3.11と11.3
口羽龍
1
ある日、東京に住む小学校5年生、橋本将(はしもとしょう)は気になっていた。どうして両親は出会ったのだろう。先日、友人に聞かれて、とても気になっていた。それまで、両親の事はあまり聞いた事がなかった。聞いてみようかな?
「ねぇママ」
「どうしたの?」
夕食を作っていた母、純子(すみこ)は振り向いた。リビングには父、健太(けんた)がいる。健太はテレビを見ている。今日は休みだ。しっかりと休んで明日からの仕事を頑張らないと。
「どうして2人は出会ったの?」
それを聞かれて、純子は重い口を開いた。それほどつらい思い出なんだろうか?
「そうねぇ。私は岩手県の漁村で生まれたの。で、2011年のが3月11日に東日本大震災が起きて、自分以外の家族をみんな失ったの。だけど、多くの人が助けに来てくれたの。その中に、健太さんという人がいたの」
それを聞いて、将は驚いた。東日本大震災は聞いた事がある。毎年3月11日になると、14時46分に黙とうをするから。小学校でもやっているが、まさか、純子がその被害を受けたとは。
それは2011年の3月11日に起こった。大学生だった純子は里帰りで岩手県の実家に来ていた。だが、この日の14時46分に起こった東日本大震災によって、全てを失ってしまった。自分以外の家族をみんな失ってしまったのだ。自分だけを残して、どうしてみんないなくならなければならないんだろう。どうして神様はこんなひどい事をするんだろう。純子はがれきの山となった家の前で泣いていた。
「何もかも失っちゃった」
「純ちゃん大丈夫?」
純子は顔を上げた。そこには友人の朱里(あかり)がいる。だが、純子は泣き止まない。よほどショックだったんだろう。こんな事が起こっていいんだろうか? あまりにも現実とは思えない。悪い夢で見ているようだ。
「大丈夫じゃないよ! みんな失ったんだもん」
「そうだね。だけど、みんなの分も頑張らないと」
純子は思った。どうして朱里は明るく振る舞っているんだろうか? 家族をみんな失ったのに。どうしてこんなに前向きなんだろうか? 悲しまなければならないのに。
「そうだけど、私たち、どう生きていけばいいのか・・・」
純子はまた泣いてしまった。朱里はそんな純子をじっと見ている。何とかしてやりたいと思っても、何にもできない。そんな自分が無力でたまらない。
「どうか、みんなの分も生きて!」
「うーん・・・」
それでも純子は立ち直れない。朱里は純子を心配そうに見ていた。あとどれぐらい経てば、その悲しみから立ち直れるんだろう。よほどの時間が必要なのかな?
1週間が過ぎた頃から、全国からボランティアがやって来て、炊き出しや手当、救出作業をしていた。純子は彼らをじっと見ていた。みんな真剣だ。人間の協力する力、乗り越える力、支えあう力って、ここにあるんだろうかと思い始めていた。苦しい時こそ、みんなで結束して乗り越える、そして元の生活を取り戻す、それが人間じゃないのかと思っていた。
と、その中に1人の男を見つけた。自分と同じぐらいの年齢の男性のようだ。その男性は一生懸命ボランティアをしている。とても真剣な表情だ。その男に、純子は一目ぼれした。
「あれっ、この人、昨日も来ていた」
純子はその男に近づいた。どんな人だろう。気になるな。
「あっ、こんにちは」
男は振り向いた。まさか、誰かに話しかけられるとは。この女性は地元の女性で、東日本大震災の被害を受けたんだろうか?
「どうした?」
「昨日もここに来てましたよね」
確かに来ていた。それがどうしたんだろうか? みんなが困っているから、それが普通だと思っているようだ。
「ああ。僕、東京の大学生なんだけど、春休み中でボランティアでここに来てるんです」
大学生だと聞いて、純子はびっくりした。大学生がボランティアで来ているとは。とても積極的だな。自分も見習いたいな。
「そうですか」
「春休み中に東日本大震災が起きて、休んでいては失礼だと思ってね」
男は休んでいる事を気にしていた。今、東日本が東日本大震災で大変な事になっているのに、自分が休んでいて本当にいいんだろうか? 今こそ、頑張らなければいけないのでは? そう思って、ここでボランティアをしているという。だが、大学があるので、大学がまた始まる前には東京に戻らなければならない。
「私たちのために、ありがとう!」
「なーに、大変な時に助け合うのが人間じゃないか」
男は笑みを浮かべていた。ボランティアをするのは苦しくないと思っているようだ。
「そうだね!」
男は思った。この人にまた会いたいな。こんな気持ち、初めてだ。初めて会うのに、こんなに好きになったのは。この気持ちは何だろう。
「また会いたいな」
「会えたらね」
純子はその場を去っていった。またこの人に、この場所で会いたいな。
その翌日も、その人は来ていた。今日も真剣な表情だ。今日は炊き出しをしている。こんなに頼もしい人だとは。きっと大学でもこんな頼もしい人なんだろうな。大学では、東日本大震災のボランティアをしていた事を話すんだろうな。みんなから賞賛を受けるだろうな。
「今日も来てるな」
何かに気付き、男は振り向いた。そこには純子がいる。まさか、また会うとは。この近くに実家のあった人かな? それとも、僕の事が好きでここにやって来たのかな?
「あっ、また会ったじゃん!」
「こんにちは」
純子はお辞儀をした。少し恥ずかしそうな表情だ。
「名前、聞いてなかったね、私、岩原純子」
「僕は橋本健太」
橋本健太というのか。いい名前だな。
「遅れたけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
純子は笑みを浮かべた。健太にまた惚れた。こんなに優しい人なら、一緒になってもいいな。そして、純子はある目標を立てた。東京の会社に就職して、健太と交際したいな。そして結婚できたらいいな。
「苦しいけれど、頑張ってね。僕も、ボランティアという形で頑張るから」
「ありがとう」
だが、健太は少し寂しい表情だ。どうしたんだろうか? まさか、もうすぐ東京に帰ってしまうんだろうか?
「春休み終わったら、また東京に帰っちゃうんだ。どうしよう」
健太は思っていた。ここで生まれた友情、簡単に終わらせたくない。その友情をもっともっと深くしていき、いつか交際して、結婚に至れたらいいな。
「また、会いたいな」
それを聞いて、健太は驚いた。純子もそう思っているとは。まだであったばかりなのに、まさかそう言われるとは。
「本当? 僕も会いたいよ」
「いつか、東京で会おう!」
「うん!」
純子は思った。いつか東京で再会したいな。そして、交際して、結婚したいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます