第6話 親方家を建てる1

異世界に転移した生粋の職人・大吉。

まったくの別世界へ来たというのに、最初に始めたのは──やっぱり家づくりだった。

まさに「親方大吉、通常運転」である。


「よし。倉庫の出し入れでどれだけOPが増減するかは、その都度確認するとして……まずは木を切って木材の調達だな」


「おっ、それは良案だぜ。倉庫の木材だけじゃ家一軒は厳しいし、資材の自然回復を待ってチマチマ建ててたら埒が明かねぇ。

多分、木を切るのもワークゲインになるだろうし──親方にしては至極まっとうな選択だ」

そうして大吉はチェーンソーを取り出し伐採を始めた。


まずは倒す方向と逆側の枝を落とし、

ブーンという機械音と共に刃が木を削る鈍い音が林に響く。

次に倒す方向へ受け口を入れ、反対側へ追い口を作る。

最後に力を加えると──木はあっさりと倒れた。


「いやぁ、やっぱ木を切るのは面白いな。敷地の植栽をたまに切る程度だったから、こんな大きなのは本当に久しぶりだ」


「文明の利器ってやつはすげぇな。大木とは言わんが、このサイズの木をあっという間だもんな。

この調子でどんどん切ってくれよ!」


「おうともよ!」


大吉は気分よく隣の木へ向かう。

そしてチェーンソーを構えたその時──


『即完機能を使用しますか? YES or NO 数1 消費OP4』


チェーンソーの真上に、見慣れぬウィンドウがふっと現れた。


いつもステータス画面はノミ公に任せていたが、それでも大吉の視界には常に映っていた。

だからこそ、予期せぬ表示に二人同時に声を上げる。


「「即完機能?」」


「即座に完了……ってことだよな?」


「たぶん。これ使うと、一瞬で伐採できるってオチなんだろうぜ。OP4かかるが、試してみるか?」


「やらいでか!」


二人はまるで機能満載のおもちゃを手にした子供のように、躊躇なくYESを押した。


──瞬間。


目の前には倒木が「パッ」と現れ、さっきまで立っていた木は切り株だけになっていた。


「す、すげぇ!」


「いやマジでビビったわ! こんなんアリなのかよ!」


二人は顔を見合わせて感心しきり。

ノミ公でさえ「信じられねぇ」とでも言いたげな表情だった。


「こりゃ使い方次第じゃとんでもないぞ! もっとデカい大木があったらぜひ使おうぜ!」


「だな。今の程度の木じゃ割に合わんが、千年級の巨木なら完全にアリだ。あんな重量の木が誤ってこっちへ倒れてきたら危ねぇしな!」


「そういうこった! それにな、この”即完機能”ってのが他の作業でも使えるとしたら……どうよ? とんでもねぇことになるよな?」


「オイラも思った! 試しにこの倒木、”製材”で即完できねぇかやってみようぜ!」


「いいねぇ、やらない手はないな!」


大吉は地面に横たわる倒木の前に立ち、再びチェーンソーを構える。


──が。

先ほどのウィンドウは出てこない。


二人は揃ってため息をついた。


「は〜……さすがに、そううまい話ばかりじゃないか」


大吉が肩を落とす。


「まぁな。けど、ちょっと思うところがある。試しに普通に製材してみてくれよ」


ノミ公はどこか思案気に言った。


「おう、わかった。やってみよう」


大吉はチェーンソーのスイッチを切り、倒木をじっと見つめた。


「さて。じゃあまずは皮むきだな」


「皮むき? あー……丸太の表皮って、そのままじゃ使えねぇんだっけか」


「そういうこった。乾燥の邪魔になるし、虫も湧くからな」


大吉は腰の道具袋から**手斧(ハンドアックス)**を取り出す。

刃を木肌へ当て、角度を確かめて──一閃。


ベリッ!


樹皮が帯状にめくれ、地面に落ちた。


「おおっ、気持ちいいほど剥けるな!」


「樹皮は繊維が縦方向に走ってる。

だから“流れ”に沿って斧を滑らせると剥きやすいんだ。逆だとめちゃくちゃ固い」


言いながら、大吉は斧の角度を微調整しつつ、

縦に・斜めに・細かく──リズムよく皮をはぎ取っていく。


ベリベリッ、パキッ、ズルン。


やがて丸太の表面に白っぽい“木肌”が現れ、全体の形がくっきりしてきた。


「よし、一丁上がり。こいつは素直な木で助かったぜ」


「親方、じゃあ次はいよいよ“製材”だな。お手並み拝見ってやつだ」


「よしきた。丸ノコとチェーンソーで切断するぞ。

発電機と墨壺も倉庫から出してくんな」


「あいよ!」


ノミ公が軽快にステータス画面を操作し、必要な道具を取り出す。


大吉は、まず丸太に墨出しを行って黒い直線を描き、

そこへ丸ノコを当てる。


キュイイイイイイイイ……ッ!


高速回転する刃が木を切り裂き、白い木粉がふわっと舞った。


「おおーっ! 一瞬で溝ができたぞ!」


「この溝は“板割り”のラインだ。

一本の丸太から必要な寸法の木材を無駄なく取る作業──これを“木取り”って言うんだ。

そのガイドを作ってやるわけよ」


丸ノコで墨線すべてへ浅い溝を刻むと、大吉は電動チェーンソーを構えた。


ブゥゥゥンッ!


長い溝へ刃を差し込み、丸太を豪快に断ち割っていく。

あっという間に丸太は数等分に割れた。


「いや、こりゃヤベぇ速さだな……!」


「だが雑なんだよ、チェーンソーは」


大吉は切断面を指でなぞる。


「ほら、バリが出てるだろ」


「ほんとだ!ギザギザだ!」


「だから、こうして──」


大吉は電動マルチサンダーを当てる。


ウィィィィィ……!


細かな振動が切断面を滑り、汚かった木肌がみるみる整っていく。


「すげぇ……! つるっつるだぞこれ!」


「だろ? 粗挽きはチェーンソー、仕上げはサンダー。

これが一番効率いいんだよ」


大割りが終わり、続いて必要寸法へ切り分ける小割りへ移る。

丸ノコが再び唸りを上げ、木材が次々と形になっていく。


「おお~! 見慣れた木材になったぜ!

親方はなんでもできるんだな!すげぇよ!」


「かっかっか、そんな大それたことでは……あるな。

製材所にはかなわねぇが、これなら十分使える木材だ」


大吉は得意げに鼻をひくつかせている。

こうして、異世界での二つ目の作業が完了した。


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