一か月ぶりの起床





「あ、起きた」


 起きて、最初に聞いた言葉はそれだった。



 ――狼と戦って、勝利。

 どうやら僕はあれから1ヶ月は寝込んでいたようで――僕は今、村長の家に寝かされていた。



「ねぇ」


「……」


「ねぇってば」


「………」


「少しは反応してくれても良くない? 僕悲しくて泣いちゃいそう」



 僕の寝るベッドの横にいる、1人の少女に話しかけながらも、僕は自身の体を確認する。


 うーん、左眼は見えない。多分、狼さんに抉られたから治らなかったんだろう。

 だけど、それ以外は割と快適に動くね。

 折れてたはずの腕を動かしても痛くないし、今すぐにも走り回れそう。流石に起きてすぐ暴れたりはしないけど。しばらくは安静にしときたいよね。あくまで希望。できるかどうかはわからない。


 でも、そんなのは今の僕にとって些細なことで、1番僕が気になってるのはなんか力が強くなってる……いや、だ。

 これはあくまで体感というか感覚というか、そんな感じの不明瞭なものなんだけど、今ならあの狼さんと対等に……は無理でも、前以上には喰らいつける気がする。

 少し手をぐーばーするだけでも手に入る力が尋常じゃないし、ついでに言うとなんか気配的な何かも感じ取れるようになってる。

 ……あれ? もしかして魔物を倒すのって結構リターンがあるのかな?


 いや、さすがにもう一度経験したいかと言われればもちろん即首を横に振るとは思うけど……やっぱり恩恵があるのはちょっと嬉しいかなって。

 村を守れただけじゃなくて強くもなれた。

 うれしくないわけがない。まぁ、強くなったところでこの力を使うことなんて多分ないんだろうけどね。



「うーん、そこにいる誰かわからないは反応しないし……もう抜け出そうかな?」


 なんか僕のこと眺めてるし、何がしたいんだろう? この娘。

 普通にその眺めるような観察するような視線嫌いだし、できればやめて欲しいんだけどな。いやな昔を思い出す。

 ……ま、いいけどね。


 見つめ返しても……うん。全然反応しないし、いいや。どうせこの

 もうこんなとこ出ていっちゃえ。



 そうして、僕はそそくさとベッドの横にある窓から脱出するのだった。

 もちろん、それを見てなおあの少女はダンマリを決め込んでた。ほんとに何がしたかったんだろ、あの娘。




 ◆ ◆ ◆




 ―――時は少し遡り、約2週間前。



「なあ、そういえば最近あの〝名無し〟見なくね?」


「ん? 〝名無し〟って……あぁ、あの嘘つきのことか?」


「そうそう。前狼が出たぞーって叫んでから、姿見なくねぇか?」


「えー? そうだっけなぁ」


 村では、〝嘘つきの少年〟——〝名無し〟を最近見ないことが、話題になっていた。


 もちろん、この村の青年の疑問は勘違いではない。

 彼こと〝名無し〟は、今もなお狼の魔物を倒し切った、その場所に倒れているのだから。


 村から出る人が、少しでもいるならば彼が倒れているのは見つかっていただろう。

 しかし、この村において村の外——ましてや森の方向まで向かうものはいない。

 この村から一番近い町は森とは真反対にあるため、見つかることなどないのだ。



「あいつがいつも寝床として使ってるゴミ置き場にも、あいつの姿見えないってよ」


「また何かいたずらでも画策してるんじゃねえの?」


「いや、それでも村の外に2週間もいるたあねえだろうよ」



 ――〝名無し〟が倒した通り、この世界には危険な魔物がはびこっている。

 彼の倒した狼の『魔物』以外にも、人間種と敵対する人間の上位互換こと『魔族』の存在がある通り、この世界での人間種というのはあまりにも不遇な存在なのだ。


「あいつ、死んでるんじゃね?」


「……まぁ、別に死んでたっていいんじゃねえの? あいつ、嘘しかつかないし迷惑だしよ」


「いや、それでもよ……あいつ、まだ12歳だぜ? 今死ぬにはかわいそうだろ」


 この世界での平均寿命というのは、あまりにも短い。

 故に、この世界における〝命〟というのは、とても重い。


 いくら〝名無し〟が迷惑な存在で在ろうと、命の価値は同じだ。



「……探すくらいは、してみるか?」


「そうしてやろうぜ。あいつ、確か森のほうに走っていったって誰かが言ってたから、少し見ていなさそうだったら帰ってくるでいいからよ」


 親のおらぬその人生に少しの同情を抱いた青年二人は、申し訳程度の武器として農具のくわを持ち、森へ向かうのだった。




 ◆




「おいおいおい……まじかよ」



 青年たちが出発して、約一時間。

 探しても〝名無し〟は見つからなかったため、村に引き返そうとしていた二人は――それを見つけた。


「血が、血がやべえぞこれ」


「死んでるんじゃね?」


「いや……なんかまだ息してる。何こいつ、ゴキブリか何かか?」


 二人が見つけたもの。

 それは――〝名無し〟が血を流しながら横たわる、その風景だった。


「あ、おい! 〝名無し〟何か持ってるぞ!」


「……ナイフ?」


「ぼ、ぼろっちいな……先っちょ折れてるし」


「な、ナイフなんか持って何があったんだ?」


 丁寧に〝名無し〟の体を持ち上げながらも、青年二人は考える。


「さすがに……ガチで狼がいたってことはないよな……?」


「さ、さすがにな。そんなのがいたなら今こうやって生きてるはずがないし……倒したってことはないだろうし……」



 ――この世界の『魔物』というものは、死んだらその体は消滅する。

 どうしてなのか? それは簡単。

 『魔物』の体は〝魔力〟で構成されていて――死んだ、殺された場合は、その体を構成していた魔力が倒した主に吸収されるからだ。

 といっても、『魔物』は最初から魔力生命体というわけではない。魔力——突然変異の原子核によって体の原子をすべて置き換えられたものが『魔物』に至るのだ。


 この世界の人間にソレ知っている人は、少ない。それに、この世界の生物というものはあたりの魔力を常時吸収している。ゆえに、倒され、霧散したその魔力が吸収されてしまう。

 その結果——魔物の体は塵になって消えるのだ。



 ……しかし、こんな辺境の村にそれを知っている人がいるはずもなく。

 この二人が、本当に〝名無し〟が狼の魔物を倒したということを知るのはもっと先になるのだろう。



「……森で何かに襲われでもしたのかもな」


「……とりあえず、こいつ運ぶか。まだ生きてるし」



 そうして、彼ら村の青年は〝名無し〟を背負って村に帰るのだった。




 ―――それを見つめる瞳が一つ、森に輝いていた。




 ◆ ◆ ◆




「さて、これからどうしようか」


 村長の家から脱出してきたはいいものの、結局僕には家という家がないため、帰る場所がない。これまでは村のごみ捨て所的な場所で寝ていたけれど……うん。


 村長の家のベッドで寝ちゃったからか、あんな汚い場所では寝たくない、という気持ちが芽生えちゃっている。


 贅沢は敵だ、という言葉を前どこかで聞いたけれど、こんなところでそれを実感するとは思わなかったな。それも、自分でやりたくての贅沢じゃなくて知らない間にさせられていた贅沢で経験するんだから。人生何が起こるかわからないや。



「……とりあえず、もう一回森にでも行っとく?」


 僕が持ってたナイフ、なくなっちゃったし。


「――さすがにね、もう魔物が出てきたりはしないでしょ」


 そんな、フラグのような一言を添えながら。

 僕は、森へと足を進めるのだった。




あとがき――――

はい更新

なんかテスト期間中なんだけど手が進んじゃう()

これに受験勉強まで追加されちゃうかもしれないのに……私怖いわ!(現中三)

私立に通ってるから高校は内部進学できるけどなんかいきなり高専に行きたくなってきたからね……

推薦とかもらえないかな


ということでそんなやばい日々を送ってますので毎日投稿とは限りませぬ

モチベが上がれば執筆速度は上がるのでなるべく投稿できると思います

ぜひとも星、いいね、コメント、フォローをおねがいします!

面白いと思った方はぜひともよろしくお願いします!

そうじゃなくてもいいねしてくれると嬉しいです!

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