第4話 あの日の光を君と、もう一度

体育祭での出来事は、大地と葵の関係を大きく変えた。


大地は「特別」な自分を否定することをやめた。「ハイスペック鈍感系彼氏」から、「ハイスペックでも、君と一緒なら"普通"に笑える彼氏」へと、彼は見事に成長を遂げた。


葵は、友人たちに事の顛末を報告。


「大地君、やっと私に『男の子の欲』を見せてくれたんだ!」と、

興奮気味に伝えた。(「きゃー!おめでとう!」と友人たち)。


悶々としていた性的欲求も、大地との健全で温かい愛情表現を通して、「焦り」ではなく「愛情の深まり」として受け止めるようになった。

 大地が、自分のトラウマを乗り越え、自分に心を開いてくれたこと。それ以上の「特別」はなかった。


体育祭の打ち上げ後、

二人は抜け出し、夜の校舎の屋上に立っていた。少し肌寒い風が、二人の熱を冷ますように吹いている。


大地は葵の手を握り、夜空を見上げた。


「葵、俺はね、あの時の自分の走りを思い出したんだ。誰の目も気にせず、ただ走ることを楽しんでいた、中学に入る前の『あの日の光』を」


「うん、キラキラしてたよ。私が見たかった、大地君の光」


葵は、大地が過去のトラウマや、宮野先輩の件で悩んでいた「鈍感」な自分を、もう一度素直な言葉で謝罪した。


「もう、逃げないで。大地君の特別"も普通も、全部私が見てあげるから」


大地は、葵の瞳に映る自分の顔を見た。

そこには、

もう「畏怖」も「隔たり」もなかった。ただ、純粋な「愛情」だけがあった。


大地は、深く息を吸い込んだ。


「葵、俺は君の隣で、あの日の光を、もう一度見たい。君となら、それができる気がする。…こんな俺だけど、ずっと、俺の隣にいてくれないか?」


大地からの、正式で真剣な、心からの再告白だった。


葵は涙ぐみながら、満面の笑みで頷いた。


「バカ!当たり前じゃない!ずっと一緒にいるよ!」


二人は強く抱きしめ合った。大地は、葵の温もりを感じながら、「特別」であることも、「普通」であることも、もうどうでもいいと思えた。


ただ、この温かい光が、自分にとっての全てだ。



  epilogue


新しい学期が始まった。


結城大地は、正式に陸上部に入部した。もちろん、その身体能力はすぐに注目を浴びたが、大地はもう笑って受け答えられる。女子バレー部が練習試合の際、超ハイスペックな助っ人として、大地が指導に入ることもある。


日向葵は、女子バレー部のエース候補として、日々輝きを増している。


二人は、「ハイスペックな大地」と「普通の陽キャ葵」という一見チグハグなカップルとして、高校生活を謳歌している。


「特別」と「普通」が、最高のバランスで結びついた、二人のラブコメディは、今、始まったばかりだ。


あの日の光を、君と、もう一度。そして、何度でも。


       completion

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの日の光を君と、もう一度 比絽斗 @motive038

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る