第四章 戦いと危機(戦闘あります。苦手な方注意)
1.雨夜に現れた影
雨が、途切れることなく屋根を叩いていた。 放課後に開かれた生徒会の緊急会議は長引き、気づけば夜。 あかりと道都は、急ぎ足で地下図書館へ向かっていた。
「……寛と悟、まだ残ってるよね」
階段を下りながら、あかりが小さくつぶやく。 「うん。今日は僕らの代わりに、二人が見回りをしてくれてる」 道都の声はいつも通り落ち着いていたけれど、その目はどこか険しかった。
あかりは唇を噛む。 「……二人だけで大丈夫かな。あの子たち、頑張りすぎるから」 「大丈夫。寛は守りに強いし、悟は冷静だ。だけど――」 「だけど?」 「嫌な気配がする」 道都の言葉に、あかりは思わず足を止めた。
その瞬間、地下の空気が揺れる。低い唸りとともに、床に埋め込まれた魔法陣が赤く点滅した。
「警報……!?」 二人は顔を見合わせ、駆け出す。 図書館の扉を押し開けると、そこには異様な光景が広がっていた。 棚の合間に黒い煙が漂い、空気が焼けるような匂いがする。
そして、その中心に――見知らぬ男が立っていた。
長い黒髪を後ろで束ね、冷たい青の瞳を光らせている。 黒いローブの裾が風もないのに揺れ、ただそこにいるだけで空気が重くなる。
「あの人……誰……?」
あかりは思わず息をのんだ。戦うのは初めて――しかも相手は目の前で存在感を放つ人物だ。 心臓が早鐘のように打ち、手元のブローチが熱を帯びる。
男は視線を向け、薄く笑う。 「君たちが、ここの守護者か」
「あなたは誰ですか?」
問いかける声はかすかに震えていた。初めての戦闘、不安と緊張が交錯する中、あかりは胸の中で矢を握りしめる。
その隣で、道都が静かに前へ出る。
「黒崎……。まさか本当に、あんたが来るとは」 「へえ、僕の名前を知っているのか」黒崎が肩をすくめる。
あかりは驚いて道都を見る。 「知り合いなの……?」 道都は小さく頷き、目を細めた。 「昔、魔導師協会にいた人間だ。優秀だったけど……禁書の力に取りつかれて、追放された」
「禁書……」
あかりは小さく息をのむ。初めての本格的な戦闘に、心は震えたが――同時に胸の奥で覚悟も芽生えた。 黒崎は笑みを深め、手にしていた一冊の古びた書を掲げた。
「そう、それだ。アストレイアの書。
協会の管理下から外れたこの図書館にこそ、本当の力が眠っている」
空気が一気に冷えた。 床の魔法陣が再び赤く脈打ち、黒い光が走る。
「力を奪うつもりね……!」
あかりは一歩踏み出し、胸のブローチを握りしめた。射手座――真実を見抜く者の力が、静かに目を覚ます。
「道都くん、あの人……本当に敵なの?」 「間違いない。黒崎は、禁書を使って協会そのものを壊そうとしてる」 道都の声は冷静だったが、その奥に怒りが滲んでいた。
黒崎は愉快そうに笑った。 「壊す? 違うな。浄化するんだよ、腐った組織を」 「そんな理屈が通るわけない!」 あかりが叫ぶと、黒崎の視線が彼女に向いた。氷のような青が、彼女の心を射抜く。
「面白い。君の“真実を見る目”……本物か、試させてもらおう」
黒崎の指先が動いた瞬間、図書館の奥で激しい衝撃音が響いた。 「あっ……寛!? 悟!?」 あかりの心臓が跳ね上がる。初めての戦闘で、仲間の危険を目の当たりにし、覚悟がさらに強くなる。 彼女の視線の先で、古びた扉がきしむ音を立てた。――そこに、仲間がいる。助けに行かなくちゃ。
けれど、黒崎はその前に立ちはだかる。
「君たちは、この図書館と運命を共にするんだ」
雨音と警報が混ざり合い、夜の空気が軋む。あかりは震える指先で矢を構え、静かに息を吸った。
「――真実を見抜く射手、ここに」
闇の幕がゆっくりと上がり、初めての戦闘が始まろうとしていた。
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