ACT.8

「被告人・あやか、前へ――」


ぴた……ぴた……

全身ぴったりとした白タイツに包まれた女子高生・あやかが、法廷の中央に歩み出る。

今日は普通の授業ではない。そう、これは**「タイツ裁判」**。

布社会における重大な“布違反”があった場合、必ず開かれる、伝統ある儀式。


場内は静まり返り、ぴたぴたという足音だけが響く。

そして――タイツ判事が着席する。

大きなフード付き漆黒ゼンタイローブをまとい、椅子に沈むその姿は、まさに“布の威圧”。


「被告人あやかに問う――

 本日三限目、**“校内タイツマナー第五条・布のねじれ禁止”に違反し、

 右太もも内側に“しわ”が確認された。異議はあるか」


「……ひとつだけ……」

あやかはぴたぴたと深呼吸をし、答えた。

「体育後、きちんと布圧整えたはずでした……でも……風が……風がっ……!」


ざわっっ……!

傍聴席(全員ぴたぴた)の布がざわめく。


「風のせい……だと……?」


検察:紅の布剣士・みな


「風のせい? それで納得するとでも思ったの!?」

みなは真紅のゼンタイスーツに、タイトなスカーフを巻いて現れた。

「私はこの目で見たのよ! あやかのタイツに“くっきり横しわ”が――っ!」


「そ、それは動いた直後で! その後ぴしっと……」


「ぴしっとじゃダメなのよ!」

「ぴったりでなきゃ、意味がないのよ!」


弁護人:ふわふわ布魔女・つぐみ(妹)


「待ってください!」

つぐみはラベンダータイツのローブを翻して立ち上がる。

「姉は確かに一時的にしわを生みました! しかし!

 その後きちんと校則通り布オイルを使用し、布圧を再調整しております!」


判事「証拠は?」

「こちらです! 体育後のロッカールーム記録、布オイルスプレー使用ログ!」


傍聴席「おおぉぉぉ……」

「これは……ぴったぴたの正義か……?」


証人召喚:布の精霊・のぞみ


黒ゼンタイののぞみがふわりと浮かぶように登場。

「私はすべて見ていました……

 しわは確かに存在した……しかし、あの瞬間、**タイツはあやかに“寄り添っていた”**のです……」


「布は……ただの布ではない。心を映す鏡なのです」


法廷に、ぴたぴたの沈黙が落ちる。


判決!


判事「ふむ……心が乱れたから布が乱れた……だが、その乱れを整えたのもまた、被告自身」

「よって――」

ドンッ(ハンマー音・布カバー付き)


「被告人・あやかに下される刑は……

ぴったぴた更生プログラム・初級コース(30分座布団タイツ瞑想)!」


「よかったぁぁぁ〜!」

「ぴたぴたで済んだぁ〜〜〜!」


法廷後の布談話室にて


「……みな、ごめんね、怒らせて」

「……私も言いすぎた。布が乱れたのは私の方だったのかも」

「……許す!」

「ぴたぴた♡」


布と布が、ぴたりと寄り添い、和解した。


~全員ぴたぴた、タイツ女子高生 in 温泉旅館~


「いいですか皆さん――旅行中もタイツは脱いではいけません!!」


出発前のホームルームで、担任・香坂先生(紫ゼンタイ+スーツ)がビシッと告げる。

「移動中も、観光中も、もちろん寝るときも。温泉も、タイツのまま入ります。

よろしいですね? 全身布民としての誇りを忘れずに行動してください!」


「おおおおおーっ!」

「むしろ旅行って布を愛でる時間じゃん!」

「温泉でぴたぴた……どうなるんだろ……♡」


目的地:タイ布の郷・湯乃町(ゆのまち)


布文化が根づく伝統的な観光地。

街ゆく人も、温泉の看板娘も、全員つま先までタイツで包まれたぴたぴた民。

布神社、布資料館、布まんじゅう、布足湯――

どこを見ても、布。布。布。


観光バスの中では――

「ねぇ見て〜! 車内の座席も全部ゼンタイ素材だよ〜〜!」

「座ったらお尻と布がぴったり吸い付いて動けないぃぃ!」

「ちょっと、私の布が座席と同化したんだけど!?」


到着! 全室布張りの温泉旅館「ぴた乃家」


「うわ~~~っ、見て見て! 畳がタイツ素材!」

「布の壁、布の天井、布の浴衣までぴたぴた~~~!!」


案内してくれた女将さんももちろんゼンタイ。

「ようこそ、お嬢様方……お足元から布圧、感じてくださいませ……♡」


お部屋には、


タイツごろ寝用布座布団


タイツ専用メイク鏡(肌じゃなくて布に光を合わせてくれる)


タイツ湿度調整機(乾燥しすぎるとピリつくからね!)


女子たちはもう大はしゃぎ。


タイツのまま入る、極上の温泉!


いよいよ、タイツ温泉へ――!

風呂場ののれんをくぐると、そこは全員フルボディタイツの桃源郷。


「わぁぁ〜〜〜、湯けむりの中のタイツ美……」

「透けないのに、ぴたぴた……むしろ濡れて色っぽい……」

「ほら見て! 湯の中で布がふわっと浮くの!」

「ちょっとぉ〜、お湯かけすぎ〜〜! 布越しでもあったかいんだから〜〜!」


湯船の中では、タイツたちがゆらり、ゆらりと揺れていた。

ぴたぴたのまま肩まで浸かると、体のラインごと優しく包まれて――

「……溶けそう……」

「布が……布が私を撫でてくるぅ……」


お風呂あがりの布トーク


脱衣所には「布タオル(吸水性抜群)」「タイツ用柔軟ミスト」「布圧戻しストレッチ器」完備!


牛乳を飲みながら、床にぺたんと座りこみ、ぴたぴた談義スタート。


「ねぇ……やっぱさ……」

「ん?」

「**タイツで旅するって、最高じゃない……?」

「わかる……むしろタイツじゃない旅行とか、もう無理……」

「次は海外のタイツ文化を見に行こうよ!」

「“世界タイツ紀行”だ!!」


夜はみんなで“布枕投げ”大会!


「いっけええええええ! 布式スーパーもっち投げ~~っ!!」

「きゃあああっ、顔以外全部ぴたぴただから当たるとすごい反動っ!」

「この枕、布の中に布入ってるんだけど!? むしろ布の圧縮体!?」


ぴたぴた、どたばた、ぴしゅっぴしゅっ!

枕が舞い、布が笑い、夜は更けていく――。


その夜、布団(もちろんタイツカバー付き)に包まれて寝ころんだあやかは、

隣で寝息を立てるみなを見ながら、つぶやく。


「……ほんとに私、布の中で生きてるんだなぁ……」

自分の胸に手を当てると、布越しに鼓動が返ってくる。

それが、ただただ心地よかった。

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