ACT.5

文化祭初日。

校門にはカラフルな布が巻きつけられ、風になびいている。

看板には、太くこう記されていた。


「常葉女子高等学校文化祭2025 ――テーマ:布とともに。」


正門をくぐると、タイツを身にまとった生徒たちが歓声を上げている。

定番のクレープ屋、タイツ生地で作った焼き菓子屋、タイツコスプレ記念撮影ブースまで、校舎中が「布! 布! 布!」の渦。


けれど今年の最大の目玉は――

✨《タイツファッションショー:T-FESTA》✨

全身タイツ姿のまま“布と表現の美”を競うイベントだった。


放課後の準備期間・あやかたちの挑戦


あやかのクラス「2年C組」は、**“季節のタイツ四重奏”**というコンセプトに決定。

春・夏・秋・冬、それぞれの季節をテーマにしたタイツ+小物コーデで舞台を彩る!


あやかは「冬」担当。

ぴったりとした純白のフリースタイツの上に、雪の結晶柄のストールを羽織る。

肩や脚には銀のラメが織り込まれた布飾りがふわふわ。

手のひらも指先もぴったり包まれ、手袋も不要。

髪には氷をイメージしたビーズを結び――


(緊張するけど……なんか、すごくキレイ……)

鏡に映る自分に少しだけ見惚れる。


みなは「夏」担当で、薄手のミントグリーンのゼンタイに、透明なうちわ型の背飾りを装着。

「へへ、うちわの中にもタイツ素材使ってるから風通しいいよ! 風の演出付き!」


開幕、タイツのランウェイ!


体育館がファッション会場に早変わり。

床には特製の“布ランウェイ”が敷かれ、

ライトが当たると、ツヤのある布がふわりと光を返す。


生徒も保護者も先生たちも――もちろん全員タイツ姿。

観客席は色とりどりの布で埋め尽くされていた。


司会「さあさあお待ちかね! タイツファッションショー、いよいよスタートです!」

「最初は春! 桜色のふんわりガーゼタイツに、つぼみ型の布アクセサリー!」

「続いて夏! ミントグリーンの風をまとうゼンタイスタイルで爽やかに!」

「秋は赤茶のニット調タイツで、実りの優雅さを表現!」


そして――

「ラストは冬……白銀の天使、あやかさん!!」


拍手!

拍手!

拍手!


ランウェイを歩き出す。

ぴたぴたとタイツの布が床に優しく触れるたび、照明が銀のラメを跳ね返し、まるで氷の妖精のような幻想。


会場からどよめきと歓声。

「すごい……!」「布って、ここまで表現できるんだ……!」


あやかは顔を上げ、ゆっくりと旋回する。

フードを肩に下ろすと、髪飾りが揺れ、ストールがふわりと舞った。

全身タイツなのに――いや、タイツだからこそ。

身体のライン、呼吸、動き。

それすべてが“布の表現”になる。


彼女の足取りは、迷いなく、美しく。

あの日、突然“タイツの世界”に放り込まれたあやかが、

今――

その世界の“表現者”として舞台に立っていた。


終演後・裏方でのガールズトーク


「ねぇあやか、めっちゃカッコよかったよー!」

「うう……もう足震えてる……タイツの中でガクガク……」

「いや、ほんとに! あの旋回、布の神降りてたって感じ!!」

「……布の神ってなに……?」


舞台裏では、全身タイツの女子高生たちが笑いあい、衣装を片付けながらスキンケア代わりの保湿タイツスプレーをかけ合っていた。

しゅっ、しゅっ。

しっとり、ぴたぴた。

笑い声と布の音が混ざり合い、柔らかな空気に包まれていく。


あやかは、そっと足元のタイツを見つめた。

自分の体を包み、守り、魅せてくれる存在。


「……悪くないな、この世界」

つぶやいた声は布越しにこもり、胸の奥に吸い込まれていった。


~湯けむりと布と、ちょっと不思議な姉妹の夜~


「お姉ちゃーん! 今日は一緒にお風呂入ろーっ!」


いつもより元気な声が、脱衣所まで響く。

あやかがバスタオル片手にのぞくと、そこには――


すでにラベンダーカラーの全身タイツを着たまま、タオル帽を頭にちょこんと乗せた妹・つぐみの姿。

ランドセルはすでに片付けてあり、タイツにはところどころ砂ぼこりの跡が。


「また体育で転がったでしょ……」

「ころころ転がるのが楽しいんだもんっ! さあ入ろーっ♪」


お風呂といっても、この世界ではタイツ着用のまま湯に入るのが常識。

専用の「布対応温浴洗浄湯」を張って、タイツごとしっとり洗い、芯から温める。

ぴたぴたに包まれたまま湯船に浸かると――

むしろ、素肌よりずっと“ぬくもり”を感じるのだ。


ぴたぴた浴室タイム、スタート!


ちゃぽん……

2人してタイツのまま湯船に肩まで沈む。


「ん~~~~~~~~あったか~~~~~~~い……!」

「ぴたぴたのまま浸かるのって、なんか落ち着くよね」

「わかる~、タイツがぎゅーって抱きしめてくれてるみたい」


お湯の中では、布とお湯がなめらかに絡まり合って、

太ももや二の腕のタイツが、ぬるん……と優しく揺れる。


ふたりとも、すでにとろけモード。


「お姉ちゃんってさー」

「ん~?」

「タイツ好きになった?」

「んー……最初はびっくりしてたけど……うん、今はもう、脱いだら落ち着かないかも」

「ふふーん! つぐみはね、生まれたときからずっとタイツだもーん!」


つぐみは得意げに、足をちゃぷちゃぷ。

タイツに包まれた足先が湯面に小さく波紋を描いた。


タイツメンテナンス、姉妹の共同作業


「はい、背中流してあげるー!」

「あ、ありがとう……って、泡タイツソープ、出しすぎてない!?」

「だいじょぶだいじょぶー♡」


つぐみが手に取ったのは「タイツ専用泡フォーム」。

なでるだけで布の表面を傷つけず、汚れと疲れを優しく落としてくれる。


「お姉ちゃんのタイツ、今日ラメ入ってたでしょ~? キレイだったよ」

「ふふ、ファッションショー用だからね」

「つぐみもキラキラタイツほしい~~っ!」

「今度貸してあげるよ。布の感触、けっこうクセになるよ」


布をなでる手と、なでられる布の感触。

姉妹だけの静かで穏やかな、布と湯けむりの時間。

耳元では、浴室の響きがふわんと揺れ、タイツ越しの鼓動がわずかに伝わる。


湯上がりぴたぴた時間


お風呂上がりの脱衣所では、

タオルの代わりに吸水速乾クロスタイツローブを着る。

これまたタイツ素材で、ふたりして頭からすっぽり布に包まれ、もこもこ状態。


「アイス食べるー?」

「食べるー!」


ソファに並んで、アイス片手にタイツくつろぎタイム。

テレビでは、タイツニュース番組「今夜の布情勢」が流れていた。


「……今日も平和だね」

「うん……布って、すごいね」


あやかはそっとつぐみの頭をなでた。

布越しでも、ちゃんとぬくもりが伝わってくる。

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