修羅雪姫

修羅雪姫(つづき)


二つに裂かれた快楽の舌は男と獲物を喜ばす

  あなたのために舌を這わせる白雪

隠された毒牙は男の肩にしなでかかり寝首を伺う

  あなたのための毒牙はゆっくり修羅雪


黒々とした髪は首にまとわりつきあなたの息を止める

  鼻腔にクロロフォルムの白い布

白い柔肌はどこまでも冷たく絡みつく

  直に熱いキスがご褒美と首筋に毒牙の跡


オン・ザ・ロックの氷を身体に這わせる

  あなたはすでに死者なのだから

あたたの柔らかすぎる皮膚を噛む

  わたしの口からあふれ出る血


あなたが感じる獲物としての諦念

  捧げ物としては立派な態度

あたたの虚空の瞳に白い蛇

  わたしの口から温かい血



夕陽の果てに


ここが行き止まりと彼は悟った。持ち物は何もない。素手で受け取る天の施しや、砂まみれの足を洗う井戸の水が癒やしてくれた。彼は秩序の中のコガネムシが大嫌いだ。そこに植えられたオリーブの木も。彼が願ったのは悪鬼である彼さえ居場所のある住処であった。魔除けの風鈴は邪魔だ。彼の眠りを妨げるものだからだ。次々に彼の孤独を求めて同業者がやってくる。抹香臭い堕落坊主の俳諧師たち。彼は死体をついばむ烏を見るのだが烏はここには住めなかった。ぼくが常に待っていたのは大鴉と信天翁だ。そして自由に羽ばたけるようになるまで休める住まいだった。



意地悪爺さん


そうして意地悪な爺さんは

娘から席を譲ってもらえなかった。

これが終点まで続くのだろうか?

「降りますランプ」を点灯させろ!

爺さんはそう想いながら立っていた


やっと駅につく頃はふらふらで

エスカレーター前でもたもたと

娘は爺さんをひょいと小突くと

爺さんは奈落へ転落して行った



暗渠の春


もののけはたちまち暗渠に閉じ込められてしまった。

闇の中で空想するのは「春の小川」の歌声、恋人よ、歌ってくれるな。

もののけは敷石のしたの暗渠の川に流され

轟轟音 ごうごうおとが響くのだが、誰も聴いてはしない。

誰かが線香を投げ入れた。

そんな光で成仏できるか!

ジュッという音ともにたちまち暗闇。


墓石の蓋は閉じられなんの刑罰の罪人なのか

首切り刺客きめつたい の一刀に

もののけは首を切られ、消え去るのみか、

鬼滅の刃の鬼 えじき となって暗渠に沈む


首は濁流に巻き込まれて、

首は転がり、転がって、

首は 何処(いずこ)にか、

排水溝の外から夕陽が差し込み、夏を葬る秋の風、

風に揺られてもののけの 此声(さけび)は

さながら月に吠える遠吠えの如くに

肢体は散らばり赤潮となりゆく。



まっしろの月


ぼくの月は名月でもないが

ただ一つの月で

ただ一人のぼくで

気づくと後ろから付いてくる

ああ、愛するものよと言う


底なし沼の

水溜り

そこはネット世界で木霊する

今日の月は美しいと

ぼくの月と違う月なのか?


その月は鏡のように

ぼくを裏切る

ぼくの眼の前にあるのは

他人の月

ぼくの月は

ブラック・ホールに飲み込まれた


ああ、うつしい夜と文字は刻む

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