第3話 浮気?裏切り?そして爆誕
大地が葵を避けている間、
クズな先輩・宮野隼人の接近は止まらなかった。
宮野は「恋愛相談」という名の口実で、葵に積極的に接触してきた。
「大地くん、ちょっと鈍感すぎない?葵ちゃんみたいな可愛い子が隣にいるのに、全然男らしくないよね。僕ならもっと葵ちゃんを大事にするのに」
宮野はそう言いながら、葵の肩に手を置き、髪を撫でようとする。
「…っ」
葵は直感的に「違う」と感じた。宮野先輩の優しさは、「都合の良い女」にしようとする下心が透けて見える気がした。
大地がトラウマで「鈍感」になっているのに対し、宮野先輩は「計算高いクズ」なのだ。
葵はギリギリで身をかわし、キッパリと言い放った。
「すみません、先輩。私は大地君が好きです。大地君が私に作った壁は、私自身で壊します」
裏切りはギリギリ回避された。しかし、葵はまだ大地にそのことを話せていない。
葵は全てを梓に打ち明けた。大地が未だに自分から逃げていること、宮野先輩に迫られたこと。
梓は、珍しく強い口調で言った。
「大地はね、誰かの期待に応えられない『特別な自分』が嫌なんだ。でも、『特別』な力を出すことが、『特別』な葵を助けることになる。逃げるのは、葵への裏切りだよ。それを大地にぶつけなきゃダメだ」
「大地にとって君は特別なの。だからこそ、自分の『光』で君を傷つけたくない。でも、そのせいで君が泣いている。もう、逃がしちゃダメよ」
葵は、梓の言葉で決意を新たにした。大地から逃げ場を奪うこと。それが、彼をトラウマから解放する唯一の方法だ。
そして、運命の体育祭の日がやってきた。
大地は相変わらず、競技を避けて、隅で目立たないように記録係をしていた。
競技は、女子チームのリレー。葵はアンカーとしてバトンを受け取った。
しかし、その瞬間、事態が起こる。
宮野隼人が、自分の部の準備のために横切ろうとした際、故意ではないが、不用意に葵の走るコースを邪魔した。
「きゃっ!」
葵はバランスを崩し、転倒。バトンがトラックに転がる。
「ごめんごめん、大丈夫?」
宮野は爽やかな顔で手を差し伸べるが、その目には少しの焦りしか見えない。
葵は膝を擦りむきながらも、すぐに立ち上がってバトンを拾う。しかし、すでに大きく遅れを取り、涙が溢れてくる。
観客席の隅でそれを見ていた大地は、体中に電撃が走ったような感覚に襲われた。
(俺は、また『普通』という名の壁に逃げて、葵のピンチを見て見ぬふりをするのか?)
葵の悔し涙。宮野先輩の爽やかな顔。大地の中に、何かが爆発した。
(否。葵を助ける力が俺にはある。それが『特別』でも、葵の光を曇らせるよりマシだ!)
大地は記録係の腕章を叩きつけ、審判の元へ走った。
「審判!今のはコースの妨害です!再走を認めますか!?」
「ルール上は…」と審判が戸惑う中、大地は圧倒的なオーラを放ちながら続けた。
「彼女は今日のために毎日練習してきた。その努力を、一瞬のミスで無駄にさせるんですか!?僕が、彼女の想いを背負って走ります!」
大地の鬼気迫る迫力に、審判は根負けした。「…特別に、最終走者のみ、再走を認める」
大地は、ジャージの上着を脱ぎ捨て、体育着姿になる。
「結城くん…!」葵が呆然と大地を見つめる。
大地は、転がっていたリが生まれていた。
(大地君が逃げてる間に、宮野先輩はどんどん私に優しくしてくれる。大地君は、本当に私を特別な彼女だと思ってくれてるの…?)
ハイスペック鈍感系彼氏爆誕の瞬間だった。
彼の走りは、他の追随を許さない。身体能力を全く隠さず、本気の身体能力を解放した。そのスピードは、高校生のレベルを遥かに超えていた。
(この速さ、この力…!これこそ、中学時代、純粋に陸上を楽しんでいた「あの日の光」だ!)
大地は、凄まじい勢いでトップの選手をごぼう抜き。観客席は、「称賛」と「畏怖」の混ざった大歓声に包まれた。
だが、
大地はもう、その視線に怯えなかった。彼の視線の先には、葵一人だけがいた。
大地はそのままゴールテープを切り、チームを大逆転勝利に導いた。
葵は、泣きながら大地に抱きついた。
「大地君の『特別』は、誰も傷つけない!私を救ってくれた!ありがとう!」
大地は、葵の温かい抱擁の中で、初めて「特別」が「幸せ」に繋がると心から実感した。
体育祭の後、大地は宮野に詰め寄った。
「宮野先輩。葵に二度と近づかないでください。俺の『特別』は、もう、葵を守るためにしか使いませんから」
大地の纏う王者のオーラに、宮野は完全に怯え、その場から逃げ出した。
そして、二人はしっかりと向き合った。
葵は、宮野に迫られたこと、大地に逃げられた寂しさを全て話した。大地は、自分の**「鈍感さ」**がトラウマによる自己防衛であり、そのせいで葵を悩ませていたことを涙ながらに謝罪した。
「ごめん、葵。俺は鈍感で、ずっと一人で悩んでた。でも、もう逃げない。君の隣で、俺の『光』を輝かせたい」
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