第6話 友達の顔
直人は、慎一の声を聞いた瞬間にわかった。
今日は、近づいてはいけない夜だ。
「悪い。ちょっとだけ、付き合って」
電話越しの慎一は、いつもより静かだった。
助けてとも、迎えに来てとも言わない。
それが、一番危ない。
直人は車を出す。
理由は考えない。
考えたら、欲が出る。
会った瞬間、慎一は笑った。
平気なふりをする時の顔だ。
——抱きしめたい。
反射みたいに思って、すぐ打ち消す。
違う。
それをしたら、こいつは壊れる。
夜の公園。
ベンチに並んで座る。
肩が触れる距離なのに、
触れない。
慎一がぽつりと言う。
「俺さ……友達がいて、助かってる」
その言葉で、直人の中の何かが静かに折れる。
友達。
わかっている。
それ以上を望んでいないことも。
それでも、自分を呼ぶ夜があることも。
——キスしたい。
——腕の中に閉じ込めたい。
思うたびに、直人は深く息をする。
だめだ。
今は、俺の夜じゃない。
「そうだな」
直人は笑う。
一番、無害な顔で。
「友達って、便利だよな。
逃げ場所にもなる」
慎一は、それに気づかない。
気づかないふりをしているのかもしれない。
風が吹いて、慎一が身をすくめる。
直人は、上着を脱いで肩にかける。
抱きしめる代わりに。
「……ありがと」
その一言で、全部報われそうになる自分を、
直人はまた否定する。
違う。
これは報酬じゃない。
帰り際、慎一が言う。
「おまえ、優しいよな」
直人は、少しだけ間を置いて答える。
「優しいんじゃない。
選んでるだけだ」
「何を?」
慎一は聞くけど、
答えを待っていない。
直人は答えない。
——慎一を失わない選択。
——自分が壊れる選択。
そのどちらも、もう慣れた。
慎一が背を向けて歩き出す。
その背中に、声をかけたい衝動を、噛み殺す。
——好きだ。
——離れたくない。
でも、言わない。
直人は今日も、
友達の顔で、恋を抱き殺した。
それが、
慎一のそばにいられる、
唯一の方法だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます