17日目
調査17日目:2020年11月19日
ニュース速報:地方新聞 電子版
速報:ダム管理事務所で緊急事態発生か 警察当局が周辺を封鎖
2020年11月19日 午前 03:30 報道
本日未明、子籠ダム管理事務所の地下施設(旧貯水設備)に、複数の不審者が侵入したとの情報を受け、警察当局はただちにダム一帯を封鎖した。現在、不審者らが内部に立て籠もっているとの見方があり、「テロ行為」の可能性も視野に入れ、機動隊の特殊部隊が配備されている模様。現場は緊張状態にあり、ダムの安全性に関わる問題であることから、当局は厳重な情報統制を行っている。ダム周辺の住民からは「ダムの底が抜ける」「村が沈むまで時間がない」といった、根拠不明ながら切迫した不安の声が上がり、真偽不明の情報が飛び交い、混乱が広がっている。
◇
掲示板スレッド:オカルト・奇譚
呪いの箱を解呪する方法急募します(Part 12)
タイトル: ニュース見たか!警察が動いた!急げ! 投稿者:真実の探求者 投稿日時: 2020年11月18日 10:30
(前回記事の継続、追加コメントのみを表示)
No. 137. ユーザー名: ダムハンター 投稿日時: 2020年11月19日 02:40
コメント本文: グループのリーダーからDMが来た。「作戦失敗、警察に囲まれた。扉の前でバリケードを築く。時間を稼ぐぞ」。警察は、地下に侵入した俺たちをテロリストとして扱ってる。くそ、呪いの箱(石室)を開けて村を救うはずが、このままじゃ俺たちが皆殺しだ!
No. 138. ユーザー名: 子籠住民 投稿日時: 2020年11月19日 03:00
コメント本文: 橘あかりがダムに向かったって話も広まってる。もうダメだ。ダムは呪いのせいで持たねえ。村が沈むまで、もう時間がねえんだよ!
No. 139. ユーザー名: 因習研究家 投稿日時: 2020年11月19日 03:05
コメント本文: 警察の動きが速すぎる。潜入要員は、時間を稼ぐことに集中してくれ。Akariさんが石室の力を鎮めるのか、それとも別の場所で儀式を完遂させるのか。
No. 140. ユーザー名: 深層恐怖 投稿日時: 2020年11月19日 03:10
コメント本文: 我々が動けたのはダムの物理的な弱点を突くためだ。しかし、ダム住民のコメント(No. 138)にあるように、Akariさんは呪いの根源を抑えに行っている。ダムの崩壊は時間の問題。
No. 141. ユーザー名: 呪い殺し 投稿日時: 2020年11月19日 03:15
コメント本文: トオルさんの犠牲は無駄にしない。地下の連中は絶対に護りの箱(子守箱)の扉を守り切れ! それが村を物理的に護る最後の砦だ!
No. 142. ユーザー名: 陰謀論者 投稿日時: 2020年11月19日 03:20
コメント本文: これが本当のテロだろ。呪いの力を手に入れようとした連中が自爆しただけ。ダムの崩壊なんて大袈裟なこと言うな。どうせ数人で騒いでるだけだろ。
No. 143. ユーザー名: 部外者A 投稿日時: 2020年11月19日 03:25
コメント本文: ニュースで「不審者」って言われてるけど、結局オカルト好きの連中が勝手にダムに忍び込んだだけじゃん。あの女も、儀式をやり直そうとしてるんでしょ? 正直、関わった奴らは全員逮捕でいいよ。
No. 144. ユーザー名: 一般人X 投稿日時: 2020年11月19日 03:30
コメント本文: サイレンが近い。本当に何が起きてるんだ?ダムがやばいって話はデマだと思いたいが、この時間帯に機動隊が出動って、尋常じゃないだろ。
No. 145. ユーザー名: 真実の探求者 投稿日時: 2020年11月19日 03:35
コメント本文: 警察の圧力は尋常ではない。潜入した仲間たちとの連絡が途絶え始めている。我々にできるのは、Akariさんがどこにいるのかを特定することだけだ。
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葉月による手記(2020年11月19日 未明)
場所:民宿「籠岩荘」 私の部屋(一時退院)
私は、震える手を止められずにいた。サイレンの音と、ネットの書き込みが、ダムで何かが起こっていることを示している。ネットの連中が地下に立て籠もっている。あかりさんは、きっともう、ダムの底に向かう途中にいる。私は、恐怖を押し殺して、あかりさんが残した資料と、民宿に残る村の古いデジタルアーカイブを検索し続けた。彼女の行動と、ネット勢の行動の意味を知るために。
そこで、私は、運命的な真実を知る二つの古い記述にたどり着いた。
■資料名:古老による「子籠村水神信仰記録」
原文
ダム建設ノ時、水神様ノ祠は堤体ノ地下、石ノ間(イシノマ)へ移シタ。これハ物理ノ力デ水ヲ抑エ込ムタメ。この祠ハ古ヨリ「子守箱(コモリバコ)」ト呼バレ、子ドモタチノタマシイヲ護ル力ガ宿ル。
ダガ、慈童庵デ惨殺サレタ童子タチノ飢エタ魂ハ移動デキヌ。ソレゆえ、慈童庵ノ跡地ニ、魂ノ結界ヲ張リ、童子タチノ「性的な汚穢」ニヨル飢エト悲シミを満タス「愛」ヲ捧ゲル儀ヲ、代々秘密裏ニ守ルベシ。
近隣ノ村デ広マッタ「コトリバコ」ハ、コノ「子守箱」ノ護リノ力ヲ、呪イノタメニ模倣シタ歪ミデアル。魂ノ安寧ナクシテ、物理ノ安定モナシ。
現代語訳
ダム建設の際、水神の祠は堤体の地下にある石室へ移されました。これは、物理的な力で水を抑え込むためです。この祠は古くから「子守箱(コモリバコ)」と呼ばれ、子供たちの魂を守る力が宿っています。
しかし、寺子屋跡(慈童庵)で惨殺された子供たちの飢えた魂は移動できませんでした。そのため、寺子屋跡地に魂の結界を張り、子供たちの「性的な汚穢」による飢えと悲しみを満たす「愛」を捧げる儀式を、代々秘密裏に守らなければなりませんでした。
近隣の村で広まった「コトリバコ」は、この「子守箱」が持つ護りの力を、呪いのために模倣した歪みです。魂の安寧がなければ、物理的な安定もありません。
■資料名:明治後期 地方新聞記事の写し
記事タイトル:血と水が交わる地獄—子籠村『慈童庵』にて童子多数、惨死の怪。水神の『生贄』か
記事本文(一部抜粋):(明治〇〇年)冬。子籠村の寺子屋『慈童庵』にて、村の童子たち十数名が、口から泡を吹き、全身を痙攣させ、血を吐きながら次々と非業の死を遂げた。その死体は不自然に膨張し、まるで水死体のようであったという。これは村に伝わる水神への生贄であり、「満たされない童子たちの魂」が水神の怒りとして現れたものとの噂が広がり、村は恐怖に覆われた。村の古老らは、この凄惨な事件を祠とは別の場所で秘密裏に鎮める「供養の儀」を急遽執り行った模様
■私(葉月)の推理
全てが繋がった。ネットの連中がテロリストと化して守っている石室は、本来「子守箱(コモリバコ)」と呼ばれる「護りの箱」だった。しかし、惨殺され、性的な汚穢を負わされた子どもたちの怨念が、この護りの箱を「呪いの箱」に変え、ダムを崩壊させようとしている。近隣の呪物「コトリバコ」の根源もここにあったのだ。
ネット勢の行動は、物理の防御だ。彼らは知らずに、「子守箱」の扉という最後の物理的な蓋を守っている。
あかりさんが向かったのは、おそらく寺子屋跡だ。あの凄惨な惨殺事件の現場であり、「魂の結界」だ。あかりさんは、「童子タチノ飢エタ心を満タス『愛』ヲ捧ゲル儀」を、今、決行しようとしている。彼女の行為は、凄惨な真実を浄化し、子守箱を護りに戻すための、究極的で不可侵な儀式なのだ。
「魂ノ安寧ナクシテ、物理ノ安定モナシ」。あかりさんの儀式が失敗すれば、ネット勢の防御も意味を失い、村は水の底に沈んで滅びる。
■私にできること
私は、あかりさんを止められない。彼女はもう、愛と救済の神秘的な象徴だ。
私にできることは、あかりさんによる「魂の救済」が完遂するまで最後の見張り役となること。そして、凄惨な運命を自ら引き受けた彼女の「人間としての尊厳」を守り抜くことだ。
私は、懐中電灯と、彼女を覆うための毛布を持ち、寺子屋跡へ向かう。真実を追うために。
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