いっとう愛らしいもの
とくに目的もなく、ただの好奇心で陸にあがり、夕焼けを眺めていたときのこと。
ここは海も穏やかで、気温もちょうどいいと評判だ。かくいう私も気に入っていて、よく来る場所のひとつである。
「わたしとお話しましょ、あなたとお友達になりたいの」
そう声をかけられて、声のする方に顔を向けたとき、自分がどんな顔をしていたのかどうかわからない。でもおそらく、情けない顔をしていたんだろうなと予想がつく。
初めての胸の高鳴りだったんだ。初めての感情だったんだ。この出会いを、運命と言わずしてなんと言う。
彼女の一挙一動を、一語一句を、ぜんぶぜんぶ脳に焼き付けた。ふんわりとした亜麻色の髪に、ころころと変わる表情。独特でありながら私にとって慣れ親しんだその香りは、言うなれば磯の香りだろう。よく、海には来るのだろうか。初めての人間に、初めての恋をした。
彼女の名前はエレネというらしい。彼女に似合う、可愛らしい響きの名前。
初めて見た人間という生き物は、物語の中そのままで、可愛らしくて弱々しい。すこし力を入れたら私でも折れてしまいそうな白く細い首。その喉元に噛み付いたら、エレネはいったいどんな反応をするのだろうか?
ああ、早く明日になってほしい。彼女に会えるのが待ち遠しくてしかたがない。
そわそわと落ち着きがないまま、私は無理矢理眠りへと落ちた。
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