第23話「お仕置き」

「――そういえばですが、翠玉えめら風麗ふれいの神秘的な見た目って、もしかして遺伝子を……?」


 話に一旦区切りが付き、俺や翠玉たちはいったいいつになったら服を着させてもらえるのかな――と思いつつも、俺は気になったことを真莉愛さんに聞いてみる。

 すると、ニコッととても素敵な笑みを向けられた。

 同時に、背後にとても黒いオーラが見える。


 あっ、はい。

 地雷踏み抜きましたね。


「ふふ、それはつまり、私が子供の遺伝子を弄るような、非人道的な人間に見えるってことかしら~?」

「滅相もございません……!!」


 やばいと察知していた俺は、即行で否定をした。

 ちなみに、本心を言えば全然やりそうっていうか、むしろ嬉々としてやりそうな気がする。

 特にこの人は風麗と同じくかわいいもの好きだから、子供たちの容姿が優れた姿になるように弄っていても、不思議じゃないし。


「さすがの私も、そんなことしないわよ。あの子たちが特別な見た目になっているのは、私と夫が遺伝子操作されて生まれたことによる影響ね」

「…………」


 真莉愛さんは珍しく、若干悲しみを含んだ笑みを浮かべる。

 これは嘘を吐いていないというのが、直感でわかった。


 つまり、真莉愛さんの両親というか、親は非人道的だと暗に真莉愛さんは言っているのだけど。


 てか、やっぱこの人遺伝子操作されてたのか……。

 髪色や、異常に綺麗で成人してから年齢を重ねないのも特殊だけど、それ以上に人間じゃない動きするもんな……。

 さっきだって、熱湯に手を突っ込んで汗一つかいていなかったし。


「私や仁美の遺伝子操作は成功したようで何も悪い影響はないけれど、夫は失敗していたことが途中で発覚してね……二十五歳までしか生きられなかったわ。幸いあの子たちは問題ないというのが検査でわかっているけど、同じ過ちを繰り返させることはしないし、させないの。だから英斗君も、あの子たち――特に、翠玉が馬鹿なこと言い出したら、止めてね?」


 そう言って、真莉愛さんは優しく笑いかけてきた。

 暗に、翠玉はそういうやらかしをしそうだから、お前が止めろと言われている。


 翠玉……お前、ほんと真莉愛さんからの信用がないんだな……。

 わかるけど。


 というか、意外と――って言うほども、雛に対する態度を見ていればないのかもしれないが、ちゃんと優しい心はこの人も持っているんだな……。


「――英斗様は、何か勘違いをなさっていますね?」


 直後、白雪さんのお母さんが俺の背後を取ってくる。

 距離を取るのは失礼なので、何されても大丈夫なように身構えておくと、クスッと彼女は笑みを零した。


 てか、シレッと呼び方が下の名前に変わっている。


「いい反応です」

「人を試すようなことしないでください……。勘違いというのは?」


「真莉愛様は、本来とてもお優しい御方なのですよ? 必要があるから、あなたや翠玉様方にはとても厳しくされておられるだけで、何も縛りがない雛様にはとてもお優しくされておられるでしょう? あちらが、本来の真莉愛様のお姿です」


 白雪さんのお母さんは、ソッと俺の肩に後ろから両手を添えると、耳元で囁いてきた。

 くすぐったくてゾクッと体が震えるが、俺は彼女の言葉が信じられず目を見張る。


 だってこの人、笑顔で拷問するような悪魔だぞ……!?

 さっきだって、実の娘を熱湯にぶん投げていたし……!


「余計なことは言わなくていいわ、仁美」

「ふふ、申し訳ございません。では、最後に――ここに、翠玉様を破滅させようと思って来ていたあなたが、どうして翠玉様を庇う行動を取られたのでしょうね?」

「それは、同情して――」


 そこまで言って、俺は気が付く。


 そうだ、俺は破滅とまでは言わなくても、雛にされたことにキレ、翠玉を徹底的に追い詰めるつもりでいた。

 だというのに、先程俺は翠玉を庇い――そうなったのは、悪魔のような真莉愛さんに追い詰められる翠玉を、可哀想だと思ったからだ。


 そして、許嫁ということも、今は受け入れてしまっている。

 ここに来たばかりの俺だったら、雛にされたことを根に持って絶対に受け入れなかっただろう。

 それこそ、そのことを理由にして真莉愛さんに反発していた。


 ……いや、どうだろう?

 この人相手に反発できるかは、正直微妙なところがあるが。

 だって、絶対に逆らったら駄目な人だし……。


「あなたはまだ、真莉愛さまのことを甘く見すぎですよ。ただ……真莉愛様はあなたのことを信頼しての行動でしたし、私もあなたの人柄は見えましたので、安心して娘を任せることが出来ます」

「……? それって、どういう意味――」


「仁美、無駄話はしなくていいから、そろそろ翠玉のおしおきを始めるわよ」


 俺が尋ねようとすると、真莉愛さんが口を挟んできた。

 それにより、俺は再度目を見張る。


 翠玉のお仕置きって、さっきのストリップショーみたいなやつや、熱湯に放り込もうとしたやつじゃないのか……!?


 俺と同じくもうお仕置きが終わったと思っていた翠玉が、驚きながらこちらを見ている。

 なんなら、軽く絶望したように青ざめていた。


「お、お母様……?」

「仁美」

「はい……可哀想な、翠玉様……」


 震える声で母のことを呼ぶ翠玉をスルーし、真莉愛さんが白雪さんのお母さんに指示を出す。


 すると、白雪さんのお母さんは一瞬で翠玉の背後を取り、彼女を抱き上げると、白雪さんのお母さんが持ってきた椅子に座らせてしまう。

 そのまま、翠玉の両腕を上で拘束し、両脇をさらす格好にしながら、両足も前に突き出すように拘束した。


「ななな、いったいなにを……!?」


 これから何をされるのか理解できていない翠玉が、泣きそうになりながら顔を赤くし、白雪さんのお母さんに尋ねる。

 青みがかっていた顔が赤く染まったのは、多分羞恥心によるものだろう。

 あんな体勢、お嬢様で淑女のように育てられてきた翠玉が、耐えられるはずもない。

 ましてやまだ、下着姿のままなのだし。


 そんな彼女の言葉を無視し、白雪さんのお母さんは液体が塗られた四本の筆を取り出す。

 そのうち二本を、真莉愛さんに手渡した。


「あなたが悪いのよ? 私の大切な雛ちゃんに手を出したんだから。そこはちゃんとお仕置きをして、自分のしたことをわからせないと」


 真莉愛さんは素敵な笑みを浮かべながら、ジリジリと娘に迫り寄る。

 そんな母の姿が怖かったのか、いつの間にか傍に居た風麗が、ギュッと俺の腕を抱きしめてきた。


 その視線は、姉と母に注がれている。


「昔、あなたたちが言うことを聞かなかった時用のために作った代物しろものだったのだけど、まさか本当に使う日が来るとはね――えいっ」


 真莉愛さんはかわいらしい声を出しながら、両手に持った筆で――翠玉の両足の裏をくすぐり始めた。

 その直後、翠玉の背後に回っていた白雪さんのお母さんが、翠玉の両脇を筆でくすぐり始める。


「あ、あははははは! お、おかあさま!? や、やめははははは!」


 両脇両足を目にも留まらぬ速さでくすぐられる翠玉は、拘束によって逃げることもできず、椅子の上でもがき苦しむ。


 え、えげつねぇ……。

 素直に俺はそう思った。


「くすぐったいでしょ? 感度を十倍にする薬を使っているからね」


 真莉愛さんは薄い本でしか聞かないような言葉を言いながら、笑顔で娘をくすぐり続ける。


 やっぱりこの人、悪魔だ……。


 それに、身悶える翠玉は、容姿が良すぎるせいもあって……なんだか、エロい。


「見たら……だめ……」


 すると、風麗がソッと俺の目を右手で覆ってきた。

 姉の痴態を見るな、ということなんだろうけど……。


「ひゃははは! おかあしゃま、ゆりゅして……!」

「だ~め。お仕置きなのよ? 三十分くらいは耐えてもらわないとね」

「しょ、しょんなぁ……!? くふふふ……あははは! ふ、ふれい、たしゅけ……!」


 翠玉はそのまま――失禁するまでくすぐられ続け、もう尊厳もクソもないのだった。


 あっ、だから大浴場でしたのか――とは思いつつも、改めて俺は真莉愛さんのことを悪魔だと思い直したのは、言うまでもないだろう。

 なお、『ここまで見たんだから、責任を取りなさい』、と真莉愛さんは言ってきたので、やっぱりマッチポンプである。

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