14.────決起

──そして、朝が来た。


窓の外はすでに白み始めており、静まり返った部屋にも、淡い光が差し込んでいる。

短い眠りから目覚めた四人は、言葉もなく、それぞれ身支度を始めていた。


誰かが口にしたわけではない。だが、全員が決めていた。

この村に、決着をつけなければならない。 逃げることも、祈ることも、もう意味をなさない。 この悪夢を終わらせるには、向き合うしかなかった。


蓮司は壁にもたれながら、靴紐を雑に結び直していた。

その手つきは荒く、焦りを隠そうとしているようにも見えた。


「なぁ……今更なんだけどさ、作戦とかねぇのか?」

その声には、わずかな望みを探るような響きがあった。


男は背を向けたまま、猟銃の弾を確認していた。

「ない……お前たちがいるのは想定外だったからな」

振り返ることなく、低い声で言い放つ。


蓮司はため息まじりにぼやいた。

「マジかよぉ……」


男は猟銃を静かに構え直すと、低く言った。

「お前達はついてこなくてもいいんだぞ。これは俺の戦いだからな」

その言葉に、蓮司が思わず声を強める。

「そういう訳には行くかよ、こっちだって健人と澪がやられてんだよ」


男は小さくため息をつき、「そもそも──」と呟きながら、真結の方に目を向けた。

真結は男の威圧的な雰囲気に気圧されないよう、はっきりと名乗った。

「真結です」


男は一瞬だけ目を細め、冷ややかに言った。

「……そうか、で、お前達に何が出来る?ろくな武器もないだろう。囮にでもなってくれるのか?」


「それは…」

真結は言葉に詰まった。男の言う通りだった。 自分たちが同行して何ができるのか。手にしていたフライパンに目をやる。ただの調理器具。

とても役に立つとは思えなかった。


返す言葉が見つからず、ただ視線を落とすしかない。


そのとき、横に立っていた直也が静かに言った。

「はい」


真結と蓮司は思わず直也に目を向ける。

男も、わずかに眉を動かしながら言った。

「……正気か?」

その声には、呆れと困惑が入り混じっていた。


「ずっと考えていたんですけど、アイツの気を逸らすとか……できませんかね」

直也の声は変わらず静かだったが、その奥には確かな意志があった。


「逸らすって、どうやって」

男は背を向けたまま、低く問い返した。

淡々としていたが、直也の言葉に耳を傾けているのは確かだった。


直也は少し躊躇いながらも、言葉を続けた。

「あれは、何らかの方法で僕らの位置を把握してるんです。見ているんじゃない……」


言いながら、彼の脳裏に浮かんだのは、澪が襲われたあの瞬間だった。

「カラン」と乾いた音を立てて地面に落ちた包丁。

その直後、森の奥から放たれた杭が、まるで狙い澄ましたかのように澪の胸を貫いた。

あれは偶然じゃない。何かを“感じ取って”いたとしか思えない。


男はゆっくりと直也の方へ振り向いた。

その目は鋭く、何かを確かめるように細められていた。


「……音か」


その言葉に、皆の表情がわずかに変わった。

「ええ……他にも匂いとか、体温とか……挙げればきりがないですけど、それが一番可能性が高いと思います」

直也は言いながら、指先で無意識に袖口をいじった。

自信があるわけではない。ただ、状況を打開する糸口を探しているだけだった。


男はしばらく黙っていたが、やがて低く呟いた。

「……まぁ、筋は通ってる。だが確実じゃないな」


そう言うと、彼はゆっくりと腰を上げた。

無造作に火かき棒を手に取り、その先端に大型のサバイバルナイフを器用に括りつける。

即席の槍――粗雑だが、十分に殺傷力はある。─それが生物ならば。


男はそれを軽く持ち上げ、蓮司に向かって放った。

蓮司は反射的にそれを受け止め、手の中で重さを確かめる。


「……試してみる価値くらいはあるかもな」

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