第2話
42歳が急に高校生になっても、ついていけないことばかりだ。何はともあれ、とりあえずは高校に通わなければならない。昔を思い出しながら……いい思い出がない高校生活を、果たして続ける意味なんてあるのだろうか。このまま人生を終わらせる方がいいのではないか。 この先、生きていてもいじめられて、最後は殺されるのだから。苦しまないうちに早く人生を終わらせるのも一つの手ではないか。もし、早くに玉野と出会ってしまったら……。
悍ましいことを考えるのはやめよう。教科書の内容から、僕の予想ではまだ高校1年生のはず。だったら、僕のいじめは本格化していないはず。誰にも見つからず高校生活を営むことができる可能性も少なからずあると思う。せめて高校は出ないと、前の人生よりもろくな人生にはならない。
だが、どうやって静かな高校生活を営むというのか。前回の僕だって派手な行動は何一つしていない。玉野たちにいじめられるようになった原因なんて、僕にはわからない。いじめられている方にも原因はあるっていうけど、相手が理不尽だった場合は原因なんて存在しない。ただただ視界に入ったから。そんな意味もわからない理由でいじめが始まる。
この国では、いじめを行った人間の方が優遇されている節もある。いじめを受けるのは、僕みたいに周りに馴染めない人間。流行に疎く、物事への関心が少ない。ここで単につまらないやつとされるのであれば、こっちだってある程度は割り切れる。だが、現実ではそうはいかない。リーダーシップをとる奴が、適応できない人間を排除しようとする。そいつの周りには、いじめられたくない。底辺よりは上でいたい。人を見下したい。そんな人間が集まる。それがたとえ少人数だったとしても、狭い教室内で憲兵のように自己意識による権力を振るえば、誰も的になりたくなくて、周りは反応を失うか、賛同する。
そんなことが教師には「決断力があり、みんなを引っ張っていく力がある」と映る。 ふざけんな。ただのいじめだろ。ひいては犯罪だろ。馴染めないからって脅していいことにはならないんだぞ。強要していいことにはならないんだぞ。笑いものにしていいわけじゃないんだぞ。暴力なんてもってのほかだ。はぐれ者だからって何でもしていいわけじゃないんだぞ。
もちろん教師は、こんな人間を助けたりなんてしない。ドラマのような熱い教師なんて、この世には存在していないのだから。みんな見て見ぬ振りだ。それか僕が怒られるかだ。
「もっとみんなに馴染めるようにしなさい」「協調性を育みなさい」「誰でもいいから悩みを打ち明けられる友人を作りなさい」 リーダーシップをとっていじめている奴らがすべて奪っておいて、今さら共生も友達もできるわけがない。そんな簡単なこともわからないのに、どうして教師なんてしているんだ。いじめがお互いの問題なわけないだろ。一方的にいじめている方が悪いに決まっているじゃないか。
何度でも言うが、いじめは犯罪だぞ。それを肯定できる教師の方がどうかしている。話し合いで解決できるとか思っているこの担任が特に。甘すぎる。お前が介入したおかげで、いじめは酷くなったんだぞ。聞いているのか原佐和子。気に入ったやつばかり贔屓して、嫌いな奴は無視をする。教室内で格差を作っておいて、何が教師だ。確かに社会は格差しかないかもしれないが、お前みたいな奴がいるから、もっと差が広がるんだ。なんでこんな奴が教師をしている。さっさと辞めて視界から消えてほしい。
ああ、やっぱり無理だ。こんな教室にいたくない。胃も頭も痛い。空気が澱んで本当に気分が悪い。今日は一日寝ていよう。何もしない方が楽だ。
明日からはどうしようか。学校には来るべきなんだろうか。行きたくないな。午前中も午後も、何度教師に起こされても狸寝入りを繰り返して、授業は何も聞いていない。クラスメイトには誰にも話しかけられることはなく、一日を終えた。
誰も僕を見向きもしない。近寄ろうとしない。生きている意味なんてあるのかな。明日からの学校なんてもういいや。僕がいないことで困る人間なんていないのだから。
本当に生きている意味がないな。過去に戻れたら何か変わるかもって思っていたけど、結局は何も変わらない。苦しい人生をもう一度歩むだけだ。それなら、早く終わらせてもいいのかな。こんな世界に価値はないから。
自殺。一番に思いついたのは首吊りだった。 だけど、この間首を吊られて殺されたことを思い出すと、縄を買う勇気が出なかった。
他には薬物を大量に服用し……どこにそんな薬物がある。ドラッグストアで買えるほど、知識も金もない。焼身や溺死は苦しむ時間が長いらしいし、電車に身を投げるのは親とかにも迷惑がかかるらしい。大々的に報道もされるし、近所付き合いも悪化する。
残るは飛び降りか。こちらも迷惑がかかるかもしれないけど、電車よりはましだろう。お金もかからないし、高い場所からなら即死の確率も高い。苦しまなくて済む。
高校の近くにできて10年もしない市営住宅がある。高さは14階。誰でも入られる造りになっているから、何年かに一回、自殺する人が現れる。市営住宅で自殺した人間の中に僕も仲間入りする。
そう思っていた。自殺するなんて至って簡単で、怖くないって思っていた。だけど、いざ14階から地面を見ると、思っていたよりも高く、足が震えて最後の一歩が出なかった。
とりあえず叫びたかった。誰もいない田舎の畦道を走りながら叫んだ。僕が根性なしなことくらい初めからわかっていたじゃないか。できないことくらいわかっていたじゃないか。
以降、僕は学校に行くことをやめた。
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25年前の僕へ、 倉木元貴 @krkmttk-0715
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