第3話 スキル『』
「―おぉ、自分のステータスが見えるのか」
部屋に戻った俺は、自分のステータスを表示して驚いていた。ちなみに孤児院だから本来は相部屋だが、今は孤児が少ないため、一人一人部屋が割り当てられている。
というわけで、俺は周りの目を気にすることなくこういうことが試せていた。
「ステータスは……『プリテスタファンタジー』の画面そのままだな。え~と、俺のレベル1で、ステータスは……さすがに詳しい数字は覚えてないけど、やっぱり、マフィとほとんど同じに見えるな。ただ……何だこれ? スキル『』って……空白じゃないか。本来ならキャラのスキルとか色々あるのに、『』って……まあ、見た目が主人公でも、今のポジション的にゲーム未登場のモブキャラだし、仕方ないか。それにしても、このステータスってこの世界の標準なのか?」
ゲームの世界ではあるが、ストーリー上に「ステータスを確認して」なんて言う作品は稀だし、『プリテスタファンタジー』の中ではなかったしなぁ……。
「よし、この世界で浮かない為にも常識のすり合わせをしておこう」
「―ステータス? 何それ?」
そうして、俺はひとまずミュラとエリシルの二人を呼んでステータスについて尋ねると、ミュラが怪訝な顔でそう返してきた。エリシルの方もミュラと顔を見合わせると、少し悩むような仕草を見せた後、声を返してくる。
「うーん、私も聞いたことないけど……あ、でも、スキルで相手のことを少し知ることができるっていうのがあるとは聞いたことがあるわ。すごい珍しいスキルらしいけど……」
そういえば、『プリテスタファンタジー』の中にそういうのあったな……弱点が見えたりとか。便利ではあるが、確かにあれは一部のキャラが覚えられるスキルだった。まあ、もちろん、自分の仲間のステータスは見れるけど。
――ということは、この世界でもそれは『プリテスタファンタジー』と同じってことか。だとしたら、これはなるべく秘密にした方が良さそうだ。バレたら騒ぎになりそうだしな。
そんなエリシルの言葉に考えごとをしていると、ミュラが訝しげな顔をしながら声を返してきた。
「それで? どうして、いきなりそんなこと聞いたの?」
「え? あ~……いや、窓の外でそんな話をしてた人が居たから気になってさ」
「そうねぇ、そういうスキルは珍しいからすぐに噂になるものね」
「まあ、そうだよなぁ……」
そう言って、俺はエリシルの話に頷き返す。やっぱり、これは隠しておいた良さそうだ……。
――それにしても、本当にこの孤児院が無くなるのか?
この孤児院は物語が始まる前に先代の国王によって取り壊されたらしく、そこで他の孤児達も犠牲になってミュラが復讐に燃えて王国を襲う……というストーリーだったと思うが、今のところそんな感じはない。
ゲームの設定だから詳しい日付なんかまでは分からないけど、もしこれが本当に『プリテスタファンタジー』の正史通りに進むなら、どこかで王国の軍が迫ってくるってことだよな……昼飯の量も少なかったし、経営が厳しいとかそういう理由があるんだろうか。
「あのさ、エリシルに少し聞きたいんだけど……」
「ん? なあに?」
「最近、王国からこの孤児院に何か言われたりとかしてない?」
「え……?」
俺の質問にエリシルが明らかに動揺した様子を見せる。しかし、すぐに笑顔を見せると、笑みを返してきた。
「何言ってるの? 王国がこんな小さい孤児院を気にするわけないじゃない……それも、窓の外から聞こえてきたの?」
「あぁ……うん、まあ、そんなところ」
エリシルの言葉に苦笑いで返す。もちろん、そんなことはなく、ゲームの知識で確認しただけだ。だが、エリシルの反応を見れば、充分分かる……すでに、正史に向けて孤児院崩壊のフラグは立っている。つまり、このままいけば孤児院は壊され、ミュラがラスボスになってしまう。
そんな俺達を交互に見ていたミュラだったが、ふと何を思ったのか俺の手を取ると、驚くエリシルと俺に声を返してきた。
「ねえ、シュウ。晴れてるし、遊びに行かない?」
「え? あ、うん、別に良いけど……」
「そうね。いい天気だし、二人で遊んでらっしゃい」
「うん、行ってくる」
「お、おい、ちょっと!?」
「いってらっしゃい~」
そうして、俺はミュラに連れられ、孤児院の外へと出たのだった。
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