死がきみを

死がきみを


姉ちゃんに


そろそろ姉ちゃんとも決着をつけるときが来ていると思うんだ。

これは「果し状」なのである


「生きるのを断念するのは

たやすいことだ」と姉ちゃんが言ったとき

どっちの姉だろうか?

殺される方の姉か殺す方の姉か?


どっちか選ばなければならないなんて

不公平な話で不合理なんだ

それが姉ちゃんに分かっているとは思えない

無理に分ける必要なんかない


お前が馬なら私は鞭を打つというのもまやかし

SMごっこは仮の姿で何処かに潜むテロリストの血

だけどぼくは馬でさえなく、狼でもない

でも「一寸の虫にも五分の魂」という

尺貫法は頭が痛い

割りきれないぼくがいるってことさ


そしてぼくの詩が完成したときに

姉ちゃんの死は確実に

ぼくは彼に倣って

「姉ちゃんの死」ではなく

「詩の姉ちゃん」を歌おうと思う



木枯らし一号


クマエで巫女が甕の中にぶらさがっているのを見たが、少年たちが「あんたは何がしたいの」とたずねると、巫女は「死にたいの」だと答えていた。

                     名匠エズラ・バウンドに


十一月はめげる季節だ

士 さむらい 月なんて呑気なことを言っているとあっという間に

十二月だ

十二月は姉さんの月


球根栽培しているって近所じゃ噂の

爆弾娘とは姉さんのことさ

白菊が散るときは

ぼくも一緒さ、覚悟は出来ている


「またいつもの与太話かい

時代が違うんだって、それは遠い夢の世界の話

お前がうけなければならないのはロボトミー手術だね

──そうさ、ぼくたちはロボットのように動かされているのさ

運命っていう奴に

ぼくは姉さんの命令よりも運命に従っている

だから自爆テロならさっさとやってしまおうよ

木枯らし一号がやってくる!

冬将軍もやってくる!



ウサギ変幻


戦闘少女ウサギは今日も穴倉遊び

セーラー服を脱いでバニーガールでお出迎え

ここは砂漠のオアシス 詩のレストラン

ここは地上の国が滅ぼうとも

墓石の中だから大丈夫

なんならあなたのお気に入りの

詩を刻むわ だから安心して

おやすみなさい

月の女神よ、あんまり照らさないで

死者が蘇るわ ゾンビとなって

わたしの家来たちは どこへゆく

そとは廃墟の砂漠の街に

高速ビルが並び立ち 偽のオアシス

そこは邪悪な集会所

踊り踊らされてハロー、ハロー、ハロウィン

聖夜祭じゃなくて性夜祭なのよ

生贄はわたしたち


ウサギは月に代わってお仕置きよ



消された落書き


ここでは落書き禁止の文字と白い壁だけだ。

毎日の通学でも通勤でも通る道。

そこが遮断壁でない限り平和な光景だろうか?

壁に落書きがあった頃

それはガザの壁と繋がっていたのかもしれない。

文字や絵たちが交歓し合っていたのだ。

それはロック・ミュージックの他愛もない愛の言葉だったり、性欲の塊だったりもしたが

今はそんな気配もない。もはや漂白された壁だけがあっちこっちに立ちふさがっている。

ぼくたちは遠い国の物語さえ聞かずにいる。

そんな物語はなかったのだと壁は遮断する。



かた焼きそば


ジョージ・オーウェルの『一九八四年』をどんなに力説しようと彼女には馬の耳に念仏だった。「ウィザードリィ」の暗闇を探るようなものだった。彼女は言う。「ウィザードリィ」に夢中になっているのはあんただけでその間あたしが何をしていると思っているの」


ぐうの言葉も出なかった。だからと言って「かた焼きそば」はないだろう。

せっかくうどん専門店に入って食事をしているのに。

かた焼きそばなんて美味しいと思ったことがなかったというかあれは食事なのか。スナックみたいなもんだろうと思う。


すでに一九八四年は過去になっていたのだ。「かた焼きそば」の抗議だったんだろうか。彼女とのディコミュニケーションをうどんをすすりながら思い出す。

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