第4話 モブ、ラスボスのステータスを見る
「―さっきの話、エリシルの前ではしないで」
孤児院の外にある河原に連れて来られ、二人で川に向かって座っていると、ミュラがそんなことを言い出してきた。
「さっきの話? 王国が孤児院に何か言って来てるんじゃないかって話か?」
「そう……エリシルは秘密だ、って言ってたんだけど……わたしは聞かされたから知ってる。王国が孤児院を壊そうとしてるって……」
「やっぱり、そうなのか……」
「うん……ここを壊して、新しく何か建てるんだって。大人の言うことは分からないけど……そう聞いた」
俺の記憶だと、今の孤児院のある場所には工場があった。つまり、王国の発展のために孤児院を潰して工場を作ろうとしているのだ。
「今は孤児院の先生がどうにか話をしてくれてるから良いけど、いつまで居られるか分からないんだって……他の孤児達には秘密にしてって言われてたけど、コウトは知っちゃったみたいだから」
「教えてくれてありがとな。ただ、そっか……孤児院が無くなるのは困るよ」
「うん……せめて私達が独り立ちするまでは残しておく、って先生も言ってたけど……」
「……」
……残念ながら、それは叶わないことを俺は知っている。現に、物語開始数年前に孤児院は無くなっており、その孤児院がどこにあるのかすらゲーム内で語られる描写がない。
つまり、このままだと孤児院は間違いなく壊され……そして、エリシルや俺を含めたミュラ以外の孤児は生き残らないというバッドエンドだ。
――俺が死んだらどうなるか、なんてのは二の次だ。それより、エリシルや孤児達……それに、ミュラの将来をこんなところで潰させてたまるか。
そうと決まれば、『その時』のために力を付けておく必要がある。そういえば、ラスボスであるミュラは魔法の適正が高く、戦闘力も他の比じゃなかったな。
――どれ、悪いとは思うけど、ちょっとステータスを覗かせてもらうか。
とりあえず、ミュラ以上のステータスを身に付ければ、孤児院を守れるかもしれないしな。そうして、ミュラのステータスを確認してみたのだが―
「―こ、これは!?」
「……どうかした?」
「え? あ、いや……」
驚きのあまり俺が声を上げ、ミュラが声を返してくるが……俺はそれどころではなかった。
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Lv2
『女帝』
全ステータス上昇補正【大】
全状態異常耐性【大】
魔法【上級・全属性】
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――ミュラのステータスの数値が俺の比じゃない! すごいことになってるぞ!? スキル『女帝』……全てのステータスに強化補正が入り、全状態異常に耐性まである……これ、ゲームのまんまじゃないか!
そうして俺が驚いていると、さらに怪訝な顔をしたミュラから声が掛けられた。
「コウト? どうしたの? さっきから本当に変だよ?」
「あ、いや……はは、いや、ちょっとな。ただ、さっきの話を聞いて、俺も頑張って孤児院を王国に渡さないようにできたらと思ってさ」
「そんなことできたら良いけど……」
ミュラの言う通り、今のままでは無理だろう。
だとしたら、それまでに強くなってみよう……俺は一人、そう心に誓うのだった。
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