オオカミ少年 〜嘘つきの少年、村を守るために狼と戦ってたら最強になっていた模様〜

tanahiro2010@猫

Prologue





 ――僕には、親がいない。


 村の人が言うには、どうやら『魔族』との戦争に駆り出され、戦果を上げたけれど――殺されたらしい。

 だからこそ、僕は幼いころから一人で育った。


 たぶん、そのせいだったのだろう。

 僕をちょっと気にしてくれる大人の人はいるとはいえ、それを大っぴらに出す人はいない。

 ただただ僕を覗いているような、見つめているような……どこか観察しているかのような視線を感じた昔の僕は――「かまってほしい」、その一心で……



 初めてついた嘘はなんだっただろうか。

 確か、そこまで大きな事じゃない……あぁ、そうだ。

 よく僕をからかってきた男の子に「君には呪いがかかっている。早く森で治療用の薬草を見つけないと――死ぬよ」って……そう伝えたんだ。


 ――バカなことに、見事にその言葉を信じた男の子は森に入ってしまったらしい。

 一日帰ってこなかった結果、探しに行った大人たちが洞窟で震えるその男の子を見つけたんだとか。


 ――あいつ、どっかいったなぁ。

 そんな程度にしか考えていなかった僕は、もちろん


 そう……だれともまともに接することのできなかった僕は、ついに怒られる――


 喜んだ。ちょっとゆがんだ感じに。

 今思えば、バカだなぁとは思うけど……誰かに話しかけたとて気味悪がられ、避けられる僕が、それ以外に誰かと接する手段なんて、思いつくはずもなかったのだから。



 ――それからというもの、僕はよく嘘をつくようになった。

 わざとわかりやすい嘘をついたり、わかりにくい嘘をついたり。

 それがばれ、怒られる。そこまでが、僕のこれまでの人生におけるルーティーンになった。


 それを続けるうちに、もちろん僕は誰にも信じられなくなってきた。

 〝噓つきの少年〟——そういうレッテルが、僕に貼られてしまったのだ。

 嘘しかつかないバカな子供の言うことなど、信じなくていい。それが大人の総意だったのだろう。


 もちろん、悲しかった。そんなレッテルが張られたことじゃない。

 嘘を使って、だれかと接することができなくなったことが悲しかったのだ。

 だってそうだろう? 当時の僕は、嘘を使う以外に誰かと接する方法を知らなかったのだから。

 だけど……自業自得なんじゃないか、という考えも、僕の脳裏には浮かんでいた。



 ―――そんな、ある日のことだった。

 誰かと話したい。接したい。人に飢えた欲を、何とか抑え込もうと村の外で――森の近くを散策していた、その時。




 ――狼……いや、


 この世界における、魔物。それは、人類の敵にして、戦いになれた大人でもないと倒せないもの、というのが一般の認識である。

 一応、一般の認識であるといった通り、僕は魔物を倒したことはあった。いや、果たしてあれは魔物と言っていいのかはわからないが、村の人にいたずらを仕掛けるため森に入ったとき、森の動物が魔物になりかけている――魔力に侵食されかけているのを殺したことがあったのである。


 しかし、所詮それはなりかけだったからというもので。


 ――森から出てきたその魔物を見た僕は、腰を抜かして動くことができなかった。



 成りきった魔物というのは、不思議な力を使う。

 人は総じてそれを〝魔法〟と呼ぶのだが、当時の僕はそれを知っているはずもなく――体に炎のようなものを纏う狼の魔物に、恐怖してしまったのだ。


 決して、近くない。かなりの距離が離れていたというのに、じりじりと感じる熱気。そして、威圧感。


 ――近づいたら、殺される……ッ!

 そう気づくのも、そう遅くはなかった。



 幸い、狼の魔物はいまだ僕を見つけているわけではなかった。

 森と村には少しの距離があるため「走り、そしてみんなで逃げれば逃げ切れるのではないか」という考えが僕の中には浮かんでいた。



 故に、走った。

 見つからないようにこまめに魔物の方向を確認し、僕の存在がばれていないことを確認しながら、走った。全力で走ったおかげで、村に着くのはそう時間はかからなかった。


 肩で息を切る僕を見た村の人たちは、みんな不思議そうな、少し可笑しそうな顔をしていた。

 のんびりと、いつも通りの生活をしている彼らに向けて、僕は叫んだ。



「――狼だ! 狼の魔物が出た……ッ!!」


 ……これで、逃げてくれればよかったのに。

 〝噓つきの少年〟——そのレッテルを初めて恨んだのは、その時だった。


 誰も僕の言葉を信じようとはしない。今もなお、近くの森の周りをあの恐ろしい魔物がうろついているというのに……「またか」みたいな顔をして、僕を無視していた。だれも……逃げようとはしなかったのだ。




 ――このままじゃ、村が滅ぶ。


 ふと、脳裏にそう浮かんだ。

 ご飯を分けてくれるわけでもなく、話し相手になってくれる相手もいない。唯一、嘘をついた時だけ僕と接してくれる。そんな村だというのに、どうしてか……それだけは回避したい、と。僕はそう思ってしまった。

 そう、



 気づけば、僕は再び森に向かっていた。ただ一つ、僕の寝床に落ちていたぼろっちいナイフを片手に。

 これで勝てる可能性? もちろん皆無だ。限りなくゼロに近い、ゼロ。もしかしたら小数点以下にお情けくらいの数字がついてるかな、くらいの。

 考えてみたらすぐわかるだろう? 戦闘経験なんて皆無な少年一人で、魔物に勝てるわけがないのだ。



 ――だけど、違った。

 運がよかった。村を守る、そんな蛮勇に心を燃やした僕が再び狼の魔物と相対したとき、雨が降り始めた。


 そのおかげで、狼の纏う炎は見るからに勢いを弱め――僕でも、ナイフで応戦できるくらいには弱くなってしまった。アイデンティティを封じられた魔物と、僕は戦うことができたのだ。


 もちろん、魔物というだけはあり身体能力などは人間よりも高い。

 早すぎて視界は追いついても体は追いつかないし、僕が1攻撃を入れる間に相手は10攻撃を入れてくる。


 爪による攻撃。弱まってはいるけれど、いまだ纏い続ける炎による攻撃。

 僕の体を様々な攻撃が襲うけれど――僕は、気合で耐えた。


 意識がもうろうとしても、体は勝手に動く。魔物の爪が僕の肌に当たる瞬間に、僕もぼろいナイフを突き出して切り傷を入れる。


 それを続けているうちに――いつの間にか、1日が経って。

 僕は、ついに勝利した。骨は折れ、血は流れ、左目はえぐられて。

 勝利できたというには、あまりにも傷を負いすぎたけれど――僕の目の前で、狼の魔物は塵になって消えたのだ。


 ――村の滅びを、僕が救った。


 そんな、達成感を抱く中———



 ―――僕は、見事に気を失った。


 次に目が覚めたのは、1か月後だった。



あとがき――――

新作です。

これをいつ出してるかはわからないけど、今何個か同時並行で書いてるから設定が混ざってたりするかもしれませんが、それは笑って「バカ野郎、どういうことだ」ってコメントしていただければ嬉しいです。


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