一級フラグ建築士





「別に、フラグのつもりで言ったわけじゃないんだけどなぁ……」


 右手には、即興で見繕った先の尖った木の棒携え。

 僕は今、再び狼の魔物と相対していた。


「えー……村で叫んだところで信じられないのは検証済みだし、もう一回戦うしかない?」


 ぽつりとつぶやき、少し後ずさるものの……戦うことはおそらく確定事項。

 だってもう僕、見つかってるもの。獲物を見つけた、みたいなぎらつかせた目して、今も僕をにらんでるもの。

 逃げたい、切実に。だけど逃げれない。後ろにあるのは村だもの。


「うーん最悪のジレンマ」


 戦ったとして……今回は僕、勝てるだろうか。

 身体能力が上がってるとはいえ、炎を纏う狼さんに素手で攻撃するなんて熱そうだし、したくない。

 前は雨が降ってたから熱さ軽減もあったけど、今は違うしね。病み上がりなのにもう一回むちゃして大けがするなんて、そんなの僕いやだもの。


 ――しかし、そんなことを考えてはいるものの。



「――グルルルル……」


 まるで「逃がさないぞ」とでも言うように、狼さんは鋭い目で僕をにらみつけ、うなり声を響かせた。



 ―――残念だけど、戦うしかないようだね。


 戦いたくはない。強くなってはいるけれど、それは当たり前だ。

 痛いのは嫌だし、村を守る義理なんて僕にはないのだから。

 ……でも、逃げるのは何か違う気がする。


 前回と同じなのだろう。どうしてか、僕はあの村が滅ぶのを嫌がっている。

 何か理由があるわけじゃないのに……多分、本能レベルで嫌がっている。



 ――出てこないだろうなんて、言わなかったらよかったなぁ。


 あの時無意識にフラグを立てたりしなかったら、僕がばれることはなかったのだろうか。

 でも、まぁ……たらればの話をしたって、今はしょうがない。



「――ちょっと強くなった僕の力、試させてくれよ」


 身体の動かし方が、自然と分かった。だから—――跳んだ。




 ◆ ◆ ◆




 〝名無し〟と炎を纏う狼の戦闘。

 それを見つめるのは、どこかぼんやりとした格好をした、人間の青年と思わしき人影だった。


「まじ……だったのか」


 青年が驚いたような顔をしながら、その体を物陰に隠す。

 すると、その後ろから一人の少女が現れた。


「ルード……来た」


「あぁ、村長んとこの……セレーネ、だったか?」


「ん。村長に、行けって」


 青年——ルードに向けて、先ほど〝名無し〟が「何をしたいんだ」といぶかしんだ少女が進む。


「ほら、みろよこの光景。あの名無し……まじで魔物と戦ってるみたいだぜ」


「そんなことありえ…な………え?」


 ルードが指をさした方向に顔を向けたセレーネは、その体を固まらせた。

 その先には、喜々とした表情で拳を握り――炎に焼かれる肌をもろともせずに、明らかな実力差を埋めようとあがいている〝名無し〟がそこにはいた。

 そして約10秒後、セレーネが再起動しルードに尋ねる。


「あれ……幻覚?」


「いいや、れっきとした現実だ。俺らより強い魔物と〝名無し〟は、どうにも楽しく戦っているらしい」


「……そんな風には、見えなかったのに」


「なんだ? お前、あいつのことのか?」


「ん……起きた時、ちょっとだけ」



 ―――村長の娘こと、セレーネ。

 彼女には、特別な力がある。簡単に表すなら、『魔眼まがん』だろうか。

 この世界における、根源の力——〝魔力〟を視認できるようにする『魔眼』、それを彼女は所有しているのだ。


 〝名無し〟が抱いた「何がしたかったのか」という疑問の答えは簡単で、彼女はただただ『魔眼』を使って〝名無し〟を観察したかっただけなのである。


「それで、結果はお前の言いようから予想できるが……結果はどうだったんだ?」


「何も、見えなかった。……普通の人なら持ってるはずの


「それは……なんでなんだ?」


 もっとも、彼女は見えている物が〝魔力〟だとは気づいていない。

 それはもちろん、彼女……というか村に〝魔力〟の存在を知っている者がいないからという単純な理由だからだ。

 故に、彼女は〝魔力〟のことを〝謎のオーラ〟ととらえている。


「私にも、わからない。こんな人……見たことない」


「お前村から出たことないし、少なくとも村にはそんな人いないってことか……」


「む、私だって村の外の人間は見たことある」


「商人だろ? それは。そんなの見たことあるうちに入らねぇよ」


 二人はまるで、兄弟のような親しさを醸し出しながら話を続ける。


 そうして、時間はすぎていくのだった――




 ◆ ◆ ◆




 ―――跳んだ。


 地を蹴った瞬間、視界の色が変わった気がした。色鮮やかな色から、灰色だけの世界へ。

 風を切る音が耳を刺す。頭の中がやけに冷静で、同時にどこか熱っぽい。

 目の前の狼が振りかぶった瞬間、僕は地面を滑るように身を沈め、炎の軌跡を紙一重で避けた。


 ―――これが、極限集中ゾーンってやつなのかな。


 そんなことを考えつつ、体をひねる。


 熱い。髪の先が焦げる匂いがした。

 でも――怖くはなかった。

 むしろ、少しだけ楽しいとすら思った。


 狼が再び距離を詰める。燃え盛る牙が、まるで鉄をも溶かすかのように赤く光る。

 その瞬間、右手が勝手に動いた。握った棒の先が、火の帯を裂くように閃いた。


 ――ガキン、と乾いた音。

 炎の壁を突き抜けた木の棒が、狼の頬をかすめた。


「っ……やるじゃん、僕」


 自分でも驚くほど冷静だった。

 恐怖で固まるどころか、どこか快感すら覚えている。

 痛覚も、熱さも、すべてが薄くなっていく。代わりに、研ぎ澄まされたような感覚だけが残る。


 狼が吠える。炎が渦を巻き、足元の草が燃え上がる。

 その光景の中で、僕の影だけが――揺れなかった。


「……なんだ、これ」


 木の棒の先端が、黒く光っていた。まるで闇が形を取ったみたいに、光を吸い込んでいる。

 考えるより先に、体がまた動いた。


 突く。

 振るう。

 かわす。


 気づけば、狼の動きが遅く見えた。

 目が慣れたとか、そういう次元じゃない。世界そのものが粘度を増したように、ゆっくりと流れていた。


 そして――。


「ごめん、でももう終わりにしよう」


 狼が飛びかかる瞬間、僕はその胴を貫いた。

 棒は途中で折れ、黒い光だけが残って、狼の胸を焼いた。

 炎と闇がせめぎ合い、空気が一瞬で歪む。


 獣の叫びが夜空に響く。

 次の瞬間、炎が弾けて、静寂だけが残った。


 焦げた匂い。土の煙。倒れた狼の体。

 その全部が現実だということを、理解するまで少し時間がかかった。


「……勝った、のか」


 前回よりも簡単に勝てたな、なんて。

 そんなことを考えながら、僕は村へと振り返った。


「帰ろう――」




 ――そう、呟いたその時。

 僕の体から、力が抜けていく感じがした。


 抗えない。体が崩れる。

 まだ抜けきっていないスローモーションに身をゆだねながら、自分の様子をのんきに考察する。


 なぞの黒い力。あれの、代償なのだろうか。

 わからないな……あれ? そういえば……今回は、


 ゆっくりと、倒れ行く体を動かしながら狼の死体があるはずの方向を向く。






 ――――そこには、狼の死体などなく、逃げ惑う少女と青年を追いかける狼の大群の姿があった。


 見たことある少女だな。

 ……あぁ、村長の家で僕を見つめてきていた女の子か。


 そんなことを考えながら――僕は眠気にあらがえず、意識を落とした。


 だけど、どうしてか……




あとがき――――

【悲報】我が学校、高校併願できないことが判明。

泣きそう。高専無理だったら高校行けるねとかのんきに考えてたけど無理じゃん()

ということでテスト勉強してきます


ぜひとも星、いいね、コメント、フォローをおねがいします!

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そうじゃなくてもいいねしてくれると嬉しいです!

あとコメントで勉強せかしてくれたら勉強します()

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