第11話 懐かしいワルツを

「ふむ、死ぬ直前には間に合ったようだな」



「久しいな、友よ」


黒髪の紅い眼の青年と、とある樹木に腰かける穏やかな雰囲気の老人がくすりと笑う。


かつてこの世界に異界からの魔王が現れ多くの民や生命を屠り地獄のような世界になった時があった。


まだその時代は英雄も勇者もおらず闇の時代と呼ばれる時代だった。


だが英雄に代わる王が現れた、その王はただの人でありながら奇跡を代行した。剣は聖剣でなくただの剣、護る武具もただ人が造った人工物。


されど高潔な精神で数多の異界の魔物を切り裂いた。


民を引き連れ多くの奇跡を身に宿し神の心すらも動かした。

そんな王に興味を持った悪魔は友となり片腕として共に戦った。


当時まだ最強でなかった悪魔の最強の英雄譚のはじまりの物語として今も語り継がれている。


王は魔王を倒し平和を手に入れたが呪いを受け命を停滞させることになった。

死を止められ血筋を見届けるだけの孤独を味わうことになった。


幸い長命種や不死種の仲間達がいたから本当に孤独になることはなかったが、それでも王は人として死にたかった。


永い時を経て呪いの解呪にたどり着いたとき、人であった時の者達はもうだれもいなかったが、共に戦いぬいた子孫は遺っている。


「世界樹の麓で生命を癒すか、命溢れる場所は呪いをも癒す」


「ああ、人として命を閉ざしたい」


「それもまたお前らしい」


黒髪の青年、悪魔であるジョンはクックと笑いながら煙草に火をつける


「世界樹の煙草か」


「ああ、空気を汚さないし生命に活力を与える」


わけてもらったものだからだいじょうぶだと呟くとジョンはにこりと笑う。


「善たる王と呼ばれるお前も人であることを誇るか」


「創造を司る神如き悪魔のお前も己を誇るだろう?」


善たる王と呼ばれた老人は笑う。


「私とお前は名前のない伝説だ、私は死をもって伝説をつむぐ、あくまで人だからな」


「僕は僕に名前をつけたがな」


「それでも名のない名前だ、だからこそ永遠の伝説になるんだ、君という悪魔は」


老人はにこやかに笑う。



老人の体はすこしずつ光に包まれていく。


「君は永遠を楽しむといい、私は命を楽しんだ」


「思い出としてもっておこう」


「それがいい、子孫はまかせたよ、友よ」



「まかされた」


ジョンがそういうと老人、善たる王は消えていった。


これはかつて世界を救った名もなき王と悪魔の最後の会話

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