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それから2年後、純子は大学卒業後、東京の会社に就職した。それを機に上京して1人で暮らしていた。そして、健太と交際していた。健太との交際は順調で、結婚も近いだろうなと思われていた。だが、いつまで経ってもプロポーズの話は出ない。どうしてだろう。純子にもその理由がわからない。
「今年の楽天イーグルスはすごいね」
この年のパリーグは東北楽天ゴールデンイーグルスが快進撃を続けてきた。2004年に設立し、2005年からパリーグに参戦した新興の球団だ。初年度は100敗近くしていて、本当にプロなんだろうかと思うぐらいだった。だが、2006年に就任した野村克也監督のもとで徐々に力を付けてきた。2011年からは中日ドラゴンズや阪神タイガースを率いて、リーグ優勝に導いてきた星野仙一が監督に就任した。闘志あふれる名将が就任して、さぁこれから強くなっていくだろうと思われていた。だがその矢先に、東日本大震災に見舞われた。それでもチームは、がんばろう東北を合言葉に、ここまで頑張ってきた。特に、嶋基宏選手の「見せましょう、野球の底力を。見せましょう、東北の底力を」のフレーズが印象に残っている。
「マー君が負けないもん」
そして、この快進撃を支えていたのが、エースの田中将大、通称マー君だ。去年から全く負けていない。リーグ優勝も、クライマックスシリーズでも胴上げ投手だった。今年のリーグ優勝、クライマックスシリーズ優勝の原動力は田中将大だと言っても過言ではないだろう。
「そうだね」
と、純子は空を見上げた。今頃、天国の家族はどう思っているんだろうか? 創立以来、家族はずっと東北楽天ゴールデンイーグルスを応援してきた。どんなに負けても、地元のチームという事で応援してきた。星野仙一が監督に就任した時には、いつか日本一に導いてくれるだろうと思っていた。だが、それを見る事なく、東日本大震災でみんな死んでしまった。
「きっと、家族も天国で応援してるだろうね」
「うん」
健太にもその気持ちがわかった。きっと、応援しているだろうな。
「ここまで快進撃を続けるって、誰が予想したんだろうね。2005年はあんなに負けて、東日本大震災を経験したのに」
「そうだね」
ふと、純子は嶋基宏選手の言った言葉を思い出した。
「見せましょう、野球の底力を。見せましょう、東北の底力を」
「ここまで頑張るとは」
ここまで頑張ると、日本シリーズに進むと、誰が予想したんだろうか?本当に感動的だな。
ふと、健太は1995年の1月17日に起こった、阪神・淡路大震災を思い出した。あまり覚えていないが、大きな揺れだったと聞く。多くの死者が出て、全国各地から、そして世界からボランティアがやって来たという。純子はその事をあまり知らない。だが、毎年1月17日になると、追悼式典が行われるので、ある程度は知っている。
「きっと、東北のみんなの想いがここまで導いてくれたんだろうね。僕が幼稚園の頃、阪神・淡路大震災が起きて、その年に神戸のプロ野球チーム、オリックス・ブルーウエーブがリーグ優勝したんだよ。そして、翌年にはリーグ連覇、日本一になったんだ。あの時は、『がんばろうKOBE』を合言葉に頑張ったんだよ」
そしてこの年に神戸の人々を励ましたのが、オリックス・ブルーウェーブだ。この年は『がんばろうKOBE』を合言葉に快進撃を続け、リーグ優勝に輝いた。その時は、スポーツの力というより、人々の力を感じた。そして、阪神・淡路大震災で被害を受けた人々を大きく勇気づけた。その年の日本シリーズでは、注目されていたイチローがヤクルトスワローズ得意のID野球で攻略されて、日本一になれなかった。だが、翌年もリーグ優勝を果たし、そして日本シリーズでは読売ジャイアンツを下して日本一に輝いた。
「そうだったんだ。あの時みたいだね」
「うん」
その時、健太は何かを言いたそうな表情をしていた。何を言いたいんだろう。全くわからないな。
「どうしたの?」
健太は横を向いた。その声で、健太は我に返った。
「何でもないよ」
だが、健太は何も言おうとしない。純子は首をかしげた。
11月3日になった。昨日の第6戦は田中将大が先発だった。東北楽天ゴールデンイーグルスは日本一に王手をかけていたので、これで日本一は決まったと思われていた。だが、田中将大が負けた。そして、東北楽天ゴールデンイーグルスは3勝3敗になった。日本一の行方は最終戦、第7戦までもつれ込んだ。まさか、今年全く負けていなかった田中将大が負けるとは。誰もが予想だにしなかった。
「まさか負けるとは」
「マー君・・・」
田中将大は来年、メジャーリーグに行く事が濃厚になっている。最後も勝って、日本一を置き土産に、メジャーリーグに行ってほしかったのに。どうしてこんな事になったんだろう。このまま、巨人が日本一になってしまうのではと思っていた。
と、健太は思った。今日は大切な日だ。2人とも休みだ。今日は仙台に行こう。その目で、第7戦を見よう。東北楽天ゴールデンイーグルスの日本一を見届けるんだ。
「どうしたの?」
「今日、仙台に行こう!」
それを聞いて、純子は驚いた。まさか、仙台に行くとは。どうしてそう思ったんだろうか? 日本一の瞬間を現地で観たいと思ったんだろうか?
「どうして?」
「仙台で日本一の瞬間を見届けるんだ!」
純子は興奮した。まさか、現地で日本一の瞬間を見届けるとは。もし見れたら、とても嬉しいな。だけど、席を取れるんだろうか? 心配だな。
「本当?」
「うん! 行こう!」
2人は急遽、仙台に行く事にした。仙台は東京から新幹線でそんなに遠くない距離だ。
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