第三章 絵本の思い出

お母さんはいつも読み聞かせをしてくれた。


その絵本の世界に誘ってくれたお母さんは長い黒髪が特徴的な、今思えばすごい綺麗なお母さんだったと思う。


そんな綺麗なお母さんの姿とガブリエルの姿が重なった。


自分がまだ幼いころに読み聞かせをしてくれた絵本の内容は何だったかな……


「マリス、今日の本は何だと思う?」


「うーん、わかんない!」


「今日読む本はね、とある王国の騎士のお話」


とある王国には、とっても優しい騎士と、人情に厚い王様がいました。


その騎士は王様を守ることに誇りを持っていました。


しかし、王は年齢で代替わりをしてしまいました。


新しい王様はすごく好戦的でほかの国を攻め続けました。


優しい騎士は戦争をやめるように王様に説得しました。


しかし、その説得もむなしく優しい騎士も戦線に立たされてしまいました。


すると優しい騎士がいない間に新しい王様は民によって引きずりおろされちゃいました。


新しい王様は自分が守られていたということ革命を起こされてから気づきました。


そして周りにやさしくしなかったことにひどく後悔してしまいました。


そのあと、優しい騎士は新しい王様になりました。


その国は優しい王様が平和をずっと守ったんです。


「どうだった?……って寝ているわね。マリス、あなたは優しいから、この絵本みたいにほかの人を守れる優しい騎士になるはずよ。だから、私がいなくなっても、まっすぐ育ってね」


眠っていた時の記憶なのに、やけに頭にこびりついている。


その一週間後、母親は病気によってなくなってしまった。


もしかしたら、母親はこの時から自分の命がもうわずかだということに気づいていたのかもしれない。


薬を買うお金がないほど貧乏で、ずっとやつれていたのに毎日読み聞かせをしていた母親のことが自分は大好きだった。


ガブリエルは、奇しくも母親に似た髪色で、母親に似た顔をしていた。


「なぜ私の顔をそんなにまじまじと見ているのですか?」


「いや、昔のことを思い出していてね」


「昔のこと……私のモデルは最新型の戦闘モデルなので昔の思い出などないと思われます」


「いいや、こっちの話さ……」


ランタンの炎が二人の影を古びた本棚に揺らめかせていた。


埃の粒が光に溶けて、まるで星屑のように舞っている。


「ねぇガブリエル。もしよかったらなんだけどさ、ちょっと僕のことを腕で包んでくれない?」


「?……はい、わかりました。あなたの命令ならば」


なぜそのようなことをするのかガブリエルは理由がわかっていないのだろう。


自分はどこか、心のよりどころのようなものを感じて変な命令を下しているのだろう。


昔は母親の腕に抱かれながら読み聞かせを聞いていたからだろうか。


記憶の通りにガブリエルの膝の上に載って腕に包まれてみる。


その腕のぬくもりは鉄の温度ではなかった。


内燃機関のせいであろうか。どこか懐かしいぬくもりのようなものを感じた。


「マリス、私は構いませんが、なぜこのようなことをするのですか? どこか悪いところでもあるのですか?」


「大丈夫、ガブリエル。外に碑獣はいる?」


「いいえ、」


「じゃあ今日はここで一旦休もうか。おやすみ、ガブリエル」


「はい、スリープモードに移行します。おやすみなさい」


揺らめく炎と久しぶりの誰かのぬくもりの中で、本棚の間で少しの間の眠りに落ちた。













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心がなかった天使-君と響き合う世界で- ユミル @ymir_0521

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