第14話 唯一の女性2 side:クロディーヌ
「セリルに見られた」
事が終わると、葉巻を吹かし始めたシェルダンがふいに話し出した。
「え?」
ここは繁華街にあるホテル。
私とシェルダンは週2〜3回の割合で密会している。
あの日…ロシェルの葬儀があった日、私はシェルダンと口付けを交わした。
後日シェルダンに書簡を送ったら、彼は呼び出しに応じホテルに来たわ。
それからもう…何度身体を重ねたかわからない。
「何を見られたの?」
「伯爵の葬儀の際、君を屋敷に送っただろ? 部屋で君と口付けしているところをセリルに見られていた。さらにホテル街に行くところも。幸いその時は君の後ろ姿しか見られていなかったようだが…彼女から呼び出され、相手の女性は君ではないかと問い詰められた。全て見間違いだとうやむやにしたつもりだが…もしアレットに話されたら…」
「そんなの、否定し続ければいいだけのことよ」
私は彼から葉巻を奪い、軽く吹かすと灰皿に押し付ける。
「けど……んぅ…っ」
言葉を遮るように、彼の唇を塞ぐ。
私といるのにアレットの事なんて聞きたくないわっ
私の事だけを見なさいよっ
考えなさいよっ!
「それより…もう一度抱いてっ ね?」
「クロディーヌっ」
やっぱり若いわね。
さっき終わったばかりなのに、もう
初めてだったシェルダンは、すっかり私との行為にのめり込んでいた。
そうよ…もっともっと私に溺れなさい。
ふふふ、かわいそうなアレット。
あなたの婚約者は私に夢中よ。
そう…しょせんあなたは私の
本物の耀きには叶わないのよ。
私は
私は男にとって特別なのだから!
そのはずだったのに……
シェルダンとアレットが婚約破棄した時に、全てが変わった。
その日はシェルダンと彼のご両親であるパドリアス子爵夫妻、そして私の兄も同席していた。
応接室に呼び出された私は、何も聞いていなかったので戸惑うばかりだ。
「…いったい何なの? アレット!」
アレットはどういうつもりで、みんなを集めたのだろう。
シェルダンは真っ青な顔をして、パドリアス子爵夫妻に挟まれて向かいのテーブルに座っている。
そしてアレットの落ち着いた言葉が皆を驚かせた。
「皆様、お忙しい中、お越し下さりありがとうございます。本日私とパドリアス子爵令息であるシェルダン様は婚約を破棄する事になりましたので、ご報告申し上げます。理由は…あなた自身が良くご存じのはずよね? シェルダン」
「ア、アレット…? どういう意味だい? ぼ、僕には何の事だか…っ」
待って…何が始まっているの?
まさか…私とシェルダンの事が知られて…?
私の不安を決定付けるように、セリルが私とシェルダンの不貞行為を見たと証言し始めた。
待ってっ! 待って待ってっ 待ってよ!!
こんな事をお兄様の前で話すなんて!
「だ、第一証拠がないだろう? なのに、ただの見間違いをここまで大ごとにした責任は重大だぞっ セリル!」
シェルダンが彼女の言葉を否定し続けている。
そうよ、証拠がないわ!
私も否定すれば、誰も信じないわよ!
「そうよ! この事はマテウ家に抗議させていただきますっ」
そう言えば、これ以上セリルは余計な事を言わないはず。
けれど次の瞬間、アレットがテーブルに写真を散らばした。
私とシェルダンの……写真を!
その写真を見たお兄様が怒りに顔を歪め、私の頬を打った。
何度も…っ 何度も!
な…なぜ私がお兄様に殴られなければならないの?!
ただ私はシェルダンと愛し合っただけよっ
シェルダンはアレットではなく私を選んだから!
アレットより私の方が美しかったから!!
悪いのはシェルダンに愛されていなかったアレットよ!!!
でもそんな事…お兄様の前で言えるはずもない。
何度も叩かれた私は床に突っ伏し、ただただ泣く事しかできなかった。
そんな私に構わず、アレットはシェルダンとの婚約破棄の話を進めていた。
シェルダンはかなりの額の慰謝料を請求されたらしい。
そしてその後、アレットの口から信じられない言葉が飛び出した。
シェルダンと結婚しろと…!
「な、何を言っているの?! 彼は爵位を持てないのよ!? そんな人となぜ私が…!」
「あなたに拒否権はないわ、お母様。アルブルグ侯爵家の当主はこの私よ。当主の言葉に従って貰います」
「あ、あなた! 母親である私を侯爵家から追い出すつもりなの?!」
「娘の婚約者を寝取るような母親、私には必要ないわ」
「ア、アレット……」
感情のない目で私を見据えるアレット。
いつも私の機嫌ばかり気にしていたあの子が!
わ、私はただ、ロシェルの代わりに私を支えてくれる男が欲しかっただけよっ
なのに侯爵家を追い出されるなんて…っ
次男のシェルダンは爵位を持たない。
そんな男と私が結婚!?
困惑していると、シェルダンはアレットに許しを乞い始めた。
「ゆ、許して欲しい、アレット! ぼ、僕が愛しているのは君だ! 君だけだ!! か、彼女とは…本当に…出来心で……」
その言葉に、私の中の血が熱く逆流するのを感じた。
私よりアレットを選ぶと言うの!?
私はいつも選ばれる側の人間なのよっ!
なのに、私よりあの子を……っ!
「シェルダン! 嘘はやめて! あなたは私を何度も抱きながら言ってくれたでしょう? 愛してるって! アレットッ あなたはしょせん私の
「うるさいっ 黙れ!」
「シェルダン!?」
この私に、こんな乱暴な言葉を使うなんてっ
なんて男なの!
何なの?!
どうして私がこんな目に合わなければならないの?!
シェルダンからは暴言を吐かれ、お兄様には怒鳴られ殴られた。
しかも、アレットは母親である私をアルブルグ侯爵家から追い出そうとしている!
そんな事、受け入れられるはずもないわっ
だけど、私は侍女たちによってまとめられた荷物とともに、アルブルグ侯爵家から追い出された。
その
これからここが…こんな古くみすぼらしい屋敷が私の住まいだなんて!
使用人は老夫婦のみ。
掃除は行き届いておらず、食事は平民が食べるような粗末な料理ばかり。
シェルダンとは毎日
侯爵夫人の時は毎日のように来ていた招待状は、全く来なくなった。
懇意にしていた夫人たちに手紙を送ったけれど、返事が来ないか、来るのは嫌みな返信だけ。
『新婚生活を邪魔するのは心苦しゅうございます。どうぞ、お若いご主人との生活をお楽しみ下さい』
『宛先をお間違いではありませんか? よくご確認されますように、あしからず』
「何よっ これは!」
私はその手紙をビリビリに破り捨てた。
兄に助けを求めたけれど、“戻るなら修道院へ送る”という返事に絶望した。
ど…して…なぜ私が…こんな惨めな思いを…
あの子のせいよっ
全てアレットのせいだわ!
私は悪くない!
私は
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