第5話 親方ポイントを稼いで異世界を生き抜け!

 異世界転移して早々、『フォレストボア』の襲撃を受けた大吉。

 途中すれ違いこそあったものの、相棒の“ノミ公”の助けを借りて、どうにかこれを撃退することができた。


「ほれ親方! 勝利の余韻に浸ってる暇はねぇ。さっさと魔石を取り出さなきゃならねぇんだ」


「魔石とな? なんだそれは?」


「おいおい、魔石も知らねぇのかよ。ほんと何も聞いてなかったんだな! あのべっぴんさんが説明してくれただろうが」

 ノミ公は呆れたように頭を振り、仕方なく再び説明を始める。


「さっきも言ったが、なんてったって親方ポイント(以後OPと略す)が大切なんだ。何をするにもOPがなきゃ、にっちもさっちもいかねぇ。親方はこの世界に来たばかりで、地盤もなけりゃ知り合い一人いねぇ。そんな状況で頼れる数少ないものが、スキル【親方】と、その元手になるOPってわけだ」


 こうしてOPの重要性を滔々とうとうと語り始めるノミ公。

 だが――大吉は、いつものようにコク…コク…と舟をこぎ始めた。


「ったく、また居眠りを始めやがった。このバカちんが……もういい、説明なんぞしてやらねぇからな!」


 ノミ公はバカバカしくなったのか、話を途中で放り投げる。


「聞いとる、聞いとるぞノミ公! 長ぇ話だとどうにも瞼が落ちちまうが、要点はちゃんと耳に残っとる。

 要は――何をするにもOPが必要。だが使うばっかりじゃすぐ尽きちまって、肝心な時にスキルが使えんようになる。

 だから普段から、せっせとポイントを稼いでおくことが大事ってことだな?」


「……そういうこった。居眠りしながらにしちゃ、ちゃんと聞いてんじゃねぇか。ほんと、器用なこって」


「なら早速、魔石とやらを取り出すとするか。……で、どうすりゃいいんだ?」


「はいはい。鑑定すると――ほれ、前足と後ろ足のちょうど真ん中あたりにあるみてぇだ」


 それを聞いた大吉は腰袋をゴソゴソ探る。


「ちっ……中に入ってんのは槌やカンナとか仕事道具ばかりだ。役に立ちそうなのは……このカッターくらいだな」

無理もない。大吉の腰袋には大工道具一式しか入っていない。

 内部は空間拡張され収納力こそあるが、中身の充実はこれからだ。


 大吉は仕方なくカッターで肉を切り裂き、どうにか緑色に輝く魔石を取り出した。


「おお! これが魔石か! 宝石みてぇで綺麗じゃねぇか」


「だろ? 見た目だけじゃなく用途もすげぇんだ。さっき言ったように、この魔石をOPに変換できるし、エネルギー源として魔法も使えるようになるんだぜ!」


「ほう、それはすごいな。ワシにも魔法が使えるのか? “魔法少女ワシ”みたいな?」


「それ言うなら“魔法じじぃワシ”だろ」


「そりゃそうだ」


「「ハハハハハ!!」」


 こうして二人は、この世界に来て初めて笑い合った。



 兎にも角にも、親方ポイント(OP)をいかに稼ぐか──それこそが、この世界で生き抜くためのカギとなる。


 OPを得る手段は大きく三つ。


1.ワークゲイン

 作業量に応じて獲得。地味だが最も着実。


2.サティスファクションゲイン

 顧客満足度に応じてボーナス発生。まさに職人としての到達点。


3.魔石変換

 魔石の等級に応じて獲得。魔物討伐による副産物と言える。


 スキル【親方】は無限の可能性を秘めたチートスキルだが、発現させる権能によっては膨大なOPを要求される。

 この世界で生きていくため、大吉は日常の仕事でOPを稼ぎつつ、必要に応じて魔物討伐も行う──そんな生活が必要になるだろう。


「フム……ポイント稼ぎとは、ワシにとっては仕事をするのと同じよ。作業をすれば日当を稼げるし、仕上がりが良ければ金一封が付く。そしてさっきみたいな魔物をぶっ飛ばせば魔石が手に入る。そうなりゃ、やることは一つだ。今からここに家を建てる!」


「そうそう、親方が仕事すりゃ自然とポイントも貯まって……って、オイ! いきなり家を建てるだぁ? 正気かよ!」


「正気も何も、住む場所がなけりゃ何も始まらんだろう。家を建てるのはワシの得意中の得意だ。食いもんはさっき仕留めたイノ公があるし、ちゃちゃっと家を建てて生活の拠り所を作るんだ!」


 突拍子もないような宣言だが、実のところ不可能ではない。

 大吉には、それを可能にする“素地”があったのだ。


 スキル【親方】には、大きく分けて二系統が存在する。


『battle matter(戦闘系技能)』

 先ほどの戦闘で披露した“ゲンコツ”、一撃必殺の“チョーパン”など。

 これらを駆使すれば、魔物相手でも恐れる必要はない。


『ordinary matter(生活・作業系技能)』

 元の世界で果たせなかった夢を叶え、そしてこの世界で生活の糧となる技能。

 その中には、大吉の人生経験を反映した規格外のものがある。


 その代表が──≪倉庫≫。


 大吉が死亡した瞬間の倉庫を“まるっと再現”した、まさにとんでもない代物だ。

 倉庫内部の物品は“基準日時点”の状態で固定され、どれだけ釘やネジを使おうと、日付が変われば元通りになる。


 女神との話し合いで大吉がどれほど“ゴネた”のかよくわかる仕様である。

 しかも建築資材だけでなく、丸ノコやコンプレッサーなどの機械類。さらにはショベルカーなどの重機までしっかり収蔵されているのだから、もう笑うしかない。


 そして今、その倉庫の中身を──この大森林のど真ん中で取り出すのだ。


「チェーンソーにショベルカー、それと転圧機、ユニックもいるな……」

 大吉はぶつぶつと呟きながら、取り出す品目を列挙していく。


 だが──。


「ちょ、ちょい待ちぃ! あれこれ取り出したいのは分かるが、まず落ち着けっての! 倉庫から物を出すにもOPがいるんだぞ。もちろん、しまうにも必要だ。

 どれにどれだけかかるかも分かんねぇうちからバンバン出してたら、後で絶対後悔すっからな!

 だからまず、一つずつ出し入れして様子見したほうがいいって!」


「確かにな。ノミ公のくせに、いいところ突くじゃねぇか。よし、まずはチェーンソーだ。チェーンソーを出してくんな!」


「ノミ公のくせにとはなんだよ! まったく一言余計なんだよ親方は!……ほらよ、チェーンソー。取り出しに10OPかかったぜ。案外多いな」


「10OPが多いのか少ないのか……分からんな。どれ、品目を変えて幾つか試すか。

 角材の“イーニッサン(1寸2分×1寸3分)※1”と“インゴイッサン(1寸5分×1寸3分)※2”を頼む。あとショベルカーもな」



「よーし、まず角材……お、どっちも1OPで出せたぞ。

 で、次がショベルカー……うげっ、100OPだってよ! こんなんポンポン出してたら、あっという間にOP切れだぞ! 一旦保留だな、こりゃ」


「なるほどな。モノによって消費OPが全然違うわけか。確か転移直後で1000ポイントだったはずだが、重機を10台出したらすっからかんということか」


「だな。しかももうチョコチョコ使っちまってるから、実際には10も出せねぇさ。

 さっき言った通り、OPは“稼ぎながら使う”。これが絶対なんだよ」


 こうして、手探りながらの異世界親方ライフが幕を開けた。




※1 1寸2分=約36mm(3.6cm) 1寸3分=約39mm(3.9cm)

※2 1寸5分=約45mm(4.5cm)


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