第一章 廃品置き場にて。

「とりあえず、これで3日くらいなら持つかな……」


 廃品置き場の山の上には、袋に大量のガラクタを詰めた茶髪の男の子が座っていた。


 彼の名前はマリス、ガラクタを集めて機会を作るリサイクルショップで細々と土地代と生活費を稼いでいる。


「クソッ、あの借金取りのやつ、金どころか俺の作った機械まで奪っていきやがって……。毎回金はしっかり払ってやってるのになんて野郎だ……」


 そんな悪態をつきながら、使えそうなガラクタを探していると。


「ん? なんだこれ、機械人形じゃんか、すごいきれいな機械人形だなぁ……。しかも見たことないような技術も使われてるっぽいな。ほぼ新品だし……動力源を入れればそのまま動くんじゃないか?」


 ガラクタの中から非常に精巧で、美しい黒髪の女性の形をした機械人形がそこに捨てられていた。


 ほとんど新品同然のそれに、マリスは一目ぼれしてしまっていた。


「うん。廃品置き場に置いてあったものだからな。最初に見つけた自分が所有権を持つべきだよね。こんな技術が捨てられるなんてもったいないし、これは僕が持っていこうか」


 誰かに言い聞かせるように独り言をつぶやいた後、彼は自分のリサイクルショップ(ショップといってもただのトタン屋根のみすぼらしい小屋なのだが)に連れて帰ってしまった。


 リサイクルショップ内にて。


「よし、あとはここにエンジンをはめて、燃料を入れれば。……完成だ」


 非常によくできた代物。

 彼が知らない技術で作られたにもかかわらず、配列や機能、それらすべてが非常にシンプルに作られており、まさしく芸術作品といった出来栄えであった。


 プシュー!といった音とともに蒸気機関が作動する。


 彼女は目を開けて、マリスをまっすぐ見つめた。


「こんにちは、わたしはガブリエル。ここはどこですか?」


「ここは僕の秘密基地だよ。僕の名前はマリス。よろしくね」


マリスの目には好奇心が宿っていた。


エンジニアとしての性なのだろう。未知の技術に対してワクワクしながら見ていた


「よろしくお願いします。ご命令は何でしょうか?」


「うーん、この子は戦闘用で作られた機械なのかな? 君はどんなことができるの?」


「わたしは基本的な会話と、記憶学習機構を備えています。また、半永久機関を備えており、少ない動力で大きな力を引き出すことにたけています。中には燃料を消費することで出力できる内燃砲と呼ばれる兵器が入っています。あなたの敵を排除することをプログラムされた機械です。質問の回答になりましたでしょうか?」


「ふーん、すごいね。まるで本当の人間みたいな会話ができるんだな。でも、しっかり機械の感じだね。」


「あなたはなぜ、このような古い小屋に住んでいるのですか?」


 随分と失礼なことを言うようにプログラムされたのか? 自分が気にしていることを平然とした顔して言ってくるのか。


「お金がないからだよ。お金があれば、今すぐにでもこんなところからさっさと抜け出して、新しい人生を歩みたいさ」


「お金がなくて困っているのですか、ならばお金を稼げばいいのではないですか?」


 ガブリエルの音声はあくまで真剣で悪気はないように感じる。


 悪気はないからこそ、少しイライラしてしまうのかもしれない。マリスは額を抑えながら「簡単に言ってくれるよ……」と乾いた笑いを漏らした。


 彼女の目を見れば、純粋な好奇心のような瞳をしているように見える。


 ため息をついて、自分の好奇心の強さを呪った。


 そんなに簡単に稼げる話があったら今頃大金持ちなんだよ。そんなうまい話があるわけ……。


 いや、そういえば1か月前、この近くの遺跡に探検家が入っていったっけな。あいつら、ここの碑石ってやつを持ち帰れば大量の金が手に入るらしいぜ!って言ったきり、遺跡から出てきていないな。


 確かあそこは古代文明が発展していたけれど、中にいる碑獣と呼ばれる生物がその遺跡を守っているから中に入れなくって研究が進んでいないらしい。


 あそこの古代文明ならばお金を稼ぐ手段があるかもしれない。


「なぁ、ガブリエル。君の戦闘能力ってどのくらいなのか少しだけテストしていいかい?」


「当然です。」


 少し外に出て、廃品置き場にやってくる。自分は時々このガラクタの山から自作で武器を作ったりしている。最近作ったものはかなり良くできたレールガンだった。


 その試し打ちの場所として、廃品置き場を活用していることもある。


「あそこに立っている鉄のカカシを壊してみせて」


「了解しました。エネルギー装填します」


 そう言うと、彼女は手で銃を構えるようなスタイルをとった。


 指先に大きなエネルギー波を溜めて一気に開放する。


 すさまじい熱量が一本の線となってカカシの心臓部分を貫いた。


 非常に正確な一閃に僕は開いた口がふさがらなかった。


「すごいじゃん!! これならあの遺跡にいる碑獣どもにも対抗できるよ!!」


「お気に召したようで何よりです。で、その碑獣というのはどちらに?」


「うん。碑石っていう古代文明を守っている碑獣っていうやつがいるんだ。君には僕のボディーガードをしてほしいんだ。」


「了解しました。しかしながら、私は敵を排除するプログラムしか入力されていません。あなたの言うボディーガードのようにあなたを守ることを知りません。あなたを守ることは少ないかと思われます」


「いや、十分だよ。君が敵を排除してくれているだけで、探索が楽になると思うから。明日になったら近くの遺跡まで行くから。その時になったらよろしくね、ガブリエル」


「はい、わかりました。エネルギー節約のため、スリープモードに移行します。スリープモード中は燃料を蓄積する状態となります。それではおやすみなさい」


 ガブリエルは随分と機械的な性格らしい。


 今の技術ならばもっと人間らしい性格の機械を作れるはずなんだけど、ここまで機械的な感じにする必要性はなかったんじゃないのか?


 いや、そんなことを考えているのは無駄かもしれないな。とりあえず今日のところは明日からの探索の食料と水、ガブリエルのための燃料と、けがをした時の救急セットを準備して寝ることにしよう。


 それにしても見た目は美しいのに、まさしく機械みたいな冷たい性格と戦いに特化した能力のギャップが自分の脳を混乱させてくれるな。


 そんなことを考えながら、眠りについた。




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