ACT.4

「ここだよここっ! タイツ好きなら一度は来るって噂の――『布café ぴたぴた』!!」


放課後、制服タイツのまま、あやかとみなは商店街の角にあるその店へ向かっていた。

看板には、タイツを穿いた脚が描かれたロゴと一緒にこう書かれている。


“肌より近く、心より柔らかく。”


「ねぇ、ほんとにこんなお店あるんだ……?」

「うん、しかも店員さんもお客さんもみーんなタイツ姿限定だって!」


カランコロン……とドアを開けると――

店内は思ったより静かで、おしゃれで、ぴったり包まれている雰囲気だった。

照明は控えめ。ソファには滑らかなベルベット生地。

空気は柔らかく、ほんのりバニラとラテの香り。


もちろん、店員さんは全員全身タイツ。顔だけ出てるスタイル。

タイツの色は店ごとの制服で、深いエンジグレーに控えめな光沢。

「いらっしゃいませ、ご案内いたしますね」

布越しに通った優しい声と、ぴたぴたと歩く足音。


案内されたのは窓際のふたり席。

椅子にも布カバーが敷かれていて、座るとタイツ同士で**ぴたっ……しゅっ……**と音がする。

(変な店……でも……落ち着く……)


タイツ喫茶のメニュー


二人で開いたメニューには、こんなラインナップ:


タイツラテ(泡にストッキング柄のアート)


もっちり布クレープ(生地がタイツ風モチモチ)


電熱マシュマロ布ブランケット付きセット(ホット布アイテム貸し出し)


ぴたっとソファでのんびり1時間コース(ドリンク2杯+タイツメンテオイル)


「……なんか全部タイツだね」

「いやそれがいいんでしょ!? どれ頼む!?」


結局、あやかはタイツラテと布クレープ、

みなはぴたっとソファセットでタイツオイルをお試しすることに。


ガールズトーク開始!


「ねぇねぇ、あやか。正直、最初はタイツの世界……戸惑ってたでしょ?」

「うん。というか、今もちょっと戸惑ってるよ……でもなんか、慣れてきたかも」

「でしょ〜? 最初は“全身タイツ!?”ってなるけどさ、だんだん“タイツなしの方が落ち着かない”にならない?」

「なる……なるかも……っ。ていうかさ……」


あやかはそっと声をひそめた。


「今日さ……授業中にさ……ちょっとタイツの中、蒸れてる感じしたんだけど……」

「わかる! わかるよそれ〜! 私もさ、太もも裏がじんわり熱くてさ、もう“生きてる布”って感じじゃなかった?」

「やっぱ、感じてる子は感じてるんだ……」


タイツガールたちのタイツあるあるは尽きない。


・「椅子と布がぴったりしすぎて離れにくい問題」

・「汗かいた後の太ももがぴっちり問題」

・「布の厚みによって授業の集中力が変わる気がする理論」


そして極めつけは……

「こないださ、ゼンタイで寝たら……夢の中でもタイツ着てた」

「わかる……私も最近、夢にタイツ出てくる率、高い」

「そろそろ、身体が“布で包まれてるのが自然”って思い始めてるのかもね〜」


店員さんとの会話もタイツ


「おかわりどうされますか?」

店員のタイツ女子もまた、足先までぴったり包まれた布の妖精のよう。

「“ミントタイツティー”って、どんな味ですか?」

「お口に入れると、ひんやりして喉の奥でタイツがほどけるような……そんな味です」

「飲んでみます(??)」


お店を出る頃には、ふたりともほかほかタイツでゆるゆるに。


「はぁ〜〜癒された〜〜」

「明日もまた来ようかな……」

「今度、男子禁制の“ゼンタイ深夜カフェ”も行ってみたいね〜」


タイツを通して仲が深まる午後。

タイツだからこそ言える話。

布がつないだ、優しい放課後だった。

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