2.いつもの日々へ
放課後。
図書室の空気は、まるで春の光に包まれたみたいに穏やかだった。
あかりは道都と目が合うと胸の前で指をもじもじ絡めていて、
道都はその視線に気づかないふりをしながら顔を逸らし、
悟は棚にもたれて、静かに微笑んでいる。
――空気。完全に恋愛ドラマのそれ。
その空気の中で、ふとあかりは感じた。
机の上の本たちが、静かに微かに揺れるように光を反射している。
ページの端で、まるで祝福しているかのように、柔らかな光が彼女たちの間を漂っているようだった。
「……あ、あたし……なんだか、わかる気がする」
あかりは心の奥で、道都と自分が想いを通じ合わせたことを、静かに理解した。
まだ返事は急がない、でも確かに――心は通じている。
――空気。完全に恋愛ドラマのそれ。
その柔らかな空気に背中を押されるように、あかりは小さく微笑んだ。
「……うん、ちゃんと、伝わってる」
その瞬間、寛が扉を盛大に開いた。
「おーい!! ……って、うわっ、何この雰囲気!」
寛だった。
あかりがびくっと肩を跳ねさせ、道都は露骨に顔をしかめる。
寛は状況を一瞬で察した。
その後止まらずに暴走するように口が動く。
「うっわ! え、ちょ、おまっ……
なにこれ!? 甘ッ!? 空気あっま!!
道都先輩絶対なんか言ったろ!? なぁ、言ったんだろ!?」
道都が低い声で返す。
「……寛、黙れ。落ち着け」
「落ち着けるかよ! 見ろよこの二人の顔!
え、なに? 進展? 進展あった?
俺また知らんとこで話動いてた?」
「あ、あのっ、寛くん……こ、声……!」
あかりが赤くなりながら手を振るも、寛は止まらない。
「いやマジでさ!
ほんとリア充爆発しろってこういうことだろ!?
やってらんねぇ!!」
そのまま本当に叫んだ。
「ほんと……本当に……リア充爆発しろーーーーッ!!!」
……図書室が静まる。
悟は肩を震わせ、ククッと声が漏れる。
「っはぁ……寛が来ると本当に空気変わるな」
一頻り心を落ち着かせた後、悟は寛の肩にポンと手を乗せる。
道都はため息をつく。
「……お前はいつもこうだな」
「いやいやいや! 俺のせいだけじゃねぇだろ!?
ふつう気づくって! 二人とも顔赤いのバレバレだぞ!」
あかりは真っ赤になって抗議する。
「な、何も……そんな深い意味じゃ……!何も変な話もしてないし!」
道都も気まずそうに顔を逸らし、
「……別に、フラグなんて立ってねぇよ」
「その言い方、完全に立ってるやつ!」
寛の登場で空気は一気にコメディへ向かうのは多分彼の性格から来ているのだろう。
だがお陰で、空気は一気に変化した。
悟は本を閉じ、柔らかい声でまとめる。
「まぁまぁ、寛のおかげでいい具合に元の空気に戻ったよ。
ほんとに“いつも通り”だ」
道都も、やれやれと言いたげに眉を下げる。
「……まぁ、確かに。
お前が騒ぐと落ち着くのは認める」
「絶対今の褒めてないよな!? なぁ!?
俺、褒められた気ゼロなんだけど!?」
あかりはつい吹き出してしまった。
緊張が溶けていく。
寛の乱入は、結果的にチームの空気を整えてくれる。
悟は優しく微笑んだ。
「じゃあ――気を引き締めていこうか。
黒崎の動きも静かになったけど……逆に不気味だ」
道都が頷く。
「“守護者チーム”として、またここを守るぞ」
「任せろ! 次こそ俺も役に立つからな!」
あかりも胸に手を置き、小さく頷いた。
「うん……。みんなで、ちゃんと」
悟は静かに言う。
「ここは――僕たち4人の守る、図書室なんだから」
「よし、じゃあ気を引き締めて――」
悟の声で再び空気が整い、守護者チームは次の行動へと思いを馳せる。
これから待ち受ける未来へ向けて
――僕たちは、皆と守り続ける。
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