第5話 私は優夜が好きだ

  【あなたはもう死んでいる】

  【現在のノード20150302.22.03】 下はベッドの感触で、横には怪物が横たわっている。

  セーブポイントは一体何に関係しているのだろうか?

  わからない、とにかくこのすべては       

 「神」によって定められたものだ。人間が神の意思を推測することなどできるはずがない。神が自分を死なせれば死ぬし、生かせば生きる。

  でもやはり···

  蘇曜は木立たしくリビングに歩み寄ると、視界がぼやけてきた。

  強い無力感が襲った。

  全力で怪物を殺すなんて

  きっと方法があるなんて。

  結局のところ、被害者は自分自身だけなのだ。

  誰も自分の言葉を信じてくれない。

  ようやく理解したような気がした。

  最初から間違っていた。

  最初から反抗すべきではなかった。

  だって、恋愛ゲームは明らかに恋をさせるものじゃないか?名前と同じように。

  うーん、だから迂回する必要があるのか?

  ただ…

  「優夜」

  蘇曜は寝室に戻り、怪物の小さな体に這い上がった。

  「お兄ちゃん?」

  優夜は目を覚ました。

  「私だって、本当に優夜が大好き。優夜と一緒にいたいんだ」

  「優夜もお兄ちゃんのことが大好きよ」と、

  それはヒッヒッと笑った。

  「あああ」

  蘇曜は優夜を抱きしめた。

  どうやら、怪物は「好き」という言葉をまったく理解していないようだ。それの目には、ネズミが好きという意味と同じではないだろうか? それはわからない。

  蘇曜が最初に意図していたのは、これではない。

  彼は思った。もし恋愛なら、100の好感度に達した以上、何を話す必要があるだろうか?

  それなら、そのまま直接やってもいい?とにかくもう完全に諦めてしまったから、むしろ最初から慣れさせておくほうがいい。

  おそらく怪物は拒否するはずがないが、蘇曜にはどんな感情も感じられなかった。ただ、嫌悪感だけだった。

  記憶の中にある、漂い回る繊毛や口器、触手であっても、

  あるいは、殺されて、肉に絡みついた皮や腸を見たこと。

  さらには、寒気がして怪物が興奮した時に本体を現し、自分を肢解して少しずつ食い荒らすのではないかと想像するようなことも。

  いいんだ。

  何もしなくていい。抱きしめているのは、最初の時と同じように、腕のひらに怪物の小さな頭を抱えている。耳元には彼女の均一な呼吸音が聞こえる。

  昨日のことなのに、本当に長い時間が経ったような気がする。確かに最初は正しい道を進んでいたのに、なぜそんな余計なことをする必要があったのか?

  それでいい。

  もう諦めた。私が諦めればそれでいいだろう?

  被害者が私の一人だけでいいだろう?

  うん、問題ない。全部受け入れる。私はそういう正義者だ。そんなに優しい人間だ。

  蘇曜は悪夢を見た。自分も怪物になった、と。二人の怪物が交尾し、人を食べていた。ネズミを食べていた。

  でも、それも大丈夫だ。

  目が覚めた後、まだ夜明け前だったことに気づき、そのまま眠りについた。嫌な怪物を抱きしめながら。

  すべてを受け入れたから、もう反抗するつもりはない。

  翌日。

  「……なぜ?」と

  蘇曜は惨叫を聞いた瞬間、立ち上がり、壁の隅で息絶えようとしている人を見ると、言葉が出てこないほどだった。

  その女は衣を血で染め上げたのに、まだ死なず、胸の下が弱く揺れる。

  「……」

  「朝からずっとドアを叩いていたんだよ」

 「お兄ちゃんに少しでも寝かせてあげようと思っていたのに」

  優夜の尾は高く振れ、まさに最後の一撃を仕掛けるように見えた。

  一瞬の狭い空間に、音は一切なかった。

  あの愚かな女はまるで呆然としており、幻のように蘇曜をじっと見つめている。

  怪物が自分と話しているのを聞いたのはあまりにも衝撃的で、怪物が自分と同じ味方になるなんて、まったく考えられなかった。

  ああ。

  愚かな女は自分をじっと見つめ、絶望に震えながら。涙と血が彼女の顔から斜めに流れ落ちる。本当に汚い。

  私には?

  抵抗しなくなった私、何をしているの か?

 「プッ!」

  蘇曜はテーブルの上からフライスナイフを取り上げ、優夜の後ろからその心臓へ刺す。

  「ウーー——」

  部屋の中から誰かの小さな悲しみが聞こえた。

  「お兄ちゃん?」

  優夜は視線を移し、とても不思議そうにした。

 「キモイ…本当にキモイ。そんなに呼んでくれないでよ」

  蘇曜は優夜の心臓に刺さった刀を抜き出した。奇妙だ、本当に奇妙だ。刺さっても傷があるのに、なぜ血が全く出ないのか? どうして彼女はまだ話せるのだろう?

  「優夜はキモイ?」

  「じゃあ、可愛いと言うか?キモイくそ怪物」

 「··…」

  【狂気と歪みが絡み合ったもの】

  【人物:優夜】

  【好感度:-100】

  【説明:あなたは死ぬ】

  刃を抜く前に、その結果はもうわかっていた。だから蘇曜は彼女を見なくなった。むしろ振り返り、地面に横たわり、震えながら泣き続ける自分を見ている可哀想な人を見いた。

  本当に愚かだ、またあなたのせいで殺される。

  いや、あなたを責めるわけにはいかな い。

  だから、多少は報いにすべきだろう。

  「大丈夫だ。」だから蘇曜は地面にしゃがみ込み、彼女の頭を抱きしめ、視界を遮った。

  「お兄ちゃんがずっと優夜を騙していたんだね。」

  「プッ——」

  蘇曜は彼女の尾の先にある刺し針が自分の胸から通り抜けて、再び胸を貫くことに気づいた。

  そして、愚かな女は胸の衣服を掴んで「うーん」と泣き叫び続けている。何と言っているのか?口からは血の泡がこぼれ、本当に醜い。

  ああ。

  この度だけ救ってあげる。次はもう死なせてやらないで。お願いだ。

 【あなたはもう死んでいる】

  【現在のノード:20150303.07.31】

  時が変わってしまった。もう午後ではない。

  床に触れる感触。

  「ドンドン」

  誰かがドアを叩いている。

  「嫌だな」と。

  蘇曜は優夜が横から起き上がったのを見て、一瞬で立ち上がって「そのまま寝て!」と言った。

  「外に出てみよう。何か…配達かも」

  「…配達って何だ?」

  「配達とは、買ってあるものを他人に届けてもらうことのことよ。とにかく、お前は寝なさい。私が行ってみる」

  「はい」

  優夜はまた横になった。

  蘇曜は一気に気を抜き、素早くコートを着て外へ出た。同時に寝室のドアも閉めた。部屋が狭いので、ドアが開いていないと少し視線を移せば外を見つめることが可能だった。

  「あの、すみません、こんなに早くまでお邪魔したのは…?」

  「お邪魔するのを知っているなら、なぜ叩くの?」

  蘇曜は彼女の頭上を余光で覗き見した。

  【君のことが好きな女の子】

  【人物:夏弦月】

  【好感度:92】

  【説明:あなたがとても好きだ】

  彼女は今日、淡い青色の制服を着ていて、水のような色のリボン付きスカートに白い膝上まで届く靴下を履いていた。白いスポーツシューズを履き、

  細長い髪は今もまた一筋のポニーテールで結んでいた。前が丸く後ろが尖ったスタイルで、いつものように美しかった。

  このセットはまさに完璧なヒロインだ。何でも揃っている。

  しかし、今すぐうまく処理できなければ、すぐに死んでしまう。

  「まあ…ちょっと心配だな、阿曜。」

  夏弦月は意図的に視線を避け、ぐずぐずと答えた。また卑屈な様子だった。

  「どうして心配する必要があるの?私が心配が必要のような顔してる?。大丈夫、君の顔から見ればどこへ行くつもりか、やるべきことをやろう、私は何のこともない」

  「あたし……」

  彼女は顔を上げ、瞳に何か決意が宿っているように見えた。「…ちょっと入らせていい?」

 「また後で。」

  正直なところ、蘇曜はそのような目線を見た時、少し心が痛むほどだった。

  でも実際には、それは自分と何の関係があるというのか?

  それに、彼女を救っているんだ。どこからでも追い払うのは間違いじゃない。

  だから、蘇曜は彼女を押しのけ、ドアを閉めようとした。

 「いや!」

  一瞬で、彼女の声が大きくなりすぎて蘇曜は呆然とした。

  「私ならダメなの?」

  「どこにも行かないつもりだ!」

  「わざわざ好きな服に着替え、薄メイクをして、ネイルも塗って、ここに来たんだ!」

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