第4話flavor of love
ガストを出て3人で西葛西にあるトミーさんの家に向かった。トミーさんは92歳の青山学院大学卒専業主婦のお母さんと2人暮らしである。
東工大卒で日石の取締役だったお父さんと開成高校から北海道大学中退、ブルックスブラザーズだったお兄さんは20年以上前に他界している。
父親が東大法学部卒の弁護士だったponzi、同じくお父さんが一橋大学法学部中退のインテリ任侠だったともちゃんとは共通項が多い。現在は3人とも不遇を囲っているところも。
トミーさんの部屋に入るとともちゃんは、
「あら、本棚が綺麗に整理整頓されている」と笑った。
「池田大作名言集!」
「哲学不在の時代 不安定なさすらいの人生から脱出せよ」
「"科学教"と"経済教" 価値観とか常識は絶えず変化していく」
「カオス(混沌)の時代 ひとりを救済できえぬ「法」が、なんで世界を……」
笑いながらトミーさんはponziに手渡した。かつてトミーさんは敬虔な創価学会信者であったが、ponziと出会って脱会した経緯がある。
トミーさんがデビッド・ボウイのCDをかける。
「歴史上、最高のバンドが、ビートルズかローリング・ストーンズか決着はついてないんですよ!」
トミーさんの持論が始まる。
「俺とponziさんの共通の音楽ってオアシスぐらいだよね」
「俺のビートルズ好きは兄貴の影響です。死んだ兄貴はビートルズの音楽から英語を学んだ」
「疲れてきたね。帰るか?ともちゃん」
ponziがうながすと、ともちゃんはうなずいた。
近くのバス停まで3人で歩いた。ともちゃんは足が不自由でびっこを引いている。
「トミーさんが創価学会に入ったきっかけはお兄さんの贖罪ですよね?若い頃、統合失調症で錯乱したお兄さんはナイフで人を刺した。でも、心神耗弱で不起訴処分になった。罪の意識に苛まれたお兄さんは、一番戒律が厳しい宗教を調べて創価学会に入信した。トミーさんはその残滓ですよね」
ponziが以前聞いた話をもとに要約してみせた。トミーさんはうなずく。
「本当は俺まで創価学会に入信する必要はなかったんです。だから、ponziさんと知り合って、創価学会幹部の目の前で「御本尊」をびりびりに破いても彼らは何も言わなかった」
葛西駅でトミーさんと別れ、ponziとともちゃんは錦糸町行きのバスに乗り換えた。同じバス停で降り、ponziはともちゃんと別れた。
「じゃあの。また明日の」
「うん。今日はありがと」
ともちゃんは手を振った。
帰りがけにひとりでスーパーに寄ったponziは見切り品440円のシャインマスカットを見つけ、ともちゃんに写メを送った。
「シャインマスカット食べる?持ってってあげようか(笑)」
ともちゃんも笑いながら、
「今からうちくる?(笑)」と返してきた。
「行く!」ponziはかつての恋人ともちゃんのアパートに向かった。
「最近、ごみ捨て場にネズミが出てさー」
ともちゃんは怪訝そうな表情を浮かべる。
「殺鼠剤とか撒いてんのかのー。子供が拾い食いしたら怖いの」
2人は会話しながらともちゃんの部屋に入った。
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