第28話「刺々しい?」

「白い毛だったんだね……って、まるで、違ったような言い方だな?」


 風麗ふれいの言葉が気になった俺は、細かいことかもしれないが、そこをつついてみる。

 元々、疑問を抱いていた部分の答えに繋がると思ったからだ。


「んっ……私が……初めて見た時は……泥だらけだったから……毛の色、わからなかった……」

「それは学校でのことか?」

「んっ……」


 やはり俺が思った通り、俺がみゃーさんと出会った日、風麗もみゃーさんを見かけていたようだ。

 これで、教室でのヒントに猫を出した理由がわかった。


「あの時……私は……教室に戻ってる……最中に、見つけたけど……お姉ちゃんが、お付きの子を使って……追い払っちゃったから……気になってた……。その後……クラスの子が、君が抱っこして……そのまま教室に戻らずに……家に連れて帰ったって……話してたのを……聞いた……。だから……お礼、したかった……」


 あの時は確か、教室に戻って先生に見つかるとまずいと思い、家が近いこともあって一旦帰ったのだ。

 その後動物病院に連れていき、大丈夫だとわかったので学校に戻りはしたが、当然先生からは怒られた。


 それにしても――。


「お前、弱っていた猫を追い払うなんて、ほんと最低だな……」


 俺がみゃーさんを連れてきたことで部屋の隅に逃げた翠玉に対し、俺は文句を言った。

 妹なんて、自分に関係ないのに猫を助けた俺にお礼がしたかったと言うくらい優しいのに、どうしてこの姉はこうなのだ。

 風麗のお礼も、翠玉が追い払ったというのも含まれているんだろうが、それでも姉妹で違いすぎる。


「し、仕方ないでしょ、凄く汚れてて、風麗に近付けたくなかったんだから……!」

「嘘つくな、お前が怖かっただけだろ」

「怖くない……!!」


 翠玉は必死な様子で否定するが、泥だらけで得体の知れなかったみゃーさんに怯えていた姿が簡単に想像できてしまう。

 まぁ、他の生徒の手前、気丈に振る舞ってはいただろうが。


 とりあえず、怖くないというのなら、みゃーさんを傍まで連れて行ってやろうかと思うが――

「ねこちゃん、かわいい……」

 ――みゃーさんと触れ合う風麗が幸せそうなので、邪魔をするのは可哀想だと考え直した。

 俺も、翠玉の怯える表情よりも、風麗の幸せそうなかわいらしい笑みを見ているほうが気分がいいし。


 そんな風麗は、『だっこさせて』と言わんばかりに両手を広げてくる。

 姉の様子をオールスルーだなんて、この子は思っていたほど姉ラブではないのかもしれない。

 少なくとも、翠玉が風麗に向ける感情とは釣り合っていないだろう。


「みゃーさんだよ」


 俺は翠玉の腕にソッとみゃーさんを乗せながら、呼び方を教える。


「それは、名前は『みゃー』なの……?」


 しかし、風麗は理解に困っている様子だった。

 俺はチラッと雛に視線を向けてみる。


「えっと……多分、そうかも……?」


 名付けたのは雛なのだけど、俺も雛もみゃーさんとしか呼ばないため、雛は自信なさげに頷いた。

 まぁ、でも……。


「この子は多分、自分のことをみゃーさんだと思っているから、みゃーさんって呼んだほうが反応すると思うぞ?」

「んっ、わかった……」


 風麗は頷くと、名前を呼ぶ――ということはせず、嬉しそうにみゃーさんに頬を擦り寄せた。

 今まで全然小動物と触れ合ってこられなかっただろうし、楽しくて仕方がないのだろう。


 みゃーさんが暴れたりしないか……と少し心配したが、みゃーさんも自分がかわいがられていることはわかっているみたいで、おとなしく受け入れていた。


 そして、俺は――みゃーさんとじゃれる風麗がなんとなくかわいく見え、思わず雛にするように頭を撫でてしまう。


「なっ!? ちょ、ちょっと、何してるのよ……!!」


 直後、風麗を男に触れさせたくない翠玉が、目を吊り上げて怒ってしまう。


 うん、今のはさすがにまずいというか、俺が悪い。


「悪い、つい……」

「んっ、いい……許嫁なんだから、気にしなくても……。それに、撫でられるのは……好き……」


 風麗も翠玉同様男嫌いの印象があったので、すぐに謝ると――意外にも、彼女は受け入れてくれた。

 それどころか、もっと撫でて……と言わんばかりに、俺に擦り寄ってくる。


 真莉愛さんが言っていた、打ち解けた場合俺と相性がいいというのは、こういう甘えん坊の一面なのだろう。

 普段翠玉に甘えてばかりだったけど、別に相手が翠玉である必要性はないらしい。


 だけど――

「……っ!」

 ――風麗大好き翠玉は、そうも言ってられないらしい。


 邪魔をしようと割り込むことこそしないが、今にも俺に襲い掛かってきそうなほどに、恨めしそうにこちらを見ていた。


 えっ、俺……今日、あいつと寝ないといけないんだよな……?

 やっぱり、風麗じゃ駄目か……?

 ほら、あいつ薬の影響で、今日はまずそうだし……。


 そう思わずにはいられないほどに、身の危険を感じてしまう。


「白雪さん」

「駄目です、真莉愛様のご命令なので」


 名前を呼ぶと、俺が何も言わなくても賢い彼女は、何を言いたいか理解したらしい。

 そして、聞く前に否定をしてくる。


「そこをなんとか……。ほら、あいつも俺と寝たくないだろうし、君が話を合わせてくれるだけでいいんだけど……?」

「真莉愛様に通じると思いで?」

「……無理だろうなぁ……」


 あの人なら、俺と翠玉が素直に一緒に寝ないことはわかっている。

 だから、俺たちがわからない何かしらの手段で監視はしているんじゃないだろうか。


 一応、お目付け役として白雪さんも俺の部屋で寝るらしいけど……そのせいか、この子はこちら側に付いてくれないようだ。


 まぁ、バレた時自分もお仕置きの対象にされるもんな……。

 お目付け役というのも、俺と翠玉たちが変なことをしないか――というのではなく、ちゃんと一緒に寝るか、という監視だろうし。


「幸先が不安すぎる……」

「あなたが風麗様の頭を撫でなければ、こんなことにもならなかったのですが?」

「いや、それはそうなんだけど……」


 あれ、なんか白雪さんもちょっと不機嫌か?

 そう思わずにはいられないくらいに、なんだか刺々しい言葉に感じたのだった。

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