夏が消えたとき

夏の音と言えば昔は蝉時雨だった。

定年退職して童心に返った俺は

毎年「蝉の抜け殻コレクション」をしていた。

しかし今年は近所に一つもないのである

その 理由わけ はすぐに分かった。

街路樹が伐採されてソーラーパネルの設置工事をしているのだった。

それが国のエネルギー対策で地主には補助金が支払われる。

経済的に潤うのは地主ばかりで、虫けら同様我も消えていく。

俺は蝉の抜け殻のように、干からびた脱皮できない蝉の姿になった。


そうして重機の音が今朝も我の叫びともに埋葬するのだ。

蝉時雨の夏と共に。


静かな夏がやって来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る