第2話 夏休みと焦れ焦れハプニング
高校最初の夏休み。二人の関係には、すぐに細やかな溝が生まれてしまった。
葵は部活に熱中。レギュラーを目指し、毎日朝から晩まで体育館にこもる。大地は、目立たない生活を維持するため、夜間のコンビニでアルバイトを始めた。
デートする時間は減り、LINEでのやり取りもどこか事務的になりがちだった。
葵:「今日、先輩たちと練習試合でミスばっかりしちゃった。悔しいよー!」
大地:「そうか。お疲れ様。ゆっくり休めよ」
大地は、つい「特別」なアドバイス(「スパイクの打ち出しが遅い」「重心移動が少しずれている」など、陸上オールラウンダーならではの的確な指摘)をしてしまうのを恐れ、「普通」の返事しかできなかった。葵は、「もっと踏み込んでほしい」と感じ、寂しさが募っていく。
そんな中、女子バレー部は、男子バレー部との合同練習を行うことになった。
そこで、葵は男子バレー部2年の宮野隼人先輩と急接近する。宮野は、明るく面倒見が良く、誰からも好かれる「普通」の陽キャだった。大地とは対照的に、チヤホヤされることに慣れているタイプだ。
合同練習の終盤、葵は着地を失敗し、足首を捻挫してしまう。
「いっ……!」
「葵ちゃん!」
宮野先輩はすぐさま駆け寄り、葵の体を軽々とお姫様抱っこで保健室に運んだ。その行動はあまりにも自然で、献身的だった。
「頑張りすぎだよ、葵ちゃん。すぐ氷買ってくるからね」
宮野先輩の優しさに、葵の心は揺れる。
大地君には、こんな風に私をリードする、
「男の子らしい気遣い」がない。
大地が練習終わりに見舞いに来た時、保健室には宮野先輩がいた。
宮野先輩は、大地を見るなり、爽やかな笑顔で言った。
「やあ、結城くん。葵ちゃん、頑張りすぎて捻挫しちゃったんだ。結城くんは部活とかやってないから分からないだろうけど、葵ちゃんは本当に頑張り屋なんだよ」
その言葉は、まるで「結城くんは、葵ちゃんの特別な世界(部活)に入れない部外者だ」と突きつけているようだった。
大地の心に、過去のトラウマの影が差す。
(宮野先輩は、優しくて、みんなに好かれて、葵の頑張りを応援してくれる…。俺が持っていない「普通」の善意だ。俺が傍にいると、また「特別な壁」を作ってしまうんじゃないか?)
大地はすぐに声をかけられず、先輩と楽しそうに話す葵を見て
「自分はまた"隔たり"を作ってしまった」
と深く悩んだ。そして、自ら葵から距離を置く選択をしてしまう。
葵も、先輩の優しさに一瞬心が揺れたのは事実だが、大地を信じたかった。しかし、大地はその後も部活の話を避けるようになり、ぎくしゃくした関係が続いた。
そんな中、クラスの共通の友人(大地の地味な生活を心配していた)が、葵に声をかけた。
「葵、最近の大地、なんか変だよ。体育の準備とかで、わざと重いものを持てないフリしたり、わざとドジしてるの知ってる?『俺、力ないんだ』アピール。あれ、無理してるよね。大地が、また昔みたいに目立たないための間違った選択してるんじゃないかと思ってさ…」
葵は、大地の「鈍感さ」が、
実は「トラウマからの自己防衛」であることを改めて突きつけられた。そして、彼が自分を遠ざけているのは、「特別な自分」が葵を傷つけることを恐れているからだと理解した。
だが、葵の心には、彼氏とのすれ違いを起こした悩みの種が生まれていた。
(大地君が逃げてる間に、宮野先輩はどんどん私に優しくしてくれる。大地君は、本当に私を特別な彼女だと思ってくれてるの…?)
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