともにプレゼントを用意したよ!」
「ほんの気持ちと、友情の証として!」
華乃は少し照れくさそうにして、袋を手渡した。
その袋を開けると…
「お〜っ!」
「リボンだ〜っ!!」
それは、別々の色をしているリボンだった。
私には、服に付ける、ピンクのリボンが、
ほのかには、髪を結べる、黄色のリボンが、
華乃には、カバンに付ける、青色のリボン。
「せっかくだし、みんなに合いそうな色を選んだよ!」
「ほのかは、髪を結んでるから、髪用のにしたんだ。」
「うぁ〜っ!」
「ありがとー!!」
ほのかは、飛び跳ねて喜んでいた。
私も、それくらい嬉しかったので、同じように喜んだ。
「ちょっと…!」
「このままだと他の人にバレちゃう!」
「バレたらいけないの?」
そう、疑問に思ったほのかが、問いていたが、
「夜中は外出禁止だけど…それ破って買っちゃったから…」
「…でも、そこまで私は、ポイントマイナスじゃないから、問題はないけど…」
「違反したのか…」
ルールを守ることは大事だ。最近は華乃は違反が多かったから心配だ…
「なら、バレる前にポイントを貯めとこっ!」
「まぁ、バレなきゃ違反じゃないけどねっ!」
「あはは…」
そんな話をしている内に就寝時間になってしまい、私達は、就寝の準備をした。
「ねぇ、2人とも…」
「最後に、ありがとう。」
「それだけは言っておきたくって。」
「いいのいいの、困ったときはお互い様っ!」
そう、ほのかが言い、華乃が…
「ほのかは、相談したときとっても親身になってくれて、一緒にいるだけで心が晴れてくるの。」
「莉奈は、困ってるとき、すぐに気づいてくれて、ずっと気にかけてくれる。」
「…私2人のそんなところが好き。」
「じゃあ、おやすみ。」
「また明日!」
華乃は、人の良いところにすぐ気づいてくれて、褒め上手だ。
あぁ、2人が友達でよかった。…そんな気持ちで一杯だ。
「…今日も、最高な1日だった。」
そう、口ずさんで、私は眠りに落ちた。
次の日。
「…あれ?」
2人がいない。寝坊したのか、と時計を見たが、いつも通りの時間だ。そう、いつも通り…だが、この場を包む静寂が、私に異常を伝えている。
「…散歩でも行ったのだろうか。」
そう思うことにして、いつも通りの支度をした。
…結局、2人に会わないまま教室まで来てしまった…
ガラッ
「おはようございます」
「…!」
「…莉奈っ!」
突然、ほのかが私に抱きついてきた。
その瞬間、私は少し、緊張の糸が絆されたように感じた。しかし、…なんでだ、いない。
「…ねぇ、莉奈…」
「…華乃、見なかった…?」
…華乃がいない。ほのかが顔を上げたとき、その顔は、普段の調子と比べて、冷や汗をかき、笑顔が引きつっていた。そんなほのかを見て、心臓の音が速くなる。
時が、流れる。
言うのを躊躇う。
空気が重い。
手が震える。
期待と絶望、2つが重なり…時が、進む。
「……見てないよ…」
「……そう、かぁ…」
期待が憔悴に変わる。
その間、小さな静寂があったが、ほのかがすぐ口を開いた。
「実は、早朝に物音がして、」
「目を開けたら、華乃がいなかったの」
「周りを見てから、外も見たんだけど」
「…誰もいなかった。」
分かってはいたが、分かりたくなかった。
「みんなにも聞いたんだけど、みんな知らないって」
「中には不審な顔して、見てきたし」
「…先生には聞いた?」
「今から聞きに行こうってところだよ…」
先生なら知ってるかもしれない。
少なくとも、華乃の存在を知らないわけでは無いから。
「先生〜!」
「どうしました?」
足を動かすだけで精一杯だ。
この人は、桐谷 香澄(きりたに かすみ)先生。
無愛想で何を考えているのか分からないが、授業は丁寧で、相談事には親身になってくれる。なので、なんだかんだ皆に好かれている先生だ。
私達は、口を開く。
「葉山 華乃さんを見かけませんでした?」
…静寂。
いやだ。やめて。…異常がついに、私たちまでも包み込む。
先生が口を開く。
「葉山 華乃とは、誰ですか?」
「その生徒は、この学園にいないはずです。」
…あぁ。
白色の日常が、塗り替えられていく。
その色は、今の私には分からない。だが、
もう、あの日常は、ないんだ。
そのとき、私達が付けているリボンだけが、
白く、光っているように見えた。
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