第22話「マッチポンプじゃねぇか!!」
「な、なんで許嫁なんですか……!?」
信じられない言葉に、俺は思わず声を上げる。
見れば、
つまり、
うん、やらかしたか……!?
「なんでも何も、元々後継者にするつもりではあったのだから、ある意味当然でしょ?」
しかし、特に真莉愛さんは不快に思う感じもなく、普通に答えてくれた。
助かった……。
だけど、納得は出来ない。
「多分その後継者って、天上院財閥の――ではないですよね……? 俺、ほとんど天上院財閥の仕事知りませんし……」
真莉愛さんがここに現れた時の言葉を踏まえるのであれば、俺が翠玉たちと関わるようになるのはまだまだ先だったはず。
おそらくは、成人してからだろう。
最初から天上院財閥の跡取りにするつもりがあるのなら、幼い頃から天上院財閥の仕事関連のことを俺に叩き込むはずだ。
だが実際には、俺は天上院財閥の仕事に関する知識をほとんど持っていない。
遺伝子研究のことは知っているが、あれはあくまで成果物を知っているだけであり、どうやって遺伝子を弄っているなどはまったく知らなかった。
成人してから教えるのでは遅いと思うし、何よりこの用意周到の人が叩きこまないはずがない。
となれば、後継者というのは別の意味を持っているはず。
というのが、俺の読みだった。
「さすが、こういう時の勘はいいわね~」
真莉愛さんは、『そんなところに気が付くな』とでも言いたげな目を俺に向けてくる。
間延びした口調に一瞬身構えるが、地雷を踏んだようでもないので、多分半ギレにはなっていない。
「そうね、元々私があなたに引き継ぎたかったのは、裏の仕事のほうよ。天上院財閥としての仕事は、この二人――特に、風麗なら十分こなせるでしょうし、何かあればフォロー役になれる万能な氷ちゃんがいるもの。でも、裏の仕事はこの子たちには荷が重いと思ったから、英斗君が必要だったわけね」
やはり、俺が思った通りのことだった。
裏の仕事というと、国のスパイを見つけたり拷も――尋問したりしている、政府関係の仕事のことだろう。
となると、許嫁になる必要がないというか、翠玉と風麗のどっちかと結婚をする必要がないはずだが……。
「私も鬼ではないし、昔から悩んではいたのよ? 英斗君はなるべく表舞台には立たせたくなかったし、家のしきたりでこの子たちの自由恋愛を奪うのもどうなのかしら、と。だから私は、英斗君が私好みの男に成長したら、二人と運命的な再会をさせ、どちらかと仲を深めて、お互いの意思で結婚してくれたらいいと思っていたのに……こんな、大騒動を起こすんだもの」
真莉愛さんは暗に、あなたたちが衝突したせいよ、と言ってくる。
鬼ではないという部分に、『鬼ではなくて悪魔ですもんね』と言いたくなってくるが――いやまぁ、計画がぶち壊されたとか言っていたし、真莉愛さんからしたら俺たちがぶつかったせいではあるんだろうけど……なんだろう、この納得がいかない感じは。
「ちなみに、この件が起きるまでの本命は風麗。この子が打ち解けたら、英斗君と相性が間違いなくいいもの。そして大穴で翠玉。翠玉の性格は英斗君好みじゃないけど、翠玉が英斗君にゾッコンとなった場合は、意外と相性がいいかもしれないと思ってね。どっちもが駄目な時は、氷ちゃんね。礼儀正しくて気が回るし、何より雛ちゃんと近しいところもあるから、最悪氷ちゃんとくっついてくれたらいいと思っていたわ。万が一成人した時に、この子たちに恋人がいれば、そちらを優先してあげようと考えていたのもあるしね」
相変わらずサラッと、とんでもないことをぶちまけてくれる真莉愛さん。
もうどこからツッコむべきか悩むレベルだぞ。
「いろいろと聞きたいことはあるのですが……なぜ、白雪さんまで……?」
もはや天上院家の枠を超えているんですが。
という意味を込めて、尋ねてみる。
「白雪家は代々天上院財閥に仕えてくれてるし、恋人が大切にしているものだったら、英斗君は大切にしてくれるでしょ? 英斗君が天上院財閥を大切に思ってさえくれていれば、正直家系はこだわらないの。あっ、でも優秀な遺伝子は必要だから、この子たちに恋人ができなかった場合は、種はもらったけどね? ほら、この子たち英斗君が駄目なら、どうせ恋人なんてできないでしょうし」
うん、なんでこの人はこう、本人たちの前でこんなにディスるんだ……?
いや、言いたいことはわかる。
凄いわかるし、俺も翠玉や風麗に男ができる姿は想像できないけどさ……!
あの二人、もうメンタルズタボロだぞ……!?
と思って視線を向けてみると、翠玉は相変わらず恐怖心で余裕がないのか、あまり真莉愛さんの言っていることが頭に入っていないようで、風麗は仕方がなさそうに苦笑していた。
うん、思っていたよりというか、まったくダメージは入っていないな。
心配して損した。
あと、いつまで下着姿なんだ、あの二人は……。
俺も水着姿のままなんだけどさ。
「てか、彼女たちは自由恋愛を許されていたようですが、なんか俺は許されていないような……?」
「ふふ、何を言っているの? 私が見出し、手塩にかけて育ててきたのよ? 逃がすと思った?」
うん、やっぱりこの人悪魔だろ。
平然と言ってくるあたりがやっぱりやばい。
「それに、顔はいいほうだけど――学校で目立つ長所もなく、妹以外に興味がないような男の子がモテるほど、世の中甘くないわよ? 物好きはいるかもしれないけど、シスコン英斗君が靡くとしたらほぼ皆無の確率になるわね」
突然、グサグサと俺を刺してくる真莉愛さん。
この人、ほんと容赦がない。
というか、目立たないようにさせていたのって、実はそっちの理由が結構あるのでは?
と思ったが、雛が第一で他の女子にモテたかったわけでもないので、別に指摘することではない。
下手に突いて怒らせると、そっちのほうが百倍まずいし。
「まぁ、俺に恋人ができるとは思いませんが……でも、先程までバチバチとやっていたわけで、急に許嫁だなんて二人が納得するはずもなく――」
「納得するわよね? それとも、熱湯に入りたいかしら?」
俺が反論しようとすると、真莉愛さんはニコッと翠玉と風麗に笑いかけた。
でも、また目が笑っていない。
「私は……許嫁のほうが、いいです……」
「……っ。私も、許嫁のほうが……」
先に答えたのは、やはり風麗。
よほど熱湯に入りたくないのか、すんなりと受け入れた感じだ。
とても嫌がりそうな翠玉は――真莉愛さんの目に怯えたというのもあるだろうが、こちらも意外と結構すんなりと受け入れていた。
学校でのイメージなら絶対暴れると思うところなのに、こいつやっぱり小心者だな。
あと、なにげに自分が許嫁にされることよりも、風麗が許嫁を選んだことがショックそうにしている。
まぁ、風麗大好き人間で、風麗が自分の生きる意味みたいなところがある翠玉からしたら、他の男に風麗が取られるのは死ぬほど嫌なのだろうが。
「ということよ、英斗君。納得してくれたかしら?」
「ちなみに、俺に拒否権というのは――」
「別に拒否するならしてもいいわ。その代わり私は、雛ちゃんに『英斗君、私の娘たちの下着姿や裸を見たのに、責任を取ろうとしないのよ。どう思う?』って言うから」
俺が嫌がる素振りを見せると、真莉愛さんは笑顔で俺の急所を突いてくる。
この人にはほんと、交渉ごとで勝てる気がしない。
「それ、俺何も悪くないですよね……!? 真莉愛さんが強要しただけなんですから……!」
「でも、事実よね?」
確かに事実だ!
真莉愛さんの言っていることに嘘はない!
だけど、これは――マッチポンプだろ!!
「仕方がないのよね、もう英斗君が普通の子じゃないってバレてしまったわけだし――横取りされようものなら、私怒りのあまり何するかわからないもの。そうなるくらいなら、自業自得なわけだし、許嫁にするのが丸く収まると思うの」
俺が心の中で叫んでいると、真莉愛さんはそう意味深なことを笑顔で言ってくるのだった。
うん、その自業自得、翠玉だけであって、俺も風麗も何も悪くないですよね――と思いながらも、雛に嫌われたくない俺は、許嫁を受け入れるしかなかった。
ちなみにこの後、風麗を選ぶので翠玉との許嫁は解消でいいのではないですか、と言った俺なのだけど、『えっ、私の決めたことに立てつく気?』と言われ、何も言えなくなったのは言うまでもない。
てか、この人――何手先まで読んで動いてたんだ……?
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【あとがき】
やっぱり、真莉愛さんの狂気的な行動理由、
1つ目の理由しか触れられなかったですね。
(あと、本文で触れられていないので、2つ目の理由とは言わないだけですが、
英斗が気付くことなくて多分本文ではこの後も触れることもなく、
察しのいい皆さんは勘づいておられると思うんですけど、
翠玉が熱湯よりも英斗を割とすんなり選んだ理由にも、関わってたり…笑)
次話答えを出しますが、
真莉愛さんのあの狂気じみた行動の他の狙いもわかった方がいれば、
是非感想欄で書いてみてくださいb
(ヒント:英斗が雛のされていたことを知ってから、ここまでの○○に注目)
これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪
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