もしもアサシンが熱力学を学んだら

熱力学第二法則――この宇宙において、エントロピーは増大し続け、全ての秩序は必然的に崩壊へと向かう。
暗殺組織「エントロピア」で最強の殺し屋として育てられた青年・逆井零(さかさい れい)は、ある日組織の科学者から熱力学を学ぶ。当初は単なる暗殺技術の向上のためだったが、熱力学の法則は彼の世界観を根底から覆す。「全ては不可逆である」「閉じた系の無秩序は増大する」「完全な効率など存在しない」――これらの冷徹な真理は、零に暗殺という行為、そして自分自身の存在の意味を問い直させる。
組織は人間をシステムとして扱い、「不要な熱」として標的を排除する。だが零は気づく。もし人間社会が熱力学系なら、組織そのものが秩序を装った巨大なエントロピー源ではないか。殺すことで秩序を保つと標榜する組織は、実際には世界の混沌…続きを読む