18日目
調査18日目:2020年11月19日〜11月20日
ニュース速報:地方新聞 電子版
速報:ダム地下施設への突入作戦、膠着か 異常振動の報告
2020年11月19日 15:30 報道
本日未明に発生した子籠ダム管理棟地下施設への不審者侵入・立てこもり事件は、発生から12時間以上が経過した現在も解決の目処が立っていない。警察当局は特殊部隊を投入したが、地下の旧貯水設備に通じる扉前で強力なバリケードにより阻止され、作戦は膠着状態にある模様だ。当局は情報統制を続けるが、関係者からは「堤体内部から通常ではありえない異常な振動が断続的に報告されている」という情報が漏れており、ダムの構造的な安全性への懸念が高まっている。
◇
地方テレビニュース:『デイリー・トピックス』より(専門家インタビュー)
コメンテーター:神代 岳(元公安警察) / 西野 賢治(社会評論家・オカルト否定論者)
キャスター: 「ダム地下での立てこもり事件は、発生から半日近くが経ちました。現場の緊張が高まる中、この事態をどう見るべきでしょうか。西野さん、やはりこれは集団ヒステリーの延長だとお考えですか?」
西野(社会評論家/オカルト否定論者): 「はい。これは、ネット上で拡散された呪いや都市伝説に熱狂した者たちが起こした集団狂信の暴走です。彼らの目的がダムの物理的な破壊であれば、それは明確なテロですが、彼らの言動からは『呪いの箱』などといった非科学的な用語ばかりが聞かれます。私は、彼らを刺激せず、警察が時間をかけて説得し、この悲劇的なヒステリーを収束させるべきだと考えます」
キャスター: 「神代さんは、西野さんの見解をどう受け止めますか。異常振動の報告も上がっていますが」
神代(元公安警察): 「西野先生は、相変わらず論理の箱から出ようとしない。ダムの『異常な振動』は、単なる心理現象では説明がつきません。私は、地下で立てこもっている彼らが、意図せず『呪いの力』を解放してしまい、ダムそのものが霊的な危機に瀕していると見ています。このダムの呪いは、論理を超越した『非論理的動機』であり、公安的な視点から見ても、これ以上の事態の進行は地域社会の崩壊に直結します。一刻も早い『呪い』の鎮静化が必要です」
西野(社会評論家/オカルト否定論者): 「(強い口調で)神代さん!あなたの言う『呪いの鎮静化』とは、具体的に何を指すのですか!警察の手に負えない事態だからといって、安易にオカルト的な概念を持ち出すのは無責任極まりない!異常振動の原因は、地下の戦闘による可能性の方が高い。あなたの発言は、真実を『非科学的な恐怖』で塗り固めようとする、危険な扇動です!」
神代(元公安警察): 「私は、目の前で起きている異常事態を『非科学的』という言葉で片付ける方がよほど無責任だと思いますね。ダムの崩壊が、水元透氏の意識不明の件や、橘あかりさんの覚醒と因果関係にあるとしたら? その時に『呪いではない』と言い切れる学者などいるのでしょうか!」
キャスター: 「お二人とも、ありがとうございました。事態の収束を願うばかりです」
◇
掲示板スレッド:オカルト・奇譚
呪いの箱を解呪する方法急募します(Part 12)
タイトル: ニュース見たか!警察が動いた!急げ! 投稿者:真実の探求者 投稿日時: 2020年11月18日 10:30
(前回記事の継続、追加コメントのみを表示)
No. 146. ユーザー名: 深層恐怖 投稿日時: 2020年11月19日 16:00
コメント本文: 全員、警察の包囲で音信不通。地下の扉は破られていないようだが、ダムから響く振動がやばい。子守箱の封印がもたないのか。Akariさんは今どこにいる?彼女の儀式が成功しなければ、俺たちは全滅だ。
No. 147. ユーザー名: 陰謀論者 投稿日時: 2020年11月19日 16:15
コメント本文: あーあ、予想通り自滅じゃん。地下に籠ってダム爆破なんて、カルト映画の見過ぎ。ダムの振動なんて、警察が突入しようとしてる音だろ。冷静になれ。
No. 148. ユーザー名: 子籠住民 投稿日時: 2020年11月19日 17:00
コメント本文: (No. 147へ)ふざけるな! 振動は朝からずっと続いている! ダムは確実に悲鳴をあげてる! 昔から水神様の怒りって言われてきた音だ! 村が沈むぞ!
No. 149. ユーザー名: 真実の探求者 投稿日時: 2020年11月19日 18:30
コメント本文: 結論。地下の仲間たちは、物理的な時間稼ぎという役割を果たした。残るはAkariさんの魂の儀式にかかっている。彼女がどこにいるか。ダムの振動は、儀式への最後の警告だ。
No. 150. ユーザー名: 呪い殺し 投稿日時: 2020年11月19日 19:10
コメント本文: 寺子屋跡(慈童庵)の場所、古い地図で確認した。ダムから見て上流側、旧参道を通って行けるはずだ。誰か、Akariさんが辿り着けるように、結界を破る方法を知らないか。
No. 151. ユーザー名: 部外者A 投稿日時: 2020年11月19日 20:00
コメント本文: 警察はもうすぐ突入するだろう。地下の連中はテロ犯として処理される。橘あかりも、見つけられ次第保護どころか拘束される。呪いなんて関係ない。これが現実だ。
◇
葉月による手記:
タイトル:地図は嘘をつく—結界による拒絶
場所:子籠ダム下流 山道
私は、懐中電灯と毛布を抱き、闇の中を走った。警察のサイレンは遠ざかっていくが、代わりに、皮膚に纏わりつくような異常な冷気と粘着質な圧迫を感じ始めた。霊的な空間へ足を踏み入れた証拠だった。
私は、民宿で見つけた古い地図を信じ、寺子屋跡(慈童庵)へ続く旧参道を辿った。地図によれば、あと数十分で辿り着けるはずだった。
しかし、一時間近く歩いた後、私は立ち止まった。
周囲を見回すと、見覚えのある苔むした巨岩と、折れ曲がった木の根がある。私は、間違いなく一時間前、この場所を通り過ぎている。私は、同じ場所に戻ってきていた。
何度も、地図を確認し、コンパスで方角を定める。すべてが正しい。道は一本道だ。それなのに、私は進んでも進んでも、寺子屋跡へは辿り着けない。
子どものすすり泣きのような「ヒュー、ヒュー」という音が、足元から聞こえる。まるで、私を嘲笑しているかのように。
この空間は、私を拒絶している。
私は単に道に迷ったのではない。惨殺された子どもたちの**「愛への飢え」が、この一帯を物理的な地図を無効化する結界に変えているのだ。あかりさんが単独でこの拒絶を突破できたのは、彼女が「供物になる覚悟」を持っていたからだ。
私を包む圧迫感は増していく。子どもたちの霊が、私をあかりさんの代わりに、この場所の「新たな供物」として引き込もうとしている。私は、恐怖で立ち尽くした。追跡は、開始早々、絶望的な難航を強いられた。
◇
ボイスメモ / 葉月
記録日時: 2020年11月20日 00:10頃
(背景に、遠くでかすかに聞こえるサイレンの音と、荒い葉月の息遣い)
葉月:「……ッ、ダメ。一歩も進めない。私は、結界の縁の、この崩れた石積みの陰に隠れている……。地図は捨てた。地図が機能しない。何度進んでも、同じ場所に戻る……。もう、何時間も……」
(子供たちの笑い声)
葉月:「……まさか、あの。あかりさんを辱めた子どもたち?
……正確には気の遠くなる時間、愛されなかった、愛に飢えた子供たちの……霊?」
(複数の子どもたち、笑い声が強くなる)
葉月:「……あの子たちが、私をあかりさんの代わりにしようとしてる……の?」
(葉月が衣服を抑えるような、焦燥した摩擦音)
葉月:「あれが、子どもたちの『愛への飢え』。私には、あれを受け入れる覚悟がない。あの……受け入れる姿になることへの恐怖が……私を動けなくする……」
(葉月が衣服を抑え、足を震わせる音)
葉月:「あかりさんは、きっともう、この結界を突破した。この空間は、『愛を捧げた聖女』しか許さない……。私は、彼女の尊厳を守るための毛布すら、あかりさんのいる場所まで持っていけない。……時間だけが過ぎていく……」
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