第10話 モブ、師匠に目を付けられる
そうして、騎士団を撃退した俺はお師匠様―フェレールに連れられ、孤児院の食堂で机を挟んで座っていたのだが……直接見るフェレールはゲームで見るものとは迫力が桁違いだった。これ、気迫だけで人が死ぬんじゃね?
そうして、ミュラやエリシル達だけじゃなく、フェレールの隣に座るマフィも固唾を飲んで見守っており、両腕を組んで座っていた【剣聖】に誰もが圧倒されていたが―驚いたことに、その沈黙を破ったのは他ならない【剣聖】である彼女はおもむろに頭を下げてきた。
「―まず、礼を言わせてもらいたい。ありがとう……そして、すまなかった」
「へ? あ、あの、話が見えないんですが……」
突然、謝罪と礼を同時に言われ、わけが分からず俺がそう言うと、俺の言葉にフェレールはゆっくりと顔を上げ、再び両腕を組んで椅子に深く腰掛ける。そして、その鋭い視線をマフィへと向けた後、俺に声を返してきた。
「紹介が遅れた。私の名前はフェレールと言う。礼と言うのは、お前がそこに居る私の弟子……マフィに稽古を付けてくれたことだ」
「え? 俺がマフィに稽古を付けた? いや、俺はむしろマフィに稽古をしてもらっていたような……」
「いや、マフィはその体質……お前はすでに知っているかもしれないが、全属性の魔法が使えるという特異な体質のせいで、初級魔法ですら習得に時間が掛かっていたんだ。そして、それが剣を鈍らせ、稽古にも支障が出ていたのだが……ここ最近、いきなり魔法が使えるようになり、剣の扱いも前とは比較にならないほど上達していた。聞けば、それはお前との稽古で互いに魔法を切磋琢磨してお前からアドバイスをもらった結果だそうじゃないか」
「それは俺がマフィから魔法の存在を教えてもらったからですよ。なんていうか、色々あってそれまで俺は魔法を使う、っていう考えが頭からすっぽり落ちてましたし」
「そうは言うが、マフィがあそこまで魔法を使いこなせたのはシュウ、間違いなくお前のおかげだ。ゆえに、一目そんなお前に直接会い、感謝を述べたいと思っていたのだ……とはいえ、このような状況であったことは申し訳ない」
「別にフェレールさんが気にすることじゃ……」
「いや、実を言うと、私は以前まであの騎士団で団長を勤めていた身でな……にもかかわらず、その部下であった騎士達があのようなことをしてしまったのだ。特にそちらの娘には怖い思いをさせてしまったな……いや、一歩間違えれば死なせていたかもしれない。謝って許されるようなことではないのは分かっている……許してくれ、というのは虫が良いとは思うが……元騎士団長として謝らせて欲しい……すまなかった」
「あ……いえ、確かに、怖かったですけど……彼が―シュウが助けてくれたので……」
「何? この少年が?」
「え? あ、いや~……」
そうして、俺を見てくるフェレールの凄まじい視線に逃げるように視線を逸らす。しまった、エリシルに口止めしてもらうのを忘れてた……この歳でこんなことができるなんて、目立って怪しまれる可能性もあるよな……。
そんな中、フェレールは「ふっ」と笑みを浮かべると、後ろで様子を見ていたマフィに笑顔で声を返していた。
「―マフィ。お前の言う通り、彼にはぜひ私の稽古を受けてもらいたい」
「……はい?」
フェレールの唐突な発言に俺が驚いていると、彼女の隣に座っていたマフィが安堵の息とともに声を返してきた。
「あ―ありがとうございます、お師匠様!」
「えっと……どういうこと?」
「ん? ああ、お前は知らなかったか。さっき言った通り、マフィからお前のことを聞かされていたというのは話したな? それで、マフィからお前にも私に稽古を付けてもらえないかと相談されていたんだ」
「え……?」
「ええ!?」
「こ、シュウが稽古場で剣の稽古を……?」
あまりにも突拍子もない話に俺が驚いていると、それ以上に驚いていたのは後ろで話を聞いていたミュラとエリシルだった。特に、口を抑えて驚くエリシルよりもミュラの驚きはすさまじいもので、ミュラにしては珍しく口を半開きにしたまま固まっていると、やがて我に返ったミュラが慌てた様子で声を上げていた。
「ちょ、ちょっと待って! いきなり来て、シュウを連れて行くなんて……そんな話、聞いてない!」
「ん? ほう……見たところ、お前もその歳にしてはなかなか才能があるようだな」
「え? わ、わたし……?」
「ああ、そうだ。それと、心配しなくても無理矢理連れて行ったりはしないし、本人が望むなら稽古はここに来て指南するというやり方でも構わないぞ」
「え? フェレールさんがここに来て教えてくれるんですか?」
フェレールの思わぬ提案に驚いてそう返すと、彼女はしっかりと頷いて返してきた。
「ああ。だから、受けるかどうかは本人が決めてくれれば良い。それに、お前も受けるつもりなら一緒に指南してやろう」
「わたしも……?」
そう言って、フェレールがミュラに視線を向けると、さっきの騎士達の戦いを思い出したのだろう。ミュラはエリシルと俺を見た後、強い口調で声を返した。
「……わたしは強くならないといけない。さっきもエリシルを守れなかったし……だから、シュウと一緒に稽古を受けるわ」
「そう来なくてはな……少年、お前はどうする?」
「それはもちろん、受けさせてもらえるなら受けたいですけど……俺だって、みんなを守りたいですから」
「ふっ……そうか」
実際、さっきのを見て分かった……フェレールは間違いなく強い。
そういえば、フェレールって『プリテスタファンタジー』だと非戦闘員だったからステータス見れなかったんだよなぁ。まあ、【剣聖】なんて言われるくらいだし、きっとかなり強いんだろう―
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Lv 89
『剣聖』
武器ダメージ増加【特大】
クリティカルダメージ【特大】
剣撃【特大】
連撃【特大】
必殺
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――ひ、捻り潰される!
俺はこの世界で生まれて初めて、恐怖という感情を知った。
えぇ、何このステータス……そりゃ、さっきの騎士達の鎧が素手で壊れるわけだよ……化け物じゃん、この人。
レベル100がカンストの世界でレベル89とか……もはや、ゲーム終盤どころか、隠しダンジョンのボスも倒せるレベルなんだけど。ゲーム内だとステータスって高ければ高いほど良いけど……これ、本気で殴られでもしたら、多分、死人出るんじゃね?
「ん? どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
少なくとも、ステータスはレベル30の俺が補正付きでも遠く及んでない。文字通り、簡単に捻り潰されてしまうだろう……怖い。
「ん……?」
そうして、俺がフェレールに戦慄していた時だった。
ふと、ついさっきまで勢い良く声を返していたミュラが何やら黙り込んでブツブツと言っていることに気付き、俺は耳を傾けた。
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