ACT.7


「今夜、決行するぞ……“布心霊探検”!!」


放課後の教室に響く、謎の宣言。

声の主はもちろんみな。

あやかの親友で、テンション担当。

ゼンタイウォークラリーのときも、水泳授業でも、いつだって先頭に立っていた彼女が――今度は肝試しを仕掛けてきた。


「この学校には、**“旧家庭科室に現れる白布の霊”**の噂があるのですっ!」

「ちょ、名前からして“布”じゃん! タイツ霊じゃん!!」

「そうなのよあやか、タイツ世界にも幽霊がいるの。布に取り憑かれた、ぴたぴた怨霊……!」


そしてその夜。

真っ暗な校舎に忍び込んだのは、全身ぴたぴたに包まれた4人の女子。


・あやか(白タイツ・ビビり)

・みな(赤タイツ・主犯)

・のぞみ(黒タイツ・無表情)

・さや(青タイツ・絶叫担当)


もちろん全員、全身タイツのまま。

懐中電灯だけを手に、布の足音だけが響く静まり返った廊下を進む――。


旧校舎・家庭科室前にて


「あれが……例の部屋……?」

「そう……“白布の霊”が現れる場所……」

「ふ、普通の家庭科室にしか見えないんだけど……」

「違うのよ、昼はただの部屋でも……夜になると、布が息をするの……」


ガラ……(ドアが開く音)


真っ暗な部屋。ミシンの影。

吊されたエプロン。カーテンが風に揺れている。

そして――


「……ちょっと待って。ミシンの上に……布、浮いてない……?」

「うそ……白い布……本当に……」


ピクリ、と風もないのにひとりでに動くそれ。

全員のタイツ越しの肌が一斉に粟立つ。


「に、逃げ――」


バサァァァァァァ!!


白布が一気に飛び上がったッ!

いや、舞い上がった!


「キャアアアアアアアアアアア!!!」

「布きたあああああ!!」

「し、しがみつくな! 布にしがみつくなぁ!!」

「ぴたぴた感が……やば……っ!密着しすぎて動けないぃぃぃ!!」


全員タイツ、布の霊も布、布×布の地獄みたいな抱擁が始まった!!


そして5分後


ぺた……ぺた……ぴた……ぴた……。

白布の霊は、なんと喋った。


「……あの……ご一緒にタイツ、作りませんか……?」


「え?」「え?」「え?」


実はこの“霊”、布に宿った家庭科の先生の魂だった。


曰く――

「私はこの学校の“布文化”を極めた者……

 でも、ゼンタイに時代が移った頃、取り残されてしまって……

 “忘れられたミシン”に心を残して、布と一体になったの……」


ぴたぴた。


あやかはふと手を差し出した。

その手はタイツ越しで、白布の霊と静かに重なった。


「……一緒に、作りましょう。布の未来を」


翌日、家庭科室には


昨日まで使われていなかった旧家庭科室に――

今日から布の教室が再開された。


先生(布)は今もそこにいる。

姿はないけど、白布がいつも棚の上でふわふわ揺れていて、

ミシンが時折「カタカタ」と動く。


タイツ姿の生徒たちは、その教室で布の技術を学ぶ。

全身ぴたぴたのまま、心まで布で繋がって。


「……幽霊だったけど、すごく優しい先生だったね」

「うん。怖かったけど……ぴたぴただった……」

「布は生きてるんだなあって、あらためて思ったよ」

「ねぇ、次はさ……夏のゼンタイ合宿とかやらない?」


夏の終わり――。

セミの声も遠のき、校舎に涼しい風が吹き抜ける頃。

全校集会で発表されたその言葉に、校内は大・騒・ぎ!


📣【緊急告知】📣

全国選抜・布装学園対抗戦――

『TAI-1 GRAND PRIX』開催決定!

タイツに命をかける名門校たちが集う、年に一度の祭典!

常葉女子高等学校は今年、初出場!


「まじでぇぇぇぇぇ!!」

「ついに全国デビュー!? 私たちのぴたぴた、見せつける時来た!?」


タイツ学校の名門たちが集い、

運動・表現・知識・布圧美学などでしのぎを削る、全タイツ生徒憧れの祭典。


選ばれし代表選手たちは、全国の布学園から選抜される――

その名も、「布戦士(ピタリスト)」。


もちろん、常葉女子高からも代表が選ばれた!


・白布の閃光・あやか(身体表現/布美演技部門)

・紅の旋風・みな(タイツバトル競技部門)

・漆黒の狙撃者・のぞみ(布装知能戦部門)

・蒼の柔流・さや(タイツ水中戦部門)


選ばれし4人の“タイツ四天王”が、

全国の布学園に挑む!


会場:国立・布の殿堂スタジアム「TIGHT☆DOME」


天井まで布。

観客席も布。

マイクカバーも布。

アナウンサーのスーツも布。

※もちろん観客全員、全身タイツ義務。


開会式は布国歌の斉唱で始まる。


「ぴたぁぁ〜♪ ぴたぴたぴたぁぁぁ〜〜〜〜♪」

(※全員、タイツ越しに歌うため音が少しこもる)


第一種目:タイツバトル競技「ピタレスリング」


全国最強の“布バトラー”がぶつかり合うリング上!


みな vs 南雲アズサ(東日本布技高等学園)


「ふふっ……あんたのタイツ、見た目だけでしょ?」

「やってみなよ……ぴたぴたの“赤”の力、思い知らせてあげる!」


布と布が激突し、摩擦と滑りと張力のせめぎ合い。

スライディングからのタイツホールド、グリップ捻りに布空中回転技まで繰り出される、ぴったぴた総合格闘戦!


「勝者っ! 紅の旋風、みなあぁぁぁぁ!!」


第二種目:タイツ美表現競技「布舞」


布のしなやかさと身体の一体感を競う、美の祭典。

あやかは純白ゼンタイで登場。


スポットライトが当たる中、彼女の動きに合わせて布が流れるように揺れ――

まるで布が意思を持って舞っているようだった。


一瞬の静止。呼吸の波。

観客全員、タイツ越しに鳥肌。


「……ぴたぴたの神が……降りた……」

審査員のタイツ眼鏡が濡れた(感動の涙)。


第三種目:タイツ知識戦「布脳バトル」


のぞみ vs 西の頭脳・三隈レイカ(布聖高)


布圧単位、布密度計算、繊維心理学、ゼンタイ史、

果ては「風速5mで最も映える布色は?」という謎設問まで!


のぞみは一言。

「黒、光を吸う。背景が風に揺れるなら、静けさを見せるための影を選ぶべき」


観客「はええぇぇ……」「布って深ぇぇ……」


第四種目:水中布技演舞「アクアぴたシンクロ」


タイツ水着でシンクロ競技。

蒼ゼンタイのさや、完璧な水流布コントロールで銀メダル獲得!


そして――エンディング


チーム成績、常葉女子高は……全国第2位!


あと一歩届かなかったけれど、

全校放送で名前が呼ばれた時、

校内は“ぴたぴた足踏み音”で震えた。


「……悔しいけど、楽しかったね」

「うん。また出たいね、来年も」

「タイツの底力、全国に見せつけてやったよ……!」


その夜、帰りの新幹線の中――

制服タイツに着替え直したあやかたちは、

膝に伝わる布の感触に、ふと微笑んだ。


「……ねぇ、今さらだけどさ。私たち……」

「うん?」

「どんだけタイツ好きになっちゃってんの……?」

「それな……♡」

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