第2話 貴族の青年
人
その
そして走りながら慣れた動作で弓に矢を
まだ
それは木々の間を
そしてネルはそれを確認することもなく、
走りながらの射撃だというのに、2本目の矢も正確にもう1人の
ネルはそれでも注意を
山の空気は独特で、
そうして周囲に人がいないことを確認すると、ネルはゆっくりと歩きながら被害者の男の元へ向かうのだった。
☆☆☆☆☆☆
茂みの中に身を隠しながら
最近、この山によく姿を見せている貴族の若者を
終わったらすぐに仲間たちに合流しようと思った。
だがそこで彼は仲間たちの悲鳴を聞いたのだ。
(ど、どうなってんだこりゃ……)
貴族の若者を抱えて運んでいた仲間2人は飛んできた矢に首を貫かれ、あっと言う間に死んだ。
そこに現れたのは赤毛のたくましい女だったのだ。
女は戦士だった。
(女の……戦士)
西の
彼女たちは男よりも大きな体格を誇り、並の戦士を遥かに
見つかれば自分も殺されてしまうだろう。
そう恐れた
☆☆☆☆☆☆
「あ、ありがとうぉぉぉ! 助かったよぉぉぉぉ」
泣きべそをかきながら礼の言葉を述べるその男を無視して、ネルは首に矢が刺さった男たちに近付いていく。
油断していると、こちらが致命傷を負うことになる。
そうならぬためには「止め刺し」と呼ばれるトドメをきっちり刺さねばならない。
それは人間が相手でも同じだった。
ネルは腰に帯びている
地面を染める赤い血だまりを見た若い被害者の男は思わず悲鳴を上げた。
「ひいっ!」
それを無視してネルはもう1人の倒れている
止め刺しが終わると、血で汚れた
そして無表情で若い男を見下ろすと、ネルは理解した。
男がなぜ
一目見て貴族の息子と分かる
十中八九、
しかしそんなことはネルにはどうでも良かった。
「金」
それだけ言うとネルは若い貴族の男に手を差し出した。
貴族の青年はわずかに顔を
「あ、あの……今は持ち合わせがなくて……」
そう言う青年にネルはため息を吐き、再び弓に矢を
「ま、待って! い、家! 家に戻ればちゃんと払えるから! い、一緒に付いて来て!」
「アタシはヒマだが、どこにあるかも分からないおまえの家に付いていってやるほどお人よしじゃねえ。金がねえなら3人目の死体になりな」
「わ、分かった! こ、これ……これ渡すから!」
そう言うと貴族の青年は左手の人差し指にはめられた指輪を取ってそれをネルに差し出した。
それは
ネルは指輪の価値は分からなかったが、これ以上ここで押し問答をしていても
ネルが矢を矢筒にしまい込むのを見ると青年はホッと
「と、とにかく助かったよ。僕はナサニエル。この山で仕事をして……ってちょっと待って」
ナサニエルと名乗った男の話の途中で、ネルはサッサとその場を後にして山を登っていく。
ナサニエルは
「ねえ! ちょっと待ってよ! 君!」
「うるせえな。アタシはあんたを助けた。あんたは代価を支払った。それで終わりだ。他に用はねえよ」
「ぼ、僕があるんだよ。君、すごい弓の名手だね。赤毛の髪に……その肌の色……もしかして君ってダニアの戦士? は、初めて見たよ」
さっさと山を登っていくネルに必死に追いすがりながら、ナサニエルはそう言った。
ダニアの女戦士。
燃えるような赤毛で
共和国の主要都市には必ず同盟国であるダニアの駐留部隊があり、赤毛の女戦士らはむしろよく見かけられる存在だ。
だが彼女たちが東側諸国に
「その弓の腕を見込んで仕事を頼みたいんだ!」
「断る」
「君にしか出来ない仕事なんだ。正式に契約してくれるなら、今度こそ報酬を払う。決して失望はさせない額だ。せめて依頼内容だけでも聞いてくれないか?」
「断る」
ネルはナサニエルをまるで相手にすることなく、足を速める。
だがナサニエルはあきらめずに食い下がった。
「君の弓の腕をちゃんとした報酬という評価に変える好機だと思わないか? そんな
そう言いかけたナサニエルは突然ネルが振り返って、鋭い眼光で自分を
ネルは一足飛びにナサニエルに近付くと右手で彼の首を
女とは思えない腕力にナサニエルは呼吸が出来なくなり、苦しげにもがく。
「うごっ……」
「おい。さっきからゴチャゴチャとうるせえぞ。しつこいんだよテメー。アタシは別に必要以上の金もいらなけりゃ、他人からこの弓の腕を評価してほしいとも思ってねえ。これ以上付いてくるなら、両足をへし折って歩けなくしてやるぞ」
そう言うとネルは力任せにナサニエルを押し倒して地面に叩きつけた。
「かはっ! ゴホッ! ゴホッ!」
ロクに受け身も取れず、ナサニエルは背中を地面に強打して、苦しげに
それを見たネルはフンッと鼻を鳴らしてその場にナサニエルを置き去りにするのだった。
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