第2話 節奈が体験する新しい世界

 節奈に対し、未有先輩は話を続けた。

「実は私、心臓が弱いんだ。だからいつまでも生きられるかわからない。

 まあ反社というのは、心臓から酒の飲みすぎで肝臓をやられるケースが多いけどね。でも、どんな環境にあっても、それに負けて悪の道にだけは走らないでほしい」

 節奈は思わずうなづいた。

「そうですね。悪の道=負の道ですものね」

 未有先輩はすがるように言った。

「私のこと、嫌いになったりしないでね。でもダメなものはダメと言ってくれていいけどね」

 節奈は首をかしげながら答えた。

「うーん、私は今の未有先輩が好きです。

 でも、過去の上に現在が成り立っていますね。どんな黒歴史でも、昔があるから今がある。今が光り輝いていれば、暗闇だった過去にまでさかのぼって光を照らすことができるんです。

 間違っても未有先輩には、悪の道に走るなんてことはしてほしくないですね」

 未有先輩は深呼吸して言った。

「麻薬とフリーセックスだけはしてはダメよ。

 あっ、フリーセックスと言うのは結婚前のセックスのこと、だから同棲も含まれるよ。同棲というのは、女性の方は結婚を前提としていても、男性の方は、そうは思っていないケースがあるわ。

 妊娠した途端に、逃げだしたりね」

 節奈は驚いた。そうかあ、セックスというのは女性にとっては結婚の前提のように思っていても、男性にとっては吐き出すものでしかないのか。

 そういえば、十戒には「汝、姦淫するなかれ」とある。

 姦淫というのは、結婚前のセックスであるが、結局は女性にとって不利なだけであり、今の時代、すぐ売春に利用されかねない。

 作家の田辺聖子が「バカでは女稼業は務まらない」と記しているが、まさにその通りなんだね。


 未有先輩は深刻な表情で言った。

「フリーセックスと麻薬とは切っても切れない関係にある。

 反社も関与しているケースが非常に多いわ」

 そういえば、ついこの前、グリ下にたむろしていた15歳の少女が、売春を強要され、逃げようとすると覚醒剤漬けにされているというケースがある。

 未有先輩は話を続けた。

「緊急避妊薬ノレルボは二万円以下で、医師の処方箋なしで購入できるわ。

 ただし、薬剤師の承認が必要だけどね」

 

 節奈は思い出したように言った。

「昔はコンドームをつけて避妊しましょうなんて、NHKでも勧告していたことだけど、結局は通じなかったのよね」

 未有先輩がため息まじりに言った。

「笑い話だけれど、二十年前まではニュースステーションで、古舘キャスターが「エイズ防止のためにオナニーをしましょう」なんて放映していたというわ。

 コンドームは男性がつけるものだけど、いわゆる楽しいものではないみたいね。

 まるでレインコートを付けてるみたいで、不感症になるともいうわ。

 それでも、女性に対する思いやりでコンドームをすべきよね」

 節奈は自分が、セックス恐怖症になるのではないかと思った。


 未有先輩はきっぱりと言った。

「私はセックス恐怖症。だから男とは友達関係でいられるの。

 男はセックスすると飽きてくるというからね」

 なるほど、やはり未有先輩は賢い生き方をしているなと、節奈は半ば感心した。

 

 未有先輩はなんとも暗い表情で言った。

「セックスしたあと、男性は飽きてきて女性に中絶を勧めるなんてよくあるパターンね。中絶というのは、殺人と同じでしょう。

 女性として、心身共に傷つくことだもの。

 昔の人が言うことみたいだけど、結局は損するのは女性よね」

 節奈はふと言った。

 セックスというのは、五分五分じゃないんだ。

 男は放出するもの、女は受け止めるもの。

 愛の結晶は出産してきた子供なんだ。

 未有先輩は、言葉を続けた。

「男性にとってセックスは、クライマックスだからね。

 山の頂上まできたら、あとは下山するしかない。

 どんな美味しいものでも食べたら飽きてくるし、ブランド物も飽きがくるわね」

 節奈はあとに続けた。

「でも、女性にとってセックスしたあと、二人の関係は始まったと勘違いしてしまう。まるで大地に種が蒔かれたように、男性は種を捨てるだけだけど、受け止めた女性はそこから、始まるのよ」

 節奈は感心したように、男と女はこんなにも違うのかと感心した。

「だから、男と毎日セックスしたければ、結婚するしかないのよ。

 なんの責任もない同棲じゃだめよ。妊娠した途端に乗り捨てゴメンじゃ、女性が困窮する一方だからね」

 とんでもない。不埒なことか、心中覚悟だったという。

 やはり、昔の人の言うことが、正解なのかな?


 そういえば、三か月ほど前、節奈がファーストフード店での出来事である。

 朝七時、ポツンとしたフロアに二階には男五人が寝ぼけ眼でたむろしていた。

 店員がいないことをいいことに、男同士の会話に興じていた。

「おーい、オレ、昨日あの女とホテルで一戦したぜ」

 連れの男二人が、にやにや顔で聞いている。

「おい、またかよ。ところで下着の色は黒レースか。まあ避妊だけはしろよ」

「でも、失敗することだってあるぜ。まあコンドームをつけても、穴が開いたりしてたら意味ないけどな」

 節奈は女性侮蔑の話をこれ以上聞いていられなくなり、早々に店を出た。

 



 

 



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