最終話 新たな出会い

「本当にシェルダンとおば様を結婚させていいの? しかも慰謝料を減額するなんてっ あなたには何のメリットもないじゃない!」


 シェルダンとパドリアス子爵夫妻が退席した後、セリルが私に問いただした。


「そうだよ、アレット」

 伯父がセリルの言葉に同調する。


「…伯父様がおっしゃったんですよ? 母は子供の頃から何も変わっていない…と」


「え?」


「侯爵家の娘として散々甘やかされ、侯爵夫人として父に溺愛されてきた人が、爵位を失くしたシェルダンとの生活に満足できると思いますか?」


 私の言葉に二人がハッとした。


「確かに…好きな物は何でも手に入れ、身に付けるものは一級品。そんな生活をこの先保てるわけがない。そしてそれにクロディーヌが耐えられるはずもない…」


 伯父が母の今後を想定する。


「シェルダンの方も…一回り以上も年の離れた女性を妻にして、密会を続けていた熱情がこの先も続くとは思いません。若気の至り…という言葉がございますでしょ? それに離縁したくても出来ない。すれば一生かかっても支払えない慰謝料が請求される…」


 私はシェルダンの今後を想定した。


「そんな事まで考え…っ」

 セリルは、話の途中で言葉を止めた。

 私が泣き出したからだ。


「……わ、わた…しは……二人に苦し…で欲し…っ こ、後悔して…しい…この先もずっと…っ…!」


 せきを切ったように、私の目から涙が溢れた。


「ア、アレット…ッ!!」


 セリルが目を潤ませながら、私を抱き締める。


「あ…ぁ…っ…う…あぁ…っっ!」


 愛していた婚約者

 愛してほしかった

 なのに、私の気持ちは踏みにじられた!


 声を詰まらせながら泣く私に、伯父が穏やかな声で語りかける。


「……アレット、幸せになることをあきらめるな。お前が幸せになる事こそ、あの者たちが犯した罪の重さを思い知るのだから」


「……伯父…さ…っ」


 セリルの優しさと伯父の言葉が、私の心に希望を与えてくれた…



 ◇



 婚約破棄から一年が経った。

 シェルダンからの慰謝料は、滞る事なく毎月支払われている。


 そして案の定、シェルダンと母との生活は破綻しているようだ。


 母は実家であるエンディミオン家に一度助けを求めたようだが、“戻るのであれば修道院へ送る”と伝えた所、その後連絡が来なくなったと伯父が言っていた。


 シェルダンは離縁したくてもできない。

 母はどこにも帰れない。


 二人が幸せに暮らす日は……きっと来ないだろう。


 


「アレットったらっ いつまでこんな所にいるのよっ」


 壁際にいた私はシャンパングラスを持ちながら、セリルの方を見た。


 私は今、彼女に無理矢理連れて来られた晩餐会にいる。

 魂胆は見え見え。私の結婚相手を探すために引っ張って来たのだ。

 は~…気持ちはありがたいけど…


「セリル…婚約破棄した理由が理由だし、そんな私がこういうところで出会ったとしても、断られるのがオチ…」


「そんなことないって! その証拠に、あなたとぜひお話がしたいって方をお連れ致しました〜っ」


「久しぶり、アレット」


「………ヘルト?」


 目の前にいたのは、高等学院2年の時に転校していった元クラスメート。

 シェルダンと婚約した時に、女生徒からやっかみを受けていた私を何度か助けてくれた人。


「彼、まだ婚約者がいないんだってっ おまけに三男よっ」


「え?」


 セリルが私に意味深な耳打ちすると、ウインクして去って行った。


 (ちょ、ちょっと待ってよっ この先どうすれば…っ)


 戸惑いながらそっとヘルトの方を振り返ると、懐かしい銀色のフレームのレンズ越しに映る柘榴石ガーネットの瞳が、優しく私を見つめている。


 その瞳にあせりながら彼にかける言葉を探していると、楽団が美しい調べをかなで始めた。


「一曲、お相手いただけますか?」


 ヘルトがやわらかく微笑みながら、私に手を差し出す。


「…光栄ですわ」


 ヘルトの手に触れ、広間の中央に向かって歩き出す。

 明るい曲に心をのせ、私たちは踊り始めた。





【終】









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この代償を与うる者、受ける者 kouei @kouei-166

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