第8話
天使の前で言葉を紡ぐ
リビングに足を踏み入れた瞬間、私は息をのんだ。
彼にそっくりな子どもたちが、無邪気に笑い、
走り回る姿は、光の粒をまき散らしているかのようだった。
あの笑顔、あの仕草、あの声の端々——
すべてが、間違いなく彼の面影を映していた。
そして、私の胸に、ふわりと温かい風が吹き抜けた。
無防備で、純粋で、けれど力強い生命力。
この子たちに言葉を届ける仕事を、
私は拒めるわけがなかった。
「……本を書いてほしいの」
彼の声も、子どもたちの声も、
どちらも同じくらい天使のように透き通っている。
その透明な眼差しに、私は簡単に当てられてしまう。
断れない。
この無邪気さに、胸の奥まで貫かれる。
私はもう、ペンを手にしていた。
硝子ペンを握る手が、ほんの少し震える。
インクが紙に触れる瞬間、
子どもたちの笑い声が耳の奥で響き、
自然と文章が流れ出した。
「あなたたちの物語は、
あなたたち自身の光でできている」
指先で綴る言葉は、ただの文字ではなく、
彼の面影と無邪気さ、
私の心の中の静かな喜びを吸い込んで膨らむ。
書きながら、ふと気づく。
――あぁ、創作というのは、幸福と無邪気さに触れたとき、
最も深く発酵するのだ、と。
ペン先から流れる言葉は、天使の息吹と混ざり合い、
私の胸の奥で柔らかく、
でも確かに温かく膨らんでいった。
子どもたちはまだ気づかない。
自分たちの小さな存在が、誰かの世界を彩り、
大人を動かす力を持っていることを。
でも私は知っている。
その力が、私の創作の源になることを。
そして、その幸福が、日々の発酵のように、
ゆっくり私の中で熟していくことを。
天使の前で言葉を紡ぐ幸せ。
断れない幸福。
今日もまた、私の硝子ペンは静かに光を受けながら、
未来の物語を描きはじめるのだった。
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