とにかく最後に尽きます。
「運命みたい」に続く、あの一段ずれた笑み。
かなり素直に、一目惚れの話として続いてきたのに、あの一瞬で物語の見え方が変わってしまう。ロマンチックな偶然に見えていたものが、急に逃げ場のないものに変わるのがぞくっとしました。
金木犀の香りの使い方も印象的です。
最初は実家を思い出すやさしい香りだったのに、だんだん彼女そのものを思い出させる香りになっていって、最後にはそれが不穏さの気配にまで変わってしまう。
見えないのに届いてしまう香りだからこそ、この話の雰囲気にすごく合っていたと思います。
花言葉の「初恋」と「陶酔」も、読み終えるとかなり効いてきますね。
短い話なのに、かわいらしさと不気味さの両方が残る終わり方で、複雑な読後感がある一編でした。
"金木犀"といえば、甘く独特な香りですよね。
少し酩酊するような、重く沈むような、不思議な香り。
この作品からは、ずっとその香りが漂っており、それが"恋の香り"とも取れます。
しかも主人公が社会人だということでリアリティがあり、めちゃくちゃ共感してしまいました。
会社帰りの少し寂しい気持ちが、金木犀によって満たされる。
甘い香りの中で始まる出会いは、香りと共に強烈に脳裏に刻まれて、想いとして積もっていく。
再会を果たす二人に『ハッピーエンド』だと喜んだところで明かされる裏話。
作者様が後書きとして載せていらっしゃる"裏話"を読んだうえで、ぜひ改めて作品を読み返してみてください。
見方が変わると、少し背筋がひやっとしますよ。
金木犀の香りは独特で、今宵も誰かの鼻をくすぐる。物語の主人公もまた、大都会で身をすり減らし疲れ切ったある日の秋に、その香りに誘われる。
そして公園に咲く金木犀の花が、彼女との待ち合わせ場所となっていく。キンモクセイの甘美な香りに彼の心はくるまれる。
その花言葉は「謙虚」と「真実」。恋は人を臆病かつ謙虚にし、彼にとっての真実は彼女の笑顔となる。
しかし金木犀はいつか枯れてしまう。その時、二人の縁も枯れてしまうのだろうか……不思議な秋の物語です。
誰にでも胸襟が開かれたような文章で読みやすく、金木犀のように甘くもかぐわしい物語が好きな方にオススメです。
ちなみに物語の結末につけ、作中でも登場する金木犀の花言葉を思い浮かべます。
それは「陶酔」である、と……。